ズルい大人に踊らされても ~マルちゃんCM炎上の背景?
マルちゃんのCMが炎上しました。
とはいえ実は炎上じゃないんじゃないかとか、やっぱりこれは炎上だとかいわれてますが。
けっきょくこれは何だったんだろうと考えてみました。
とりあえず、話題の元になったCMを見てみましょう。
対になっている2本の作品です。
学校の先生と思しき男性が残業しながらマルちゃんの緑のたぬきを食べているアニメです。
女性が一人の部屋でドラマを見ながらマルちゃんの赤いきつねを食べているアニメです。
これの「赤いきつね」の方が「性的」だとXで話題になり、それを各ニュース媒体が取り上げたという感じです。
それともう一つ「赤いきつね」の方がAIで作られたのではないかというのも話題になりました。
箸を持つ指が不自然だったりテーブルの脚が手前にしか無かったり座椅子に背もたれはあるけれど座面がなかったり部屋の間取りがおかしかったり(ベランダの横にドアがある)するからです。
人間が描いているならおかさない間違いではないか、と。
AI使用の真偽はわかりません。
私は道具としてAIを使うのは、別にぜんぜんかまわないという立ち位置です。
ただ、それを商品や作品として世間に出すなら、クリエイターが最低限手を入れて整合性はつけるものだと思います。
このAI疑惑については、企画会社の株式会社チョコレイトがXで否定しています。
弊社企画の「赤いきつねうどん」ショートアニメ広告に関して pic.twitter.com/oZL1gWOzRG
— CHOCOLATE Inc. (@inc_CHOCOLATE) February 21, 2025
話は戻って「性的」の件。
一部の人が「性的」だと言い、多くの人は「性的」ではないと言う。
話題に後乗りした人には「性的というので、どれだけエロいのかと思ったら全然エロくなかった」とか「性的とは思わなかったけど不快感はあった」という意見も一部にありました。
「性的」って何でしょう?
たぶんこの齟齬は、前提となっている「性的」という言葉の意味が、人によってちがうことから生まれてます。
赤いきつねの主人公は一人の部屋でテレビを見ながらカップ麺を食べているのに、なぜかそのワンシーンに異性に訴求する萌え・あざとさを演じている。
一方緑のたぬきの主人公は別に女性ウケを狙ったあざとさは見せていない。
そういう「女だけに媚態を演じさせる」ことを「性的」と表現している。
べつに「ただちに性行為を想起させる」という意味で使っている人は少数派じゃないかな、と。
(フェラチオを連想する演出はあるけど……)
正月番組で男性アナウンサーはスーツ、女性アナウンサーは振袖を着ている感じですね。
「うるおい」とか「いろどり」の役を女にだけさせている状況を(女という性でなければ要求されなかったことなので)「性的な役割を要求されている」「性的な扱いを受けている」と表現している。
「このCMは性的だ」というのは、そういう意味です。
一方で「あのCMは性的らしいよ」と聞いた人が受ける印象は、「あのCMはエッチらしいよ」でしょう。
「エロい」とか「性行為を連想させる」とか、そういうイメージ。
で「あれが性的に見えるなら、そうとうな欲求不満」とか「全然性的じゃなかった」という感想になる。
もしくは「性的ではなかったけど、違和感はある」という表現になる。
そもそもその違和感を「性的」と表現しているというのが伝わらない。
違うモノサシを持っているのに、お互いに気づいていない。
気づいていないまま「これが性的か否か」という議論をしても、そもそも噛み合うはずがないわけです。
たぶんCMを作ったマルちゃん(東洋水産)は、このアニメが一部の視聴者(主に女性)から嫌われることは分かっているはずです。
その程度の見通しもできないほど愚かではないでしょう。
ならばなぜ、このアニメを発表したのか。
たぶんこの「赤いきつね」と「緑のたぬき」両方とも男性向けの作品です。
それをあたかも「男用と女用を作りました」と誤解させるような発表をしている。
結果的に予想通り炎上しました。
そして、このCMに好印象を感じた人たちや「フェミ」に否定的な人たちが、文脈を誤読して「エロくないものをエロいと言って潰そうとする人」に反撃します。
女主人公のアニメの制作が女性スタッフというのも計算です。
「女が作ったのに男目線と批判している」と言い逃れできるというのを過去の炎上から学んでいます(男目線の女もその逆も、べつに珍しいものではないのですが)。
人は共通の敵がいるとき、一番団結します。
「一部の極端な思想を持つフェミ」に叩かれるマルちゃんと、マルちゃんを守る俺たちの団結です。
結果的に「赤いきつねを買ってマルちゃんを守ろう」となれば万々歳。
そもそもカップ麵の主な購買層は「若い独身男性」です。
「アンチフェミ」と重なります。
「フェミ」を刺激することで、購買層をマルちゃんに好意的になるように盛り上げようという戦略は、おそらく成功です。
たぶんこれを狙ったのだと思います。
CM制作にかかわっていたら、今回の映像が燃えやすいことは分かっているでしょうから(分かってないなら盆暗です)。
わたしはこれを「ホモソーシャル刺激型広告」と呼びます。
AI疑惑については刺激するつもりが無かったので火消しに走りましたが、「性的」疑惑については否定していません。
「萌え」や「あざとさ」は意図して盛り込んでいるのでしょう。
フェミニストが批判すれば、それが広報に一役買うことになる。
では黙っているのが良いのかというと、沈黙は容認になってしまう。
不愉快は声に出すしかありません。
ただ、闘い方は考えましょう。
まず私たちは「性的」に代わる、「エロ」や「性行為」と混同されない言葉を発明しなければなりません。
私はキャッチーな言葉を考えるのがヘタなので、だれか考えてもらえると助かります。
そしてこういうCMに直面したら「ああ、また『ホモソーシャル刺激型広告』ですね」と指摘してください。
最後に、なぜ「どんぎつね」は炎上しないのか。
日清どん兵衛の「どんぎつね」CMもかなりあざとい。
なのになぜ炎上しないのかというと(もちろん嫌いという声はあるけれど、炎上とまでは発展していない)、日清はとても巧妙です。
キツネ耳の吉岡里帆さんとメガネの星野源さんというキャラが上手い。
それぞれの役者に萌え要素を足してますが、それを「男編・女編」と分けず1本に入れ込んでます。
片方だけを見て「これは一方の性別だけに媚びている」とはならない。両方に均等に媚びてます。
さらにキツネ耳の女の子という虚構要素で「これはこういう世界観」と、ファンタジーっぽく包み込んでます。
そして互いに媚びているのは好きな相手で不特定の誰かの目線ではない。
何重にも炎上回避の仕掛けがあります。
さすが世界にも評価されるCMを作ってきた日清、志が高いです。
その後、どんぎつねを男女反転させたのもすごいですね。
今日のお昼はカップうどんにしましょうか。
あなたは赤いきつねとどん兵衛、どちらにしますか?