虚の中の実
《第2話》触れ合う
掴んだ手を急いで離した。向こう側の"オレ"は咳き込みながら言った。
「ずっと見てた。情けないオレの姿を、ずっと。」
オレ曰く、現世と車窓の向こうの世界は"同じ"であり"異なる"世界だそう。似て非なる世界というのが正しいのだろうか。水晶体が捉えるその世界は現世と変わらない。しかし、そこには僕のずっと思い描いた世界が広がってる。オレは広告ディレクターとして、多くのプロジェクトを本町にて働き、朝が来て沈む「日々」がこの上なく幸福だそうだ。反対に、僕は工場勤務で日が昇ることなく、酒に浸っていたいと思う「ヒビ」だ。
現世と車窓の向こうの世界は1日にたった一度、ある区間を18:30に過ぎる時から繋がる。二つの世界が触れ合う。そして、最終の長四角が通過する時に溶け合う時間が終わる。しかし、たとえ遅延して車両が止まっても境界は定刻で再形成される。そんな話を聞かされたが、この奇妙な現象の驚きで理解出来たのはその後であった。
オレと初めて触れ合ったこの日。私はこの上ない高揚と耐え難い悲しみの同居を知った。触れ合うたった4時間が僕のある種救いの時間になった。
第3話へ
☆第一話をもう一度見る方はこちらから
https://note.com/shiny_murre978/n/na4e16baad4a3
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