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第187話.まるめちゃん

1994年

RAD(機種開発統括責任者)のIさんからこんな話を聞いた。京都のあるベルノ店に招かれ、社長さん自らの手による3代目「ホンダインテグラ」のフロント周りのデザインを見せてもらったと。
そのデザインは、丸目ヘッドランプの上にプラスチック板を張りつけ、横長ヘッドライトに見せようとしたもの。「丸目のインテグラは売れない。こんな風に変更してもらえないか」と頼まれたそうだ。Iさん自身も、これにはさすがに参ったらしい。
丸目の評判が悪いと言うのは聞いていたが、「ついにここまで来たか」という思いであった。この社長さんとしては、いくら言っても埒があかない、だから、実物をつくって責任ある人に見せるしかないと、切羽詰まってのことだったようだ。
この3代目インテグラは、アメリカンティストのセクシーなデザインで、VTECエンジンを売りものに、新たなスポーティ路線を確立すべく開発されたもの。このコンセプトはアメリカでは見事成功し、ことに「3ドア」は、若者の憧れの車となった。
ところが日本では、これまでのインテグラが、シビックより少し格が上の実用車として評価されていて、それが突然、スポーティで個性的なスタイルに変身し、おまけに価格が大幅に上がってしまったものだから、お店からもお客さんからも、失望の声が噴出するという始末。
この3代目を企画した当時、チームがお店廻りをしたところ、「インテグラ」は、日本ではベルノ店の稼ぎ頭であるべき車なのに、「シビック」の派生機種というイメージがついて回り、どうにも売りにくいと言う声が多かった。こうしたことを払拭し、独自の路線を歩ませたいとした目論見は、日本では見事に外れたようだ。
そんな訳で、3代目インテグラは、バブル崩壊後の冷え切った日本市場で売ってゆくには問題の多い車であった。インテグラをショールームに見にくるお客さんの多くが、条件が折り合わず商談を断る時、その理由に必ずと言っていいほどヘッドランプのデザインを挙げた。
値引きその他のサービスと違って、お店の人にとってこればかりは何ともならない。お客さんにとっては、まことに都合のよい断り理由となった。最前線のセールスマンは、これでずいぶん悔しい思いをしたらしい。
この頃よく、「『まるめちゃん』には困ったものだ」と言われたものだ。先述の社長さんもこうしたイライラが嵩じ、ついに、自分でデザインをしてしまったと 言うわけだ。

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