鷹匠壽 予約への挑戦 2日目
気づけば昨日に引き続き、岩松は三軒茶屋から浅草に向かっていた。
昨日よりは1時間早い12時、店に到着。
自分なりに考えた昨日の敗因は、やはり気合が足りなかったことだ。
一見さんお断り、予約が取れないということで店に対して、気負いしていたのだろう。
勢いよく、扉を開け、大きな声で好青年な自分をイメージしながら行くことにした。
扉の前で5分ほど、脳内シミュレーションをし、昨日よりも勢いよく扉を開けた。
岩松 : すみません!!こんにちわ!!
〜3分経過〜
・・・・誰も・・・出てこない。
岩松 : す、すみません!!御免ください!!
〜3分経過〜
店の中で、一人立ち尽くす。
店に誰の気配もないため、一旦諦め、お店の人が戻って来るのを外で待つ事にした。
〜30分後〜
店の外にで待っていると業者らしき車が店の前に停まり、配達の人が鴨を片手に店に入っていった。
そして、何分もせず すぐに出てきた。
なんだ、中に誰かいるじゃないか、私も再度、店の中に入った。
岩松 : すみません!!こんにちわ!!
・・・・あれ? 出てこない。
店の中には、納品されたばかりの鴨。と岩松。
2人っきりで、おとなしく主人が帰ってくるのを待ちます。
10分ごとにお店に入り、『すみません!!こんにちわ!!』と言ってみるが
誰の気配もない。店の外で待ち、また10分後に入りを繰り返す。
そして、何度目か忘れたが、店に入って
すみません!!こんにちわ!!というのもやめて ぼーっと店の中いた。
その直後の背後に人の気配が。
店のお婆さん : だ、誰!!!!
後ろから声を荒げた店のお婆さんだった。
驚いた様子のお婆さんをよそに、冷静に答えた。
岩松 : 昨日伺った岩松と申します。三軒茶屋から来ています。どうしても予約を取りたくて、また参りました。
すると、お婆さんは昨日のことを覚えてたようで、表情も元に戻った。
店のお婆さん : あー、だから言ったでしょ。予約は取れないのよ。うちはね。戦前からやっているの。わかる?
昔はここで鴨を飼っていたの。はやぶさも育ててたの。今では特許もとってるの。そこらへんの店と同じじゃないの。
あなたみたいなジャーナリストが遊びで来られたら困るのよ。
家が一度全焼した事もあるの。でももう一度建て直しました。
今では偉い人の予約でいっぱいなのよ。
今のお客さんはホテルの総料理長や大企業の役員さん、SPもくるのよ。
飛行機をチャーターしてくるのよ。
内心、『あなたみたいなジャーナリストが』と言われて、妙に嬉しくなって後半の話が耳に入っていなかった。
我にかえると、今日も夕方からすき家で大事な仕事がある身分。
そんなことよりも、予約をお願いしなければ。
岩松 : すごいですねぇぇ。格式のあるお店なんですね。鴨もさぞかし美味しいですよねぇぇ。
店のお婆さん : そこらへんのものと同じにしてもらっちゃ困ります。天然ですから猟友会がとってくるの。
それはねえ。うちの鴨は脂も乗っているし、かといって飛べないほど脂がのっているわけではない、最高の鴨なのよ。美味しいの。
流れが少し、変わった気がした。あと一息だ。
岩松 : 美味しそうですね。是非!食べたいです!予約が取りたいです!お願いします。
店のお婆さん :
《5秒ほど沈黙》
店のお婆さん : 時期じゃないのよ、時期になったらおいで。今は、取れている鴨はすべて予約で埋まっているのよ
良い流れに変わったきた。
岩松 : その時期というのは、いつなんですか?
店のお婆さん : 11月15日から。それまでに鴨捕まえると、私達が捕まっちゃうの。その時期になったら、知り合いに紹介してもらいなさい。
岩松 : 11月15日かぁ。私は、知り合いがいないんです。
お婆さんは、昨日とは違って私を同情するような目で、見ながらこう言った。
店のお婆さん : だめなのよ、しょうがないのよ。お引き取りください。
岩松 : は、はい。。失礼しました。帰ります。
最後のお婆さんの目は、私に鴨を食わせたい目をしていた。予約一歩手前だった。勝ちパターン寸前だ。
2日目を終え、バイト帰りの電車に揺られながら明日の作戦を考えている。
やってやろうじゃないか、鷹匠壽がある限り
3日目に続く。