第74話.色々
1976年
ロスアンゼルスにあるHRA(ホンダリサーチオブアメリカ)で、アメホン(アメリカンホンダ)のセールスの人たちと開発チームが、「ホンダアコード4ドアセダン」の内外装カラーラインアップを決めるために議論が伯仲していた。
日本やヨーロッパと違ってアメリカは、徹底してカラー・ラインナップをシンプルにする。それだけに、1つの色を決めるのにも真剣だ。先の3 ドアハッチバックに比べ4 ドアセダンが売りにくいと踏んでいる。
理由の一つに、アメホンはシビックやアコードの3ドアで、スポーティなイメージづくりに成功している。もう一つには、アメリカは圧倒的な4ドア市場であり、しかもビッグ3(GM、フォード、クライスラー)の寡占市場である。
アメリカ人の好みに合わせたい気持ちと、ビッグ3の中に埋もれたくはない気持ちが交錯し、中々結論を出せずにいた。突っ込んだやり取りの中で、どうやら、アメリカ人が好む典型的な色があるということが分かってきた。
たとえば、日本人が青(茄子紺)や白(きなり)を好むように、アメリカ人にとってのそれは、緑や茶になるのだと言う。森や土の色から来ているらしい。それともう一つ、内外装や室内のカラーコーディネイトにも新しい発見があった。
理由はよく判らないが、ことのほか同系色のグラデーションを好むようだ。日本人やラテン系の人は、緑と青などの似かよった色や、黄と紫など正反対の補色という思い切った組み合わせを好む。これらの組み合わせは難しいが奥が深い。
アメリカ人は同系色のコーディネイトを好む。叱られるかも知れないが、こちらは易しく無難である。また「マルーン」という濃い赤色は、彼らにとって高級感のシンボルであることも分かった。
結局、これらの苦しいやり取りが、カラー現適(現地適合性)システムをつくったり、現地研究所にカラー検討メンバーを置くことに繋がった。こうした苦労を一つひとつ乗り超えながら、外装色ではメタリックのダークグリーンやダークブラウンが、内装色ではベージュやマルーン、さらにはキャメルなど、日本人にはこれまで、およそ縁遠かった新色が生まれた。
それらを日本の市場に出すことによって、市場に刺激を与え、「ホンダのカラーは進んでいる」との評価を得るようになった。他にも、こうした経験を通じて知ったことは、ドイツ人の「ど派手」、イタリア人の「原色好み」、イギリス人の「色音痴」などなど。「色々」というところか。
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