【小説】それゆけ!山川製作所 (#10 財前の独り言)

どうも皆様こんにちは。
株式会社山川製作所、代表取締役社長の財前でございます。

いやぁ、とんでもない変態が世に放たれてしまいましたねぇ。
自身の状態を相手に投影することによって、より深く臨場感のある想像を働かせる。
彼は『ネオ脳内変換』と名付けていましたが……。
いやはや、人の性癖というものは予想以上に複雑で、多種多様な形があるのですねぇ。

それにしても、まさかパンツを穿かずに業務に臨むとは、思いもよりませんでした。
立川さんの件で相当味をしめたのでしょうねぇ。


お話の中で、我慢ができなくなった西園寺さんが声を荒げるシーンがありましたねぇ。
周囲から見れば、西園寺さんが小森くんを一方的に罵っているようにしか見えませんでした。
当然、西園寺さん自身にも同じような認識であったはずなんですねぇ。

しかし小森くんだけは違ったようです。

確実に、立川さんに続いて西園寺さんを『ネオ脳内変換』第二の餌食として見定めていたようでした。
きっと、彼の目には、顔を真っ赤にして自分を睨みつけてくるノーパンの西園寺さんが映っていたんでしょうねぇ。

ははは、まぁ自分の中だけで楽しんでいる分には何も言いません。
何を考えようが、個人の自由ですからねぇ。

ただし。

彼が想像だけでは満足できなくなってしまったならば、私は全力で引導を渡さなければならないことにあるでしょう。
多少のことは社内の彩りとして私は許容する。しかし、実害が出てしまえば容赦はできません。
そんな日が来ないことを、私はただただ祈るばかりなんですねぇ。

さて、彼の変態具合にフォーカスを当てていてもしょうがありません。
私が伝えたかったことは、別にこの特殊な性癖のことではないんですねぇ。


私ね。
冒頭でも説明しましたが、結構長いことこの山川製作所で働かせてもらっているんですねぇ。
当然、社長になる前の時代の方が長い。
その時代には、それはもう多くの社員が部下として付いていたこともありました。

まだ仕事を楽しめていた頃でして、自分で言うのもなんですが、結構面倒見の良い上司だったと思っているんです。
それもあって、幸いなことに多くの部下たちが成長していく過程を見ることができたんですねぇ。

だからこそ大いに驚いているんです。
見たことがない。
彼ほどに一瞬で成長を遂げた人間を。

トリガーはこの際置いておくとして、彼は不足していた「自信」を獲得し、人間として飛躍的に成長を遂げた。
ただ想像しただけであり、「自身」をつける為の行動を実質的には何もしていないにも関わらず。
彼の思い込みは、劇的に彼を変えた。

「自信」がその個人のパフォーマンスを向上させる一種の鍵となることは、当然私も知っていました。
しかし、「自信」というものは積み重ねていくもの。
そんな得難いものを、彼は一瞬のうちに己のものとしてしまったわけなんですねぇ。

いやいや、彼は非常に興味深い。

落ちこぼれていた者が、最終的に他者を圧倒するほど成長するというのはよく聞くお話。
もしかすると、彼は将来この会社を背負う人間の1人になるかもしれませんねぇ。
大切に見守っていきたいと考えているんですねぇ。




実害が出ないうちは。




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