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通券箱レストア奮闘記

はじめに

2023年3月、ネットオークションで通券箱を落札した。

到着した通券箱。送られてきたそのままの状態。
銘板。昭和26年大同信号製造の第1種(丸形)通票用

何分古いものであるため、到着した時には鉄が剥き出しの箇所は錆び始めており、箱の本体は雑に黒く塗りつぶされた状態であった。もはやどこで使用されていたものかを特定することもできなかったため、外せるものは全て外して洗浄および錆落としを行い、箱を信号図集に従って白色に戻すレストアを行った。"戻す"という表現を用いたのは、どうやら何者かによって黒く塗られる前は白色だったらしい。


ここからは第1次レストア作業の模様をダイジェストでご覧頂こう。

レストアのために台座と箱を分離。台座には赤錆が回っている
スリーエムのサビアウトを塗布している様子
錆取りを終えた部品
箱は一旦塗装を剥がした後…
白色に塗装

各々の部品を組付けレストア完了

こうしてレストアした通券箱なのだが、100%満足行く仕上がりとなったのかと言われるとそうではない。特に箱の塗装に関してはレストアした直後から不満があった。

落札当初より良くなったのは間違いないが、私の腕の無さは如何ともし難く、塗りムラや垂れが発生してしまった。塗り直したいなぁ・・・。と思うこと約1年。再び塗装全剥離からの再塗装を行いその様子を記録したのでここに公開する。

第2次レストア

箱本体

まずやることは塗装の剥離である。そのために箱本体と台座を切り離し、外せる付属品を全て取り外す。

銘板を留めているリベットをドリルで飛ばす
取り外した銘板の下からは黒塗り以前に塗られていたと思われる白の塗装が出てきた

第1次レストアでは銘板は外しておらず、銘板の下は手付かずだった。今回外してみると、現役当時に塗られていたであろう白い塗装が現れた。

停車場名板と取手を取り外す

箱だけになったら、#100の紙やすりで軽く傷を入れて剥離剤を塗布する。今回は箱の内側も塗装するのでマスキングはせず塗りたくっていく。

使用するのはアサヒペンの剥離剤
塗布から15分後
でろんでろんである。

ヘラを使っての剥離、水洗いなどなどを行った後の姿がこちら。

完全に剥離が完了し、鉄部が剥き出しになった。この状態の通券箱を見る機会もそうそうないので、もう少し詳しくご紹介しよう。

正面向かって右側面
正面向かって左側面
正面
背面
上面
背面。底板は別部品で中央に見えているのは蓋の裏側

箱の塗料を剥がし終わったら、今度は塗装のための下地処理をしていく。まず、パーツクリーナーで全体を洗う。特に蝶番の隙間には剥離剤残らないようこれでもかというほどパークリを吹き付ける。
洗浄・脱脂が終わったら、内側にはシャシーブラック、外側には車用の下地塗料を吹き付ける。

箱の外側をマスキングテープで覆い、内側にシャシーブラックを吹き付ける
塗装後の様子

内側の塗装が終わったら、今度は逆に内側をマスキングし、外側に下地塗料を吹き付ける。

底や合わせ目をマスキングし、小さな穴には爪楊枝を差し込む
塗装直後の様子。飛び出している棒が爪楊枝

本体に空いている穴にはねじが切ってあるため、塗料が入らないように爪楊枝を差し込む。

こうして塗り上がったものがこちら。

下地が終われば、いよいよ本塗りである。本塗りには第1期レストアで利用したナフコオリジナルブランドの油性塗料を使用した。完全硬化には相当な時間を要するのが玉に瑕だが、仕上がりが非常に綺麗で手触りもよいので今回も使っていく。

市販の白色に黄色を少量混ぜてクリーム色に寄せた調色の白。第1期レストアの時に作った余りを今回も使用する
1回目上塗りが終了。硬化確認用のテストピースに塗装時間をメモして2回目の本塗りに備える

前回塗装にムラが生じた原因のひとつに、塗装が真冬であったのに重ね塗りの期間を1日しか空けなかったことにあると思っている。先にも述べた通りこの塗料は乾くまでに相当な時間を要するので、24時間程度置いたくらいではまだベトベトするし、何なら1週間経っても硬化しないのである。そこで、今回は重ね塗りの期間を3日空けて万全を期することにした。

上塗り2回目が終わった直後の様子。台座は納屋に転がっていた廃材で適当に拵えたもの
台座と箱はタッピングビスで固定しているため転倒することはない
てらってらの仕上がり

上塗り2回目が終了し少々厚塗り感はあるものの非常に綺麗な仕上がりとなり、箱の整備は一旦終了。硬化までに数日掛かるので組み立てまで暫く放置である。

台座

パテ盛り中の様子

台座には経年で表面が剥離し穴が開いていたため、これを自動車用の補修パテで埋める。

パテが硬化したら紙やすりで表面を整え、スライダーと鎖錠子が動く場所とねじ穴以外をシャシーブラックで塗装する。

表面を研ぎ終わった様子
スライダーが動く箇所にマスキングを施す。ネジ穴には丸めたコピー用紙を突っ込んで塗料が入り込まないようにする
塗装後の様子
数日ぶりにスライダーが収まった

小物類の清掃・塗装

押しボタンと垂直かん。この辺りの部品は落札した時から手付かずのままだった。
鉄剥き出しの部品は弱アルカリ性の洗浄液に漬け置きし、カバーは再塗装
洗浄・塗装が完了して再組立が完了したところ。本来割ピンを使用するところをRピンで代用している点に注意

取り外した銘板全面にシャシーブラックを塗る
表面を#1000の紙やすりでさらった後の姿
上の操作を2回行った後の銘板

いよいよ再組立て

レストアが終わった部品達

いよいよ組立てである。とはいえ組立て自体は何度もやっているのでサクっと組み立てる。

銘板は取り付け前にピカールで磨いた。やりすぎると塗装が剥がれるので軽くに留めておく
銘板はリベット留めだったがボルトナット留めとした。使用したボルト規格はM2
組み上がった箱
ボタンを取り付け台座と結合
底板とボタン覆いを取り付け

こうして再組立てが完了した通券箱。5月10日に開始し5月23日に完了したためレストア期間は約2週間であった。

後日談という名の本当のレストア

こうして2回目のレストアが完了した通券箱だが、細部を見ていくと本当に良くなったのか?と首を傾げたくなる箇所がいくつかあった。

シワが寄った蓋

まず、取手の根本に塗装の皴が寄ってしまったのだ。前回以上に厚塗りし過ぎた結果、裏から閉めているねじのトルクで表の台座がわずかに回ってしまい、塗料に皴が寄ってしまったらしい。

研ぎが甘かったため変な跡が出た箇所(ボタンの下)。蓋も縁の部分で垂れて大きく蛇行して見える

極めつけは、ボタンの下に研ぎ跡がそのまま出てしまったこと。実は1度目に塗った際にボタンの下に大きな垂れが生じたため紙やすりで削ったのだが、塗装から3日経ったのにまだ固まっておらず、削り出したら垢のような塗膜が無限に湧き出す状態になってしまい、どうにか表面を整えて本塗り2回目を行ったのだが、隠蔽しきれなかったようだ。

そう、第2期レストアは第1期レストアが気に入らないから始めたのに、今回の方が酷い仕上がりになってしまったのである。

こうなってしまった以上、私のすべきことはひとつだ。


もう1回小物を外し・・・
箱を分離し・・・
塗料を剥がし・・・
内側を塗り直し・・・
今回は外側にもシャシーブラックを吹き付け・・・
白を塗って完成!(ここまで1日)

2回目の再組立てが完了した通券箱

もう1回剥離して塗り直しである。

先にも述べたが、ナフコオリジナルブランドの油性塗料の仕上がりに文句はない。平面のモノに塗るなら最適であろう。あくまで今回の使用方には不向きであったのと、私に腕がなかったからである。

使用した缶スプレー

塗り直しに使用したのはホルツの缶スプレー。自動車補修用の塗料で、40分で硬化して研いでも問題ないほどになる。表面はシャシーブラック1層、グレー1層、白3層を重ねているのに1日で作業が終わってしまった。あの2週間は何だったのか・・・。
本来は上塗り前提の塗料なのだが、正直どうするかはまだ決めかねている。もしかしたら何か塗るかも知れないし、このままかも知れない。しかし塗るにしても、下塗り同様速乾タイプの缶スプレーで塗ると思う。乾燥に時間が掛かった塗料ではホコリの対応にも手を焼いたためである。

正面向かって右側面。4、5層くらいになっているはずだがスムージングされた鋲頭が見えるほど塗膜が薄い
正面向かって左側面。筆塗りと違い、蝶番の隙間にも均一の厚さで塗ることができるのがありがたい
裏側も再塗装

何だかんだで綺麗な通券箱にすることができたので満足ではある。剥離剤も塗料も去年の余りなので追加出費はほとんどない。しかし2週間もの時間が無駄になったのは痛いし、ナフコの塗料の肌が失われたのも寂しいのだが、これが今の私の限界ということなのだろう。何分古い機械であり、何度も何度も外して組んでを繰り返すのは怖いので、ここまで本格的なことはもうしないかも知れない。今後は通券箱が健全な状態を永く保てるように見ていきたいと思っている。外装は出来そうならやるくらいの気構えでいよう。

おわりに

今回のレストアは、通券箱が歩んできた時代を消し去る行為に他ならない。塗装を剥離してのレストアに踏み切った理由は、元々時代が消されていたからに他ならない。これが例えば、八戸線の久慈-陸中八木間の通券箱だよ~とか言われたらこんなことはしない。もしそうなら私の我儘で時代を消し去ってしまうのは余りにも惜し過ぎる。
今回のレストアは、あまりにも雑な黒塗りの時代消しに腹が立ったから行ったものであり、謂れがはっきりしているものに徹底したレストアを行うのはどうだろうという思いがある。これから通券箱の入手やレストアを考えている方には、製造から今日までの間にその子が歩んできた歴史に思いを馳せて頂いて、それでも"やる"という方には本noteが少しでも参考になれば幸いである。

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