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第206話.金ぴかの「猿の腰掛け」

1996年

内装は、思った以上に心配事が多い。まず、「樹脂コンコン」と言っているインパネだが、品質感を出すのはもとより難しい。シートも縫製がだらしないし、表皮も質感にかける。ドアライニングも樹脂肌まるだしで、しっとり感に欠けていた。ここに至っては、色・艶・しぼ、段ちりに合わせ建て付け、すべてを極めるしかやりようがあるまい。
事前に行った「EK」のユーザークリニックは、必ずしもよい結果ではなかったようだ。アコード、シビックの評価があまりにも高く、その下の車とは雖も、車格や質感に対するお客さんの期待は大きい。なんとしても、それに答えなければ。
続いて、工場内のコースでライバル車も含め試乗をした。なかなかのものである。ライバル車を問題としない。車から降りたとたん、チームの連中は自信ありげに「どうですか」と。「目をつぶって運転したら、シビックだね」と、けなし言葉と誉め言葉で返した。
「こちらもよろしく」とアクセス(用品研究所)の面々。タイは用品天国。派手なエアロパーツ、アルミホイール、後づけグリル、などなど。跳びあがって驚いたのは、真っ赤なリフレクターもどきの座面をもった金ぴかのライセンスプレートガーニッシュ。 私は何と言えばよいのか言葉が見つからず、「猿の腰掛け」とあだ名をつけた。
その後、半年くらいして、いよいよ量産立ち上がりという段階になる。再びタイへ。途中何回か報告を受けているので、実機を見るのが楽しみ。心配したトランクリッドは、張りが出て立派に質感を表現していた。室内も、豪華ではないが、しっかりした造りと快適さが表現できている。驚いたことに、あの「猿の腰掛け」が、クロームメッキを施して、不自然でなく、トランクリッドのど真ん中に鎮座しているではないか。後ろ姿が立派になったのは、このお陰が大きい。いろんな人が一生懸命関わっている。
その後、まもなくして発表発売。「シティ」と名付けられた。アジア戦略機種として、世界のジャーナリストに大々的なお披露目となる。さすがに、前の前のシビックのドアを流用していると言われては、と気がかりであった。応酬話法も考えたが妙案がない。本番の席で、心配していた通り、その質問が出た。
咄嗟に、「そのように見えますか」と切り返す。「そうは見えないんだが、」とその人。してやったと思った。ストラットサスのお陰だと手を合わせる。発表会は大成功。売れ行きも出だし好調。が、その後1年半ほどでタイ経済のバブルがはじけた。大型消費は極度に冷え込んだ。「シティ」はライバル車が壊滅的になったそんな中、しぶとく頑張った。「とことん」で生まれた底力と言える。


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