第186話.小粋なボンバン
1994年
2代目「ホンダトゥデイ」の企画段階を振り返ってみると、議論の中心はテールゲートの扱い。テールゲートタイプだと、後部荷台になんでもかんでも放り込むので、車内が汚らしくなるのは必定。トランク付きにすると、ロードノイズが抑えられるし、何よりもコストが下がる。
それにもっと乗用車らしくなるし、「オースチン・ミニ」のような小粋な車になれば、たたき売りをせずとも本当に欲しい人に買ってもらえる車になるはず、と開発部隊考えた。
営業部隊は、こうした考え方では台数が望めないと大いに心配する。彼らとしては、従来のユーザーを重視したいところだったが、これまでの延長線では利益を上げられる見通しがないことも確かだ。
またこの頃営業部隊は、新たな施策として利益体質化のため小型車販売への転換計画を進めていたところでもあり、強い反対はできなかった。結果的には、開発部隊の主張を押しつけたかたちになる。が、売り出してすぐ、市場の評価がはっきりと出てきた。軽自動車は安くて便利な乗り物でなければ、と思い知らされる。
初代のトゥディは、骨格が個性的であったが嫌みのない形をしていた。それに対し2代目は、骨格が当りまえなのに形や線で特徴を出そうとした結果、人による好みがはっきり分かれてしまった。
この時期、是が非でも台数が欲しい営業の人たちから、四輪企画室としての覚悟を迫られたようで、すぐさまやるべき事柄を申し合わせた。その主な内容は、まずはテールゲートを付けること、それに嫌われる原因になっている「Jライン」の改良である。
2代目の開発で反省すべきは、ターゲットユーザーを頭の中だけでつくり上げ、原宿で流行ることは全国に広がる、などとした一人よがりの見方にある。テールゲートを付けるのは、開発部隊にとって面白くないこと。自分たちが強く主張してきたものを、自ら否定するのだから。が、嫌々やるのでは良いもが出来るはずがない。
軽自動車を本当に必要としている地域を廻って、お客さんやお店の方々に怒られ嘆かれ、本当にこの作業が必要であることを開発チーム自らが実感した上で、お客さんの真の声をもとに企画しようと話し合った。
時間も工数もコストも、どれをとってもかなり大変な仕事となる。やがてでき上がったモデルを、発売に先立ち、お店のみなさんにお披露目することにした。結果は大好評。もちろん、売り出してから、お客さんに喜ばれたのは言うまでもない。