政治学概論の教科書評(おすすめまとめ)


はじめに

大学に入り政治学を学び始める方は多くいるはずである。教科書は日々更新されておりどれを選べばよいかよくわからないことでしょう。
そこで、概論の教科書の手引きをしようと思います。

アサインされた教科書

アサインされた教科書は、定評のあり売れていると噂の教科書から3冊
* 川出良枝・谷口将紀編(2022)『政治学 第2版』東京大学出版会
* 久米郁夫・川出良枝・古城佳子・田中愛治・真渕勝(2011)『政治学〔補訂版〕』有斐閣
* 砂原庸介・稗田健志・多湖淳(2020)『政治学の第一歩〔新版〕』有斐閣
と、ブックオフでたまたま買った1冊
* 新川敏光・大西裕・大矢根聡・田村哲樹(2017)『政治学』有斐閣
の計4冊です(追加で読んだら加筆予定)。
どれも、大学の教科書としてあまり柔らかすぎないものを選んでいます。

政治学の分野の大分類

本題に入る前に、政治学の分野を概観しておきましょう。
ざっくり2つの系統があって、
* 実証政治学:政治現象を「科学的」「実証的」に明らかにしようというもの。政治現象がどう「である」かを考える。
* 政治思想・政治哲学:政治がどうある「べき」かを考える学問
となります。
この違いはとても大きくて、この違いを踏まえて読まないと考える枠組みの違いに混乱するかもしれません。
ただ、実証で明らかになった事実が規範と交差することもあり、それは面白いのですがね。

入門におすすめ(砂原・稗田・多湖『政治学の第一歩〔新版〕』有斐閣)

実証的に政治現象を明らかにするための、ものの枠組み、考え方を学ぶのにすごくすごく良い教科書です。
モデルを作り体系的に書かれています。
国内政治のみならず、行政学、国際政治学も手広く抑えられています。
ただ、実証に全振りしているので、思想・哲学が好きという方にはおすすめできないです。
初版から大きく変わっているので、ぜひ新版を買いましょう。

思想にも関心がある方向け入門(川出・谷口編『政治学 第2版』東京大学出版会)

はしがきにもある通り、民主主義というのを強く意識した教科書。
思想から導入され、思想でしめるのが特徴的。
そうでありながら、中身は実証政治学の基本的な概念もまんべんなく抑えられているのがウリか。
いただけないのは、制度的な記述も多く高校の教科書の延長線みたいな、実証の面白さが感じられなかったのと、前半の思想的な記述が中間部で活きていないこと。
あと、専門的な話をすると東京大学系の政治・行政観や新制度論への態度もあまり好きではない。
売れてはいるらしいし、たしかに手広く概念が抑えられていて、しかもそれなりにわかりやすいのはそうだが、積極的には自分はおすすめはしない。
時事的な内容が第2版で更新されているが、普段からニュースに触れているという方であれば初版でも問題ないかと思う。

中級向け:久米ほか『政治学〔補訂版〕』有斐閣

入門を通り越してもっと政治学のことを(実証も思想も)深く知りたい!という方におすすめ。
とても分厚くて最初からとっつくのはきついと思うが、かなり網羅されていてより深く専門を学ぶ橋渡しになっている。
日本でもっとも網羅的な政治学の教科書ではないかと思う。

思想と実証の往還:新川ほか『政治学』有斐閣

思想と実証が交錯するところも面白いと先に書きましたが、それを体現する教科書。
分野も手広く抑えていて、かつそれなりに深く書かれている。
問題点は、やや抽象的な議論があり最初にとっつくには難しいこと、体裁が4冊の中では一番硬派であることか。
この本のスタイルに大きな影響を与えていると思われる新川さんの単著も出ているので、気に入ったらこれを読むとよいかもしれない(私は未読)。

アサインされなかった他の政治学概説書

今回アサインされなかった概説書には、たとえば次のようなものがあります。

政治思想・哲学の入門書

そのほか、政治思想・哲学系の入門書としてよさそうなものもご紹介しておきます。
まず、一番定評がある政治思想・哲学系に特化した入門書はこちらです。
この本は私も読みましたが、規範的な議論はあまり得意でない自分でも読みやすかったです。

最近出た次の本も読みやすそうです(私は未読)。

実証政治学のより専門的な教科書

実証政治学のより専門的な教科書のまとめも、逐次公開していきたいと思っています。
ぜひご期待を。

  • 比較政治学(要するに国内の政治を扱う分野)


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