第150話.爽快な走り
1989年
本格スポーツカーの開発が順調に進み、目標とする性能(250馬力)も、ほぼ達成できる見通しがついてきた。そんな頃、本田技研社長の新春記者発表のための原稿づくりに手を貸せと、正月休みというのに、都内のホテルに呼びだされた。
ここのところ、ホンダの人気はパッとしない。「らしくない」とか「大企業病」とか言われ始めている。アコードをはじめとする乗用車路線に力を入れてきた結果であろう。そこで社長のスピーチでは、そうしたイメージを一日も早く払拭しようと、ホンダの技術の向かってゆくところを、強く主張していくことになったようだ。
先のことを述べるに当たって、現在ホンダが他に先進し独自性を持っている技術はと言えば、何と言っても「V-TECエンジン」である。議論を重ねて、大筋は「V-TEC技術」を中心に据えた商品展開ということとし、「これからの環境・エネルギー時代に「爽快な走り」を提供するため、「全車V-TEC化」「を主張していく」とのことに基本方針を固めた。
「爽快」については、考えに考え抜いた言葉であったが、案の定、周りからはパンチがないとか、インターナショナルな言葉ではないとの意見がでる。それでもこの時には、「V-TECフィーリング」を表現するのに、これ以上相応しい言葉が見つけられなかった。
ここまでは議論も順調だったが、具体的な話になって、「それにしても、ホンダの走りの象徴とも言うべきスポーツカーに、V-TECがないのはいかがなものか」と言うことになる。
NSXに何としてもV-TECをと、正月開け早々から突貫作業に突入した。チームには、「やった」という喜びと、「本当に出来るのか」という不安が一気に訪れたが、誰もが、これでやっと「魂」が入ったと思ったものである。
V-TEC化は、エンジン性能の向上(250馬力から280馬力へ30馬力アップ)に繋がり、変更は、当然ディメンションやデザインにも大きく及んだが、誰ひとり文句も言わず、むしろこれ幸いと、これまでやり切れずにいたものをどんどん取り入れていった。
デザインでは、特徴であるテールフィンとリアコンビネーションランプの一体デザインなど、この時に生まれた。そしてこの頃、栃木の高根沢新工場には社内公募で手作り名人が集結し、「匠の技」にさらに磨きがかけられていた。アルミ溶接ラインやアルミボディ専用塗装ラインなど、目新しいラインができ上がろうとしている。
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