『オブラートに包む』技を知らない小学生の心の疑問を聞いてやってくれ!
愛媛県松山市にある小さな港町三津浜。
商店街から一本南の筋にひっそりと佇む茶舗。
そこは世界旅行が好きで、行った国々の珍な雑貨を買ってきては販売している店だけではなく、近所の子供らに懇願され駄菓子も売っている、コンセプトゼロの雑貨屋である。
そのコンセプトゼロの雑貨屋は、夕方になると西から東から子供たちがわちゃわちゃと集い始める。
この日、久しぶりのケイト君(小2)と超久しぶりのハル(小3)がお小遣い握りしめ、茶舗(チャポ)で長居するつもりでやってきた。
血液型A型の冒険少なめのケイト君はいつも買うお菓子を買うと、鬱陶しいくらいに私に絡み始めた。
「キャンベル〜これさぁ〜」
「キャンベル僕ね〜」
(キャンベル キャンベルうるせぇなぁ…)
心の舌打ちは私の表情にダダ漏れにも関わらず、小2は怯まないし空気読まない。なぜならそれが小学生男子だからだ。
かたや小3のハルは10yenの当たりつきガムを10個買い、全部ハズレたことを確認するとそれを全部口に含んでグッチャグッチャ噛んでいる。
もうかれこれ30分は噛んでいる。
言葉を全く発することなくずっとガムをグッチャグッチャグッチャグッチャ。
ケイト君が時々問いかけるも、首を縦か横に振るだけでクールボーイよろしくなハル。
そのハルが、食器を洗う私のそばに来て、じっと顔を見る。
「え?なに?」と聞くと彼は初めて言葉を発した。
この日、ハズレのガムを10個買い、全部口に入れて噛む事に集中していたのか彼の茶舗(チャポ)に来て初めて発した言葉がこちらだ。
「貧乏?」
「え?」
一瞬誰に対してなにを言ったのかわからず「え?」と漏れたのは、正しいリアクションだと思う。
ハルは今度は主語をつけて聞いてきた。
「キャンベル(は)貧乏?」
社会性などない小学生はもちろん『オブラートに包む』という技を知らないし、このド直球さがオブラートに包む技を知る大人の会話みたいに話をややこしくさせない。
どんな状況であっても誰に対しても「金なら有る。」の姿勢を崩さない私は、彼のいつから抱いていたかわからない「キャンベルは貧乏?」の疑問に胸を張って
「キャンさんは金持ちなんよ。ケイトやハルのおうちよりお金持ってる。」
と答えた。
「ウソや!」
小3にいきなり嘘つき呼ばわりされたが仕方がない。
ひとつ10yen 20yenの物をほそぼそ売り、子供しか来ていないお店でどうやってお金を稼いでいるのか小学生には想像し難いらしい。
彼だけじゃない。
うちに来る小学生の口からは時々、「どうやって暮らしてんの?」とナチュラルに漏れる。
そんな彼らに堂々と
「時々来る大人からぼったくってるから大丈夫!私は生きてる間はお金に困ることのない星を持ち合わせてるから大丈夫なんや✌︎('ω')✌︎」と小学生には納得しずらい答えを返す。
「ウソや!」と即答してきたハルは
「どんだけ持ってんの⁉︎」と「見えるものしか信じない!」みたいな形相で聞いてくるので「この中に全財産があるから数えてみな。」と駄菓子の売上ボックスを手渡した。
ハルとケイトはボックスの中の小銭を全部広げ、計算し始めた。
100yen
50yen
10yenを仕分けし、小さな計算機を使って私の全財産を計算し始めた。
「いち…じゅう…ひゃく…せん…」
「ろくせんごひゃくななじゅうyenあるっ‼︎」
「どうや!お金持ってるやろ‼︎」
「あるっ‼︎」
マジか…
ちょろい…
ろくせんごひゃくななじゅうyenが「お金持ってる!」だなんて…
ちょろすぎる…
「でもおれのほうがもってる!おれはいちおくまんえん持ってる!」
はいはい。
いちおくまんねんねぇ〜
すごいね〜
それは大金持ちやね〜
よかったね〜
これがかの有名な小学生男子あるあるだ。
それも込みでちょろい。
帰り際ハルが計算した小銭を少し握りしめつぶやいた。
「これだけ…ちょうだい…」
なっふぅぅぅぅっっっ〜〜〜‼︎
おまえいちおくまんえん持っとんちゃうんかぁ〜‼︎
つうか、ガム全部、腹の中に入れとるやないか〜!
吐き出せ〜!
のみこむなぁ〜!
出せ〜!
吐き出せ〜!
ガム10個分やぞ〜!
マジかよ…。