第185話.原宿ギャル
1994年
TQM手法で商品を検証した結果についての報告会がもたれた。今日のテーマ機種は2代目「ホンダトゥディ」である。7年ぶりにモデルチェンジしたトゥディは、バブルが弾け市場が冷え切っているさなかに発売された。販売店の期待は大きかったが、それに反して売れゆきの方は芳しくない。
報告内容は、その原因の解明が中心となっていて、纏めるとこう言うことになる。
1)デザインの好き嫌いが激しい。
2)テールゲートタイプでない(トランクタイプは使いにくい)。
3)ボンバンでない(乗用車タイプしかない)。
ここで2年前の、2代目トゥディの企画段階を振り返ってみる。当時議論の焦点になったのは、初代トゥディがボンバン(商用ボンネット・バン)のみと割り切って企画したのに対し、2代目では、その点をどのように考えるかと言うことであった。
軽自動車は、ホンダの国内販売台数のかなりの部分を占め、とくに販売を受けもつプリモ店にとっては、きわめて重要な機種である。お店としては、まずは台数と言うことになるが、ホンダとしてはそれだけと言うわけにはいかない。「軽」は大きな車と比べ、材料もつくる手間もさほど変わらないのに、安い値段しかつけられない辛さがある。メーカーにとっては、決して儲かる車種ではない。
今回も「軽」事業の利益体質化を目指し、コスト低減の検討が強力に進められてきた。が、そもそも、初代トゥディはぎりぎりのコストで出来ていて、これ以上のコストダウンは、大幅な台数の拡大がない限り見込めない。もし台数維持であるなら、付加価値型にする以外ない、との意見が体制を占める。
軽自動車のユーザーの多くは、ことに初代トゥディの場合は、大都市周辺の若い女性が多い。こういう人たちがターゲットなら、2代目トゥディも、ボンバンタイプに固執するより乗用車タイプに割りきった方が、との開発部隊の意見が強く働いた。そしてついに、ボンバンをやめ乗用タイプ一本で、と言うことに議論は落ち着く。
コストが下げられないなか利益を確保するには、付加価値をつけ少々高くても売れるようにすればよい。それには、購買意欲の高い都会志向の若い女性に好まれるよう工夫することだと考えた。
原宿には、東京周辺の若い女の子たちが集ってくる。ここで流行るものは、「口コミ」や「マスコミ」であっという間に日本中に広がってゆく。だから、原宿で似合うなら車ならば、日本全国津々浦々、どこにでも受け入れられるに相違ない、そう目論んだのである。こうして、開発チームは「原宿ギャル」をターゲットユーザーに定めた。当時、巷で言われていた「アルトおばさん」「ミラ姉ちゃん」に張り合ってのことである。