
第19話.あわせたてつけ
1968年
「ホンダH1300」セダンは、量産立ち上がり段階にあった。開発チームは、トランク後面のガーニッシュ(飾り板)の「あわせ」と「たてつけ」問題に直面していた。この車のリヤ廻りのデザインは、立体感を強調するために、車幅一杯の大型樹脂ガーニッシュの中にテールランプをビルトインした一体型デザインになっている。
そのガーニッシュは、左右のテールランプ部と中央の部分の3つのピースに分かれているが、これを一体にできているかのように見せることにより、この頃、上級車の潮流であった幅広感や高級感を出そうとしていた。が、ボディの溶接行程後の組立段階で、3つのピースをボディの座面に取り付けようとしても、座面の中にうまくおさまってくれない。
そこで3つのガーニッシュと、ボディ外板の取り付け座面の外寸を測ってみた。コンプリートされたガーニッシュの方は、多少大きめではあるが、こちらは規定の公差内におさまっている。が、ボディ側の座面の方は、図面の指定寸法より10mmほど小さくでき上がっていた。
どんな部品でも、図面の寸法通り正確につくることは出来ない。わずかの誤差は必ず生じてしまう。だから「公差」をあらかじめ決めておき、指定の寸法に対して多少の誤差があっても、この範囲内であれば「よし」としている。量産でのボディ溶接治具は外側基準(試作は内側基準)になっているのはそのためなのだ。
「ルーフ」や「フェンダー」を治具に合わせて溶接してゆくと、外側が押さえられているので、それぞれの誤差はボディの内側に向かって蓄積されてゆく。最初のうちは、ボディの各部分、特に開口部分などは、図面よりも少し小さくなりがちである。だから、組立て行程が順調に流れるようになるまでには何回かの修正が必要であり、「ボディ精度を安定させるためには手間がかかる」と言うのが、この頃の共通の認識だった。
関係部所が集まり対策会議が始まる。状況から言って、原因は明らかにボディ側にあったが、何しろ大きなものだし部品の点数も多く、これらの修正には大変な手間と時間がかかる。ガーニッシュ側を修正する方が多少は楽とも言えたが、一時しのぎの対策となり、ボディや溶接精度が上がればまたやり直しとなってしまう。
「あわせたてつけ」と簡単に言うが、たくさんの部品にはその分だけつくった人がいて考え方もある。これらをうまく関係付け最善の方向に束ねていくことが解決の糸口となった。