データ分析における"難問"― 現在の規模ではなく伸びしろが知りたい

前回、前々回に引き続き私が考える「ビジネスにおけるデータ分析の難問」を紹介していきたい。

※前回と前々回の記事へのリンクは最下部にあります。

さて、今回は「現在の規模ではなく伸びしろが知りたい」という問題について紹介していきたい。

例えば、あなたが何らかのBtoCサービスをWebやスマートフォン上で展開していたとしよう。そのサービスには100種類くらいの商品群があり、それぞれに売上の規模が違うものとしよう。

何か具体的な例があった方が想像がつきやすいので、仮に出前専門の飲食店チェーンであり、オードブルや揚げ物、お惣菜やおかず、スナック類、それと一緒に注文されそうなドリンクなどをデリバリーしているサービスだとしよう。

このような業態の場合、今後の新商品開発、あるいはPRなどの活動についての予算や人員(つまり広い意味でのリソース)をどのメニューに対して重点的に振り分けていくかが意思決定の上で重要なテーマになるだろう。
もしかすると、いくつかのメニューを廃止した方が売上が伸びる可能性すらある。

さて、そこでこの組織のデータアナリストであるあなたは、全体の月間売上を商品ごとに内訳として集計して売上が大きい順に並べてみた。(一般にパレート分析と呼ばれる分析だ)

結果、売上の偏りは大きく、全商品の中で売上トップ20のメニューが売上全体の80%のシェアを握っていた事が分かった。ちなみに、トップ20は主にランチの時間帯に出ていお弁当などだった。

一方で、トップ20以降の商品群の売上は振るわずパーティーなどに供されるオードブルやドリンクなどは80メニューを合わせても売上に占めるシェアは20%しかない。特にドリンク類の不振は深刻で売上に占めるシェアはたったの0.5%しかなかった。

ではここでデータから考えてみて欲しい。今後の新商品開発やPRなどのリソースは、どの商品群、あるいはカテゴリに振り分けるべきだろうか?

・素直に売上が大きい商品群にリソースを重点配分すべきだろうか?
・それともあえて、売上が小さい商品群にリソースを重点配分すべきだろうか?
・あるいは、売上ではない別の視点からリソースの配分を決めるべきだろうか?

私の場合は、この意思決定には今回のデータとは別の視点でリソースの配分を決めるべきだと考えている。別の視点とは何か? それは「リソースを投じたとき最も伸びる場所はどこか?」という伸びしろの視点である。

さて、あと付けかつ若干ご都合主義的で大変申し訳無いが、先程のケースについて運営チームの誰もが気づいていなかった隠された欠点があとしよう。
実は先程のデリバリーサービスではドリンクが250ml缶のウーロン茶1種類しか取り扱っていなかったのだ

もちろん、デリバリーというのは買いに行くのが手間なときに使うものなので、これは大きな欠点である。この欠点が足を引っ張ってドリンクの売上が振るわないのはもちろん、ドリンクと一緒に注文されるはずだったオードブルまで競合他社のサービスに流れていたのだ。逆に言うと、ドリンクを充実させることで全体の売上が伸びる余地があるかも知れない。つまり、伸びしろだ。

分析した売上の規模は「現状の売上規模」であって、リソースが投じられた場合の「伸びしろの売上規模」ではない。

現状の売上規模が大きいのは、もしかすると既に取れる余地を取り尽くしてサチレーションを起こしている状態かも知れないし、売上規模が小さいのは伸びしろがたくさんあるからかも知れない。

逆に売上規模が大きい部分は、その規模の通りに伸びしろも大きく、売上規模が小さい部分は単純にどうしようも無くニッチなだけかも知れない。つまり現状の規模というデータからは現状の規模しか分からない

私達が知りたいのは「伸びしろ」なのにもかかわらず手元にあるのは「現状」の規模のデータだけである。

ちなみにファネル分析でも似たような現象が起きる。どのステップでドロップしているかはすぐ分かるが、どのステップに改善の余地があるのかはすぐには分からない。

解決策

例によって、あまりはっきりとした解決策は浮かんでいない。
「リソースを投じた場合にどういう伸び方をするか?」というデータは基本的には存在しないのだから、現在値と「このくらい伸びていいはず...!と言う予測」とを比較するしか無いとは思っている。その予測をどうやって立てるかが問題だ。

1. 時間経過による規模の変化を見てみる。

もし、取り扱っている製品群の売上にいわゆるプロダクトライフサイクルのような形で、売上がぐんぐん伸びていく時期、横ばいの時期、衰退していく時期がはっきりと現れるのであれば、売上規模の時間的変化を見ることで、伸びしろが大きい製品が分かるかも知れない。

2. 他の類似サービスと比較してみる

もし、モバイルゲームのファネル分析で、社内に似たようなタイトルがいくつか有るのであれば、他のタイトルと比較することで「明らかに悪い」場所が見つけられるかも知れない。

または、モバイルとWeb2つのタッチポイントを持つサービスのファネル分析であればモバイルとWebで似たステップのドロップ率がどの程度違うか比較することでやはり、「明らかに悪い」場所は見つけられるだろう。

3. ヒューリスティック

要は「感覚」という事になるが「感覚」的に考えて、ここがこんなに低いのは絶対におかしい、と言うケースはたまにあると思う。

まとめ

今日は、ビジネスにおけるデータ分析の難問として「現在の規模ではなく伸びしろが知りたい」という問題を紹介した。

これもまた厄介な問題だが、最低限でもできる事として「パレート分析をおこなってこの部分の規模が大きい事が分かった。だから、この部分を重点的にやるべきだ」という意見はミスリードなので、少なくともそれは避けるべきだ。というのは、現時点でもハッキリ言えることだと思う。

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参照

ちなみに、似たテーマを書いている前回、前々回の記事がこちら。


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