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無理をしすぎた私③
②の続きになります。
「あ〜あ…ナツコさんの旦那さんにあんな頼まれたら断れないよなぁ」
私は正直ナツコさんとずっとお付き合いができる自信はなかった。
ピロリン!
ピロリン!
ピロリン!
ピロリン!
またナツコさんからメールだ…。
私はため息をついた。
最近のナツコさんのメールの量は半端なく立て続けにくるのだ。
ただいま夜中の12時過ぎ。
重い体をベッドから起こして携帯を見た。
げ!72件新着メール!?
こっちは仕事が終わってやっとゆっくりしてるのに正直勘弁してほしいと思った。
一応メール内容をチェックする。
「日和ちゃん、そろそろ仕事終わりダヨネ?」
「あとどのくらいで家つくかんじ?」
「クソジジイ、また寝てるんだよ?こんないい女が隣にいるっつ〜のに寝るのかありえなくない!?」
「今日道歩いてたらチョーブスな女がいてマジムカついたんだけど!同じ空気吸いたくね〜んだよ!」
「そろそろ家着いた頃だよね?」
「なんで連絡くれないの?」
「日和ちゃん本当は見てるんでしょ?」
「あたしの気を引く作戦?駆け引きとかいらないから」
「素直になりなさい」
あ〜もう…うるさいなぁ!
こっちのことも少しは考えてよ…。
仕方なく電話する。
プルルルル📞
「あ!日和ちゃ〜ん遅いじゃん。焦らすなよ〜」
「色々することがあって…すみません」
私は謝る…。
「そうそう!明日、日和ちゃん仕事休みの日だよね?うまい鰻が食える店があるらしい!行ってみようぜ〜♪もちろん、あたしの奢りで!日和ちゃんは将来ためにちゃんと貯金しなさい」
「そんじゃあした〜バ〜イ」
ガチャ!
「あ!え??」
明日くらいはゆっくりしたかったのにな😔
私ナツコさんにふりまわされてるのかな…。
ため息がでる。
ナツコさんはワガママだ。
なんでも自分で決めて勝手にすすめてしまう。
良く言えば頼もしいが、悪くいえば自分勝手というのだろうか…。
こっちの気持ちはお構い無しなので一緒にいると疲れることが多い。
そりゃ、良いところもあるにはあった。
私は積極的に自分から動くタイプではないので色々と決めてくれたり、背中を押してくれたり、計画を立ててくれるのは嬉しかった。
私が疲れと寒さでお腹を壊した時は必死に看病もしてくれた。
歩くときも、私に足取りを合わせてくれた。
飾らずストレートなところはナツコさんの魅力だと思う。
けれど、なんか重かった…。
ナツコさんは水泳、ピラティス、キックボクシングなど通っていたが、それでも元気があり余っているようだった。
なにか趣味をみつけたら私への気持ちも軽くなるのではないかと思い、読書をすすめてみた。
しかし全く興味がないらしい。
私はどうにかナツコさんが夢中になれることを考えてみた。
ナツコさんが楽しめること…🤔
ナツコさんの心を癒やしてくれるような場所……。
う〜ん………。なんか頭が働かない。
はぁ…。
今日の電話はすぐ終わったが、普段のナツコさんの電話はめちゃくちゃ長い。
夜中の0時に電話がかかってきて、大体いつも電話が終わるのが朝の6時。
意外と甘えん坊なナツコさん。
普段のナツコさんからは想像できないような甘えた声を、眠くなると出してくる。
「ナッちゃんネムネムなってまちゅぅ」
と言い出したら
子守唄を歌ってあげるのだ。
そうするとそのままおネムナッちゃんになる。
これで私もようやく眠ることができるのだ。
私は幸い昼間からの出勤なのでなんとかなっていたが、それでも結構しんどかった。
電話の内容も「私はこれからどうすればいい?」とか「あの人は自分をどう思っていると思う?」とか「あいつは絶対なにか隠してるはず!日和ちゃんはどう思う?」などなど質問ばかり…。
少しは人に聞くばかりじゃなくて自分で考えて欲しかった。
なんでもなんでも聞いてくるので困ってしまう。
私はあまり自分の憶測だけでこの人はこうだ!とか決めつけることは好きではなかったのでこれを聞くのがしんどかった。
「私をバカににする奴は許さない!後悔させてやるんだ。みんな不幸になってんだから!」と悪そうな笑みを浮かべながら言う。
大体話す内容はこれの繰り返し。
私が慰めればその日は落ち着くのだが、次の日になるとまた同じことで怒り出す。
忘れちゃってるのかな?
あとナツコさんは浮き沈みが激しく情緒不安定であった。
すごくご機嫌と思いきや、いきなり泣き出し、どうせ私はダメ人間ですよと言い出す。
かと思ったら私はこの世で1番偉いんだ!誰も逆らえないんだよ!と言い出すこともある。
職場仲間の子にナツコさんのことを相談したら、驚かれた。
よくそんな人と付き合えてるねと言われた。
自分なら絶対無理だと。
そんな毎日付き合わせられるならそれなりのお金貰わないと割に合わないよ?と言われた。
日和が優しいからナツコさんは捌け口にしてるだけでしょ?
不満をぶつけて八つ当たりしてるんだよ。
日和はお人好し過ぎるよと…。
私はお人好し過ぎるのだろうか。
あまり考えたこともなかった。
ナツコさんといると疲れるのは確かだ。
「自分をバカにしてきた奴らを懲らしめてやる!!」と言っていた時のナツコさんはまるで鬼そのものであった。
なにかに取り憑かれているのではないか?と疑ったぐらいだ。
しかしなんでだろうか。可哀想だと思う気持ちもあった。
過去に何か傷を負ってしまったのでは?
それで私は何も言えなかったのかもしれない…。
色々考えた結果、次の出勤時に職場の上司に相談することを決意した。
翌日鰻屋さん
鰻重おまたせしました〜!
テーブルに鰻重が2つ置かれる。
「きたきた♪これが噂の鰻重ちゃんだね〜どれどれ」
いつものジャージ姿で大きく口を開けてナツコさんは鰻重を頬張る。
「うん?………」
「なにこれ!まっずいんだけど!!」
みんなが一斉にこっちを見てくる。
私はあわててナツコさんに言った。
「ナツコさん…声がおおきいですよ💦」
「え?だってまずくない?食べるの無理かも…」
「日和ちゃん、よくこんなん食えるね。残しな。体に悪そう」
私はなんとなく場の空気が悪いのを感じて全部完食した。
ナツコさんを見ると、ドヤ顔をしている。
「ねぇ、みんなあたしの顔みて目をそむけてるんだけど!あたしのことが怖すぎてビビっちゃったかな〜」
なぜか嬉しそうに話すナツコさん。
なんでそういう発想なるんだ??
私は早く店を出たかった。
「そろそろ出ませんか?」
「そうだね〜こんなまずいの食わされて気分悪いし」
ナツコさんは気分悪そうに会計を済まして出ていく。私もそれにつづいて出ていく。
「日和ちゃん、ごめん!こんなまずいと思わなかったよ〜今度はちゃんとうまいとこ探しとくわ」
「あ💦いえいえ鰻なんて久々に食べました。ありがとうございます…。」
「日和ちゃん!それにしてもそろそろクリスマスだね〜クリスマスの予定とかあんの?」
「あ〜…えっと…クリスマスも仕事ですね。ナツコさんは旦那さんとデートですか?」
急にナツコさんは不貞腐れる。
「日和ちゃん!聞いてよ〜。あたしの周りの子たちはクリスマスと言えばブランドのバッグとかもらってんのにさ…うちの野郎ときたらさ、なにくれたと思う?」
私は答えに困ってしまう。
「な、なんだったんですか?」
「ユニクロのヒートテックタイツだよ」
………………。
「あ〜なるほど!あれですね。ユニクロのタイツあったかくていいですよね!きっと体のこと考えてくれたんですね」
ナツコさんはすごく怒っている…。
どうしよう…。
「だったら、おねだりしてみてはどうですか?かわい〜く♡ね?」
「別に興味ねーし!まぁ売り捌くにはいいかもしんないけどね〜」
はぁ…ナツコさんが拗ねてるから言っただけなんだけどな…。
でもすぐにいつものナツコさんに戻った。
「じゃあまたね〜今日また夜メールすんね〜」
「あ、はい…。じゃあまた」
翌日の出勤日
今日は上司にナツコさんのことを話す日だ。
「店長、ご相談したいことがあります。良いでしょうか?」
「日和さんが相談なんて珍しいね。わかりました。休憩時間に休憩所で聞きます」
「はい。よろしくお願いします」
そして休憩時間になると同時に私は休憩所に向かった。
続く。
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