【研修医〜若手医師向け】今日から使える循環器内科のアドバイス〜自己紹介代わりに〜
このnoteをご覧いただきありがとうございます。たっちゃん@研修医サポーターです。
自己紹介
まずは簡単に自己紹介させていただきます。 地方の医学部を卒業後、希望とやる気に胸を膨らませ、某超ハイパー病院で研修医生活を送りました。そこでは、研修医全員が寮生活を送り、令和の現代では考えられない旧時代的な臨床研修を受け、得るものも失うものもたくさんありました。 医師としての知識や技術的なことを言えば、あの時に基礎固めしたおかげで今の臨床能力があると確信していますが、今の研修医に同じことを強要はしたくないというのが本音です。 現在は循環器内科医として地方の市中病院に勤務しています。いわゆる過疎地域の中核病院であり、循環器内科医でありながら、一般内科医としての仕事も並行して行っています。研修医の先生と内科病棟や救急当直も入っている中で、研修医をフォローしながら二人三脚で仕事をしている状況です。
このnoteで得られるもの
簡単に言うと「今日から臨床現場で使える知識」です。
極端な話、救急外来の初期対応や内科病棟での大まかな治療方針は、このnoteに書いてある通りに進めても、十分ではないにしろ概ね問題無いようになっています。(ただし、下記の【免責事項】は必ずご一読ください。)
このnoteは最後まで無料です。私の自己紹介代わりにご一読いただければ幸いです。
初めて研修医として臨床現場で仕事をしたとき、教科書や国家試験対策テキスト等の座学で得た知識だけでは現場で全く体が動かず、1から勉強し直す必要があると痛感しました。
問診では具体的に何を聞けば良いのか?
鑑別診断は何があるのか?
見落としてはいけない所見は何なのか?
common diseaseは何なのか?
必要な検査は何があるのか?
検査の順番はどうすれば良いのか?
検査の結果に応じた次の行動planはあるのか?
治療薬の種類は具体的にどのくらいの量を、どのタイミングで、何日間投与する必要があるのか?
治療の効果判定には何をみるのか?
検査のフォローアップの間隔はどのくらいなのか?
次々と訪れる患者さんを前に、問診で目の前の患者さんの主訴や病歴のとり方ひとつとっても、ただダラダラと話をさせていてはキリがなく、必要な内容を聞き出せず、いたずらに時間を浪費していました。
文字通り現場で汗をかき、先輩や上司の助けを借りながら日々の仕事をなんとかこなしていくのに必死でした。
時は流れ、気がつけば研修医のフォローをする立場になり、今度はどのように研修医に伝えれば良いのか、日々考えています。
自分が研修医だったときに欲しかった、それまでの座学だけでは得られなかった「現場で得た」「今日から使える」臨床に役立つ知識を、研修医が遭遇する頻度に応じて書いてみました。
研修医の横にいて、口頭で具体的な助言をしてくれる少し上の学年の先輩。このコンテンツにはそういうイメージで接していただければと思います。
【免責事項】
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胸痛
■ 5 Killer chest pain
・急性冠症候群(ACS; acute coronary syndrome) ・急性大動脈解離(AoD; aortic dissection) ・緊張性気胸(TPX; tension pneumothorax) ・肺動脈塞栓症(PE; pulmonary embolism) ・食道破裂(esophageal rupture/Boerhaave syndrome) その他頻度が高いものとして縦隔気腫, GERD など.
■ 問診
OPQRSTに従って聴取.
①onset:発症様式
「一瞬で激痛が始まったのか,1分くらいかけてだんだん痛みが出てきたのか,いつとは無しに気づいたら痛くなっていたのか」(胸痛に限らず『裂ける(大動脈解離,気胸,脳出血,くも膜下出血,脳底動脈解離など)』『詰まる(心筋梗塞,脳梗塞,腎梗塞,肺塞栓など)』『捻れる(小腸捻転,卵巣捻転,精巣捻転など)』)はsudden onsetであり始まった瞬間にどこで何をしていたのか明確に覚えていることが多い.
②palliative/provocation:増悪/寛解因子
「楽になる姿勢はあるか(大動脈解離は前傾姿勢で痛みが軽減することがある),呼吸(気胸を示唆するが肋骨骨折や胸膜・呼吸筋打撲と鑑別は必要)やピンポイント圧迫に伴い痛みが強まるか(呼吸筋や胸部の筋骨格系に起因する整形外科的な痛みの特徴)」
③quality/quantity:痛みの性状や程度
「胸が圧迫される感じや心臓が握られている感じはするか(圧迫感や絞扼感はACSを示唆),またはチクチクやズキズキといった感じか(筋骨格系の痛みを示唆)」「『痛い』以外は何も考えられない程の人生最大の痛みを10として,どのくらいの強さか」
④region/radiation:部位や放散の有無
「痛い部分を手で示してください」(前胸部の広い範囲を曖昧に示せば放散痛や圧迫感・絞扼感すなわちACSに典型的な痛み.指1本で狭い範囲を示せば筋骨格系の痛みを示唆.明らかに左右差のある示し方であれば緊張性気胸の患側の可能性がある)
「胸以外に肩や頚,顎,歯などの胸から上には痛みがありませんか」(放散痛はACSの典型的な痛み)
⑤associated symptoms:随伴症状
「嘔吐や暑くもないのに汗をかく,といったことはありましたか」(ACSを示唆)
⑥time course:持続時間
「初めに痛みが出てから今まで持続していますか,それとも痛んだり和らいだりを繰り返していますか」(持続痛なら心筋梗塞・大動脈解離・緊張性気胸・肺動脈塞栓症・食道解離などの不可逆的な器質的変化が示唆される.ACSでも不安定狭心症は冠動脈の『閉塞』ではなく『狭窄』が病態なのでギリギリだが可逆的であり痛みは間欠的になるので要注意.つまり非持続的な痛みでも油断大敵!)
■ 検査
ホットラインで「突然発症の胸痛」と聞いたら下記検査は全例行うべき.
★12誘導心電図:真っ先に!バイタル測定と同時に(血圧計を巻きながら心電図シールを貼るくらいのペース).
★採血:【CBC,生化学(AST, ALT, LDH, CPK, トロポニンT/トロポニンI, CRP),凝固(最低でもPT, APTT, D dimer),動脈ガス】,血型・不規則抗体,感染症(HBVag, HBV ab, HCV抗体,TPHA),コロナ検査(コロナ検査の有無は各々の施設基準に合わせてください).生化学は電解質, 総ビリルビン,血糖・HbA1c, TSH, FT4, Alb, TP, TG, 総コレステロール,LDLコレステロールも来院時にとって良い.診察や各種検査の所見がはっきりしない場合は【】内と心電図を2~3時間後フォロー.トロポニン T/IはいずれもCre↑患者では偽陽性になるため注意. この場合は1~2時間後に再検査して上昇幅が0.03以上であれば有意と考えても良い.CK-MB は CK が上昇しているとき・腎機能が悪いときなどに提出することが望ましく,CK の 10%以上で心筋由来のCK増多(=心筋傷害)と判断する.
★胸部ポータブルX線:胸痛には全例施行.
★心エコー:Flap(大動脈解離), 左室の壁運動低下(AMI→傍胸骨短軸像でLVを円状に出して収縮に明らかな非対称性がないかみる), D-shape(PE)
★胸部〜骨盤CT:5 killer chet pain のACS以外では初期対応で積極的に撮りたい.ACSでも心カテ前にCTがあれば大動脈解離の否定(解離血管にカテーテルは通せない)や,血管の蛇行や動脈硬化による狭窄を知ることでアプローチ部位・カテーテル・ワイヤーの種類選択に役立つが,来院90分以内の冠動脈再還流を目指すため時間との相談.ACSのカテ直前CTは胸部〜骨盤単純CTで十分.ACS以外を疑うなら造影までほしいところ.
・ risk 因子:ACS 歴のある方, 家族歴, 喫煙者, 生活習慣病, 透析患者, 血栓素因など. 迷う場合, 否定できない場合は必ず上と相談する.
・基本的に胸痛患者で high risk の患者は , 12誘導心電図 とバイオマーカー(CPK、CKMB、トロポニンT/Iなど)の 2 点フォローが陰性でも必ず誰かに相談すること.