仕事が早い人は、思考と作業を分けている
僕が社内でずっと言い続けていることがあります。
それは「思考と作業は分けましょう」ということです。
よく、プレゼン資料を作るためパワーポイントを開いてフリーズしている人がいます。もしくは、文章を書くためワードを開いてフリーズしている人もいます。それは「思考と作業を同時にやろうとしている」からです。
ではなぜ、思考と作業を同時にやると効率が悪くなるのか?
それは「脳サボっちゃう問題」が起こるからだと思っています。
脳というのは考えることをめんどくさがるもの。作業をやりながら思考しようとしても、脳は作業のほうにリソースを使ってしまい、思考のほうになかなか行かないのです。
パワーポイントで図を作成しているときや、ワードで文章を打ち込んでいるときは、「思考」しているように思えますが、実は脳の多くが「作業」に使われている、ということも少なくありません。
だから、なるべく脳を作業から解放してあげることが大切なのです。
作業のときは息を止めよ
思考と作業を混ぜないための魔法の言葉があります。
それは「作業のときは息を止めよ」です。
息を止めて作業をすると、30秒とか1分くらいしか続きません。つまり、そのくらい一気に集中して作業ができるくらいに予め思考をしておきなさい、ということ。すると自然に仕事は早くなります。
コンサルタントの仕事はざっくり言うと、調査をやってパッケージを作ることですが、そのときも考えないまま作業に入ってしまうとぜんぜん進んでいきません。だから、ものすごく考えて考えて考え抜いてから、一息に作業を片付けることが大切なのです。30分考えて、30秒作業する。そのイメージでやりなさい、とよく言っています。
現実問題、30秒では作業は終わらないのですが、言いたいのは「それくらい集中しなさい」ということです。プレゼンなら30分考えて5分で書き上げる。文章も1時間考えて10分で仕上げる。そんなイメージ。
作業のあいだは息を止める。考えない。脳に酸素を入れないことが大切なのです。この「思考と作業は分けろ」という教えは、うちの会社ではかなり浸透しています。
脳を寝かせてはいけない
思考するときのポイントは「脳を寝かせない」ことです。
思考のスピードは「脳を何のツールと連動させるか」で変わります。パワーポイントで図を描きながら考えると時間がかかるのは、作業のスピードに脳が「同期」するからです。ワードで書くときも同じです。ワードでの作業スピードに脳が同期します。
作業のスピードに合わせて、思考のスピードも落ちてしまう。すると脳はサボりたがるので寝始めます。
よく「考えるときは紙に書くといい」と言ったりもしますが、その書く手のスピードが遅いと、書いている最中に脳が寝ることがあります。脳が寝ると、何も思いつかなくなってしまう。だから脳を早く回転させるための環境作りがすごく大切なのです。
〇〇を使ったら脳がいきなり回り始めた
こんなことがありました。
コンサルタントになって2年くらい経ったある日のこと。クライアントとの打ち合わせまで残り1週間を切っていました。クライアントからは、コンテンツに関しては大枠OKのレベルをもらっていましたが、自分としては最後の最後のところでのもう一段いい戦略が欲しいと思っていました。
それを何とか作ってやろうと、丸々3日かけて、いろいろと調べたり、パソコンとにらめっこしたりしたのですが、うまくいかない。上司に「やっぱりこれ以上は無理です。あきらめましょう」と言ったところ、「幸い残りまだ3日ある。最後までやってみろ」と言われて、許してもらえませんでした。
さて、どうしよう……。
この3日は頑張りすぎて、実はほぼ徹夜していました。あまりに眠いので「1時間くらい仮眠しよう」と思って会議室に入りました。
ただ寝る前に「論点だけまとめておこう」と思って、これまでのことをホワイトボードに書き始めました。そのときです。突然ブワーッと頭が回ってスライドイメージが次々に出てきました。気づけば、スライドでいうと3枚くらいのものすごく濃い内容のものができていました。その間、たったの10分足らず。
「あと2日でこの内容を紙にするだけだから余裕だな。じゃ、今日は帰ろう」と、その日は会議室ではなく家で寝ることができました。
脳がいちばん早く動くツールは何か
このホワイトボードを使ったことが成功体験になりました。
それ以降、思考するときはホワイトボードのある部屋に一人で入って、立ったままボードに書くようになりました。
ホワイトボードの何がいいのか?
ひとつは立った状態で書けるということ。立っているので、眠くなりません(笑)。集中して考えることができます。あと、自然と字が大きくなることもいいところです。大きな文字だと余計なことをあまり書かなくなって、本質にたどり着きやすくなります。
マーカーで書くときれいな字にはならないのですが、それがいいようです。汚い字でもいいからワーッと書いていくと、脳もそのスピードで動き始めます。ホワイトボードだと滑りがいいので、かなり速く書ける。消す時も瞬時に消せます。だから脳の回転も速くなるのです。
一気にホワイトボードに書いたら、そのあと全体を眺めてみます。すると脳しか働かなくなります。手を使わないことで脳が自由に発想してくれるようになる。すると3分とか5分で、ものすごいアイデアが出てきたりします。手を動かす動作を最小限にすると脳がフル回転してくれるのです。
ただ、ホワイトボードすら使わずに全部を脳内でやろうとするのは無理があります。記憶を保持しておくことに脳のメモリが使われてしまうからです。脳のキャッシュはそんなに大きくありません。
だから、最低限は書いておき、それを後から眺めることで「思い出す」ではなく「考える」ことにフルでメモリーを使えるのです。
脳を何と組み合わせるか
脳を何と組み合わせるか、です。
手なのか、ボールペンなのか、友だちなのか。人と話しているときに考えが浮かぶのは、口の動きはある程度早いからです。口の速度と脳は連動しやすいため、思わぬアイデアが浮かんだりします。
紙を持ち歩くのもオススメです。
たとえば僕は電車の移動中に、戦略のストーリーを考えるため「A4の紙」を使っていました。A4の紙を3回折れば8個のマスができます。裏表で16個のマスになる。そこにそれぞれメッセージを書いていくのです。
汚い字でOKです。むしろ外部の人に見られてはいけない内容なので汚い字でないといけません。1マスのスペースが狭いため、あまりたくさん文字は書けません。するとすごいスピードでストーリーのベースができあがります。
その紙を折りたたんで、電車の行き帰りなどに眺める。満員の電車でも立ちながら思考できるので、この方法はかなりオススメです。
何度も言いますが、とにかく脳を作業から解放させてあげることです。そうしないと思考は回りません。
ほとんどの人がパワーポイントを前にフリーズするのはそのためです。手が考えてしまっているのです。手の速度に合わせてしか脳は動かない。すると途中から余計なことを始めてしまって、当初やっていた作業からどんどん横にそれてしまう。関係ないことを調べ始めたりしてしまうのです。
ホワイトボードや紙を眺めているだけで、いきなりいいものになることがあります。僕はよく30分なり1時間なり、会議室にこもって思考の時間を作っていました。無理にでも時間を作ることです。
「いくら考えてもよくなる気がしない」というときでも、イマイチだと思ったパッケージを机一面に並べて眺めると……やってみれば案外10分くらいで、すごくいいものにするためのストーリーが浮かびます。「今回はさすがに無理だろうな」と思って始めても、念のためやってみると、いつもびっくりするレベルの進化が起こる。
そんなことを、何度も経験しています。
意図的に「ボーッとした時間」を作る
効率よく脳を働かせるためのコツは、まだあります。
いいアイデアや戦略は、ボーッとしているときにふと思いついたりします。よって「ボーッとした時間をあえて作る」ことも大切だったりします。
これも昔の話ですが「明日の朝クライアントに資料を出さないといけないのに、夜の10時になってもまったくできていない」ということがありました。
こういうとき、バカ丁寧に1枚目からきっちりと資料を作り始めてはいけません。まずは全体をバーッと書いてしまうのです。10枚の資料であれば、各ページのメッセージだけを先にぜんぶ書く。あとは「このページにはこんなことを書こう」といったメモ書きやストーリーラインだけ書いて、それが終わったらさっさと家に帰ってしまいます。
これくらいの作業なら15~30分ほどで終わるでしょう。さっさと終わらせるべきなので、立って作業するのもオススメです。取り掛かったのが10時であっても10時半には会社を出ることができます。
ポイントはここからです。
家に帰って、お酒を飲んだりご飯を食べたりしていると、いい感じに脳がボーッとしてきます。あとはお風呂に入って、そのまま寝てしまうのです。すると不思議なことに、翌朝パッと起きたときに資料が一気にまとめられるようになっているんです。ボーッとしたり、寝ているあいだに、頭の中が整理されているのでしょう。
これが意図的に「ボーッとする時間」を作るということです。このやり方であれば、残業もせず、早く帰って、かつ、作業もちゃんと終わらせることができます。
このやり方のいいところは、最初に全体のストーリーラインを作ってしまうので、ひとまず安心できます。先に全体像を考えておくことで、思考領域がギュッと狭まるのです。漠然と「何を作ればいいのかな……」という状態ではなく「これを考える」と限定することができる。「あとは、これとこれを考えればいいだけだな」となります。だから効率よく脳が働くのです。
全体から入ることで思考する領域を狭めて、先にモヤモヤのレベルを下げておくと、帰って家で過ごしたり寝ているうちに勝手に整理されます。
思考と作業を分けると、悩みもなくなる
思考と作業を分けることを意識すると、ものすごく生産的になって時間が恐ろしいくらいに生まれます。時間がないように感じるのは、おそらくダラダラと考えたり悩んでいる時間が多いからです。
いわゆる「悩み」というのも、思考と作業を分けることで解決できます。
悩みというのは、だいたい同じところをぐるぐる回っているだけです。考えているのではなく、延々と悩みを「思い出し続けている」だけ。それで時間を浪費しているだけなんです。
そういうときは、悩みを3行くらいで書いてみましょう。
すると不思議と悩みのレベルがグーッと低くなってスッキリします。本当に書くだけでいい。書き殴るだけでいいんです。
気になることを全部書いてみる。するといちいち「思い出す」必要がなくなります。すると「考える」ことに脳のリソースが使えるようになります。悩みがパッと消えて、思考ができるようになる。ものすごく楽になります。
時間は、本当はもっと有効活用できます。
まずは「今は思考しているのかな? 作業しているのかな?」とメタ認知してみるところから始めてみてはどうでしょうか。
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