
第95話.七度目の正直
1980年
2代目「ホンダプレリュード」の企画案、これまで何度評価会に臨んでも、評価委員長(本田技研社長)からは「うん」とは言ってもらえない。すでに6回を数えていた。その理由が「インパクトが足りない」であることは、チームも重々承知。
評価会が差し戻しになる度に、次回の評価会までには、デザインの明確な特徴付けや、エンジン性能のさらなる向上にと努力を重ねてきたが、何回やっても結局のところ、改良としか受け止めてもらえなかったようだ。
それに反してコンセプトの説明資料は、想いだけがエスカレートして美辞麗句の羅列となり枚数も増える一方で、評価会の度に「実体」とは乖離して行った。そして今回はとうとう、「言っていることと、やっていることが違うじゃないか」と言われてしまった。
「やってる」ことに「言ってる」ことを合わせるならまだしも、「言ってる」ことに「やってる」ことを合わせろ、と言われているのだから始末が悪い。お前が巧いこと言い過ぎるからだと周りから責めたてられた。そんな訳で7回目は、「お前一人で行って来い」という羽目になる。
考え抜いたすえ、何枚もあったコンセプトの資料はたった一枚に絞り込んだ。入魂の一枚である。基本コンセプトは「誰にでも手の届く、2プラス2・スペシャリティー2ドアクーペ」とした。
技術コンセプトは、「FF・CVデュアルキャブ付・2 リッター130馬力」「低全高/ワイドトレッド・ダブルウィッシュボーンサス」「ローアンドワイド/ラップラウンドインパネ」。
加えてデザインコンセプトは、「パッと見て、グー」とした。「一目で分かる特徴を持ったデザイン」というところ。この頃評判になっていたテレビコマーシャルのキャッチコピー、「ハッとして、グー」をもじったものである。
もちろん、7回目は見事「うん」と言っていただく。7回という記録は、これまでの最多記録となった。チームのみんなもさすがに喜んでくれた。この一枚のコンセプト資料が、その後のホンダの機種開発企画書の雛形となった。
このころ覚えた言葉に「文質彬々(ぶんしつひんぴん)」がある。何事も「見えるところ(外見)」と「見えないところ(中身)」は「同じ」であることが良いと。その後間もなく、2リッターエンジンはレスポンスの良い1.8リッターの新エンジンに変更された。発売後、世界中どこへ持って行っても、この車は「ホンダらしい」と言われたのである。