展翅零との奇妙な遭遇

偶然目にして読んだ本に展翅零の名前があった。

彼女の言葉が良いと感じたので、歌集を出しているとの事だったから、歌集というものを、どの様なものなのか分からずに初めて読んだ。

一首読む毎に、頁を捲る毎に、彼女のさみしさ、かなしみ、いたみ、

言葉の雫がぽつぽつ心に当たって来て、しみた場所が心地良かった。

「自分と似てるかも」と思った。

彼女がバーで歌を歌うらしいので、実物の展翅零が見てみたくて行ってみた。

バーに入ったら、展翅零が居た。普通に。バーカウンターに座って煙草を吸っていた。

一見、普通の女性だと思った。

席に付いたら、展翅零がこちらに来て話しかけてくれた。僕は歌集の感想のツイートを見せた。

展翅零の歌は素晴らしかった。感動した。TVの人みたいだと思った。

僕はビールを飲んでいたが、お酒に弱いので、瓶2本目にはもう酔っていた。頭がぼうっとして眠い。そして気付いたら展翅零と向かい合って何やら会話をしていた。

僕は、鬱屈とした時は「陽の光を浴びるといいよ」などと余計なアドバイスをしていた。

自分が今何をしてるのか分からなくなっていた。数日前に読んで知った本の著者と読者の自分がバーで向かい合って酒を飲み煙草を吸いながら会話をしている。明らかにおかしい。しかし酔っているせいと、彼女があまりに普通の女性に感じられて実感が無かった。

会話も落ち着いて、僕はもう飲めないし時間も時間なので帰ることにした。外に出るとダウンを着ていても寒い。マップを開いていると後ろに展翅零が居た。

「ありがとうございました。また。」

そう同じ言葉を言って別々の方向へ歩いていく。

お互い生きてたらまた話せるのだろうか。





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