第88話 トールボーイ
1979年
研究所所長がみえて、「大変だろうけど、ひとつ押し込めないかな」と。2代目シビックのデザインがほぼ纏ってきた頃である。そのシビックだが、アメリカを中心とした海外市場からの要望や、厳しくなった安全・エミッションなどの法規対応で、ボディサイズは初代に比べ一回り以上も大きい。
そんな訳で、「もし、このサイズが日本の市場で受け入れられなかったら」との不安が、開発を通して常につきまとっていた。と言うのも、「ライフ」の生産中止以降、販売店からは軽自動車再開への要望が根強くあり、今回のサイズアップで、その要望に拍車をかけるのではと。
この頃、日本市場でホンダは、シビック、アコードという乗用車路線と低公害エンジンを強く推し進めてきたこともあって、昔を知るホンダファンからは、「元気がない」とか「スポーティじゃない」と言われ始めていた。これらへの対応として半年ほど前から、元気のいい「小さなクルマ」の検討が進められていたが、中々思うようには捗っていない。
何故ならその手法が、2代目シビックのハードウェアをそのまま使い、ただただ小さくしようとしただけのもので、デザインをするにも限界があった。このままでは前に進めないとして、所長の肝煎りで本格的に取り組むことになる。
集められたメンバーの平均年齢は20代が中心。とにかく、どうすれば「小さく」つくれるかをテーマにみんなで知恵を絞る。そうした中から、車体設計の腕利きのWさんと30歳前の若手H君が提案する「背を高くして、全長を短くする」というコンセプトが採択され、その構想をもとに、デザイン作業が開始された。
議論の末、「高効率(経済的)な車」が合い言葉となる。居住性レイアウトは「ルノー4」を参考にし、「初代シビックの経験を生かして」、と言うことになる。サイズは、バンパーを外したら「軽」の長さ、3.2mに収まることを歯止めとした。
この基本骨格のもと、デザインは「トールボーイの外観」「ポケッテリアの内装」をキーワードとし、エンジンは「軽」並の燃費を目標にした高効率型、1200cc・ロングストローク・CVCC・軽量コンパクトとして開発が進む。
この極端に短い全長のパッケージは、レイアウトの妙味もさることながら、エンジンやフロントサスペンションのコンパクト化でエンジンルーム長を極力短くしたり、リアサスペンションの室内への突起をできる限り少なくすることで可能となった。
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