第151話.明快さと独創性
1989年
栃木研究所の幹部を前に、「世の中が大きく変わろうとしているのに、今の研究所は100年1日の如し、である。お客さんに喜んでもらうには、もっとお客さんを知ることだ」と、本田技研社長が手厳しく。
世の中、右肩上がりの経済発展にも行き詰まり感があった。世評ではホンダのことを、T社みたいになってきたとか面白くなくなってきたと。また、栃木に集約した4輪開発部隊が肥大化し、得意の小廻りが効かなくなったのではとの懸念も。
実にタイミング良く、我々が一番気にしているところをグサッとやられた感じ。話の最後に、「お客さんに、新しい発見と夢とドラマを感じてもらえる商品をつくってくれ」と言って帰られた。
その後一ヶ月くらい、主要メンバーが都内のホテルに缶詰になって議論。方向の見えたところで中間報告会をもち、「この課題は、研究所が率先するは当然として、本田技研全体で取り組めばより効果が上がるはず」と申し上げた。結果、経営会議に答申することに。以下、その要旨である。
ホンダの4輪は、ふた昔前はマイナーリーグであった。今は200万台、立派にメジャーリーグ(5位)入りしている。特に北米では、「真面目でまとも」が認められ信用信頼を築いてきた。が、日本では「面白くない、意外性がない、ラインナップは上から下まで皆同じ」と揶揄されている。
これからは250万台に向けて、価値観が多様化する中、幅広い客層に対して「ちゃんとしている」だけでは駄目で、「楽しさ、面白さ」の幅を広げることが肝要。
将来はワールドチャンピョンシップ(リーディングカンパニー)を目指し、それに向けて、GM、トヨタを超えた体質をつくって行きたい。さしずめ、「トヨタ以上の信頼感」に「ホンダのアイデンティティ」がプラスされれば鬼に金棒というところか。
そのためには「新しい発見、夢、ドラマ」をお客さんに感じてもらえる企業たることが必須。そのことはとりもなおさず、「物」を売るのではなく「物事」を売ってゆく「情報価値創造企業」になることで、そのためには「明快さと独創性」こそが、ホンダの最も誇れる特色であるとの主張が重要となってくる。
お客さんと企業を繋ぐのは「商品」であり、ホンダにとって、その「命」とするところは「ドキドキ・ワクワク」である。また、今のお客さんは生活に「ジョイ(楽しさ、面白さ)」を求めているから、企業は「エンターテイメント」を心がけることが大切である、と進言した。