162年越しのきみへ
「これよこれ~~~っ!この鉄骨!塔の脚のとこ!まさに!推しのMVと一緒!」
私は旧時代の廃塔に来ていた。
場所は、廃棄された旧時代の首都区域。
廃棄された場所だけあって、道も何もあったものじゃなくてそりゃ~もう苦労した。
まあ全く人が通らないというわけはなく、
廃れた雰囲気に魅せられて足を運ぶいわゆる廃都マニアが出入りしているので、
なんとか道っぽいものがあるからたどり着けたんだけど。
目的は推しのミュージックビデオに登場する場所に来るため……そう、いわば聖地巡礼である。
推しといっても百年以上前に死んでいる人だ。
最近発見された旧時代のデータが復元公開されて、その中にこの塔を背景に撮影されたものがあったのだ。
「しかしこんな場所があったんだな~。映像の中に場所が書いてあって良かった。旧時代のアーカイブ検索ですぐ見つかったし!」
目の前にあるのは、ひしゃげて折れた塔。
灰色の空に向かう途中でぐしゃりと曲がり、展望台と呼ばれた部分から先は地に落ちている。
鉄という旧時代によく使用されていた素材で出来ていて、電波塔の役割があったと資料にはあった。
上の方がないのは残念だけど、折れていてもまあ雰囲気はつかめるので良しとしよう。
遠くから、近くから、なんども往復してあらゆる角度で写真に収めて、
あとでMVと比較しようとニヤニヤと機器のディスプレイをのぞいていた時。
「君~~!ちょっと撮影があるので移動してくれないかな~!」
「びゃっ!」
聞こえるはずのない、自分以外の声に驚いて振り返ると、
「へあ?」
さっきまで見ていた廃れた風景は掻き消えていた。
記録でしか見たことのない色の空。
ひしゃげて折れていた塔は、鮮やかで眩しい青に向かってまっすぐ伸びていた。
崩れた周囲の建物は消え去り、広場と緑と水辺、にこやかに行き交う人。
そして、
「ごめんね、終わったら呼ぶから、ちょっとあっちに移動してもらえないかな」
声をかけてきたのは、推しだった。
復元された荒い映像の中でしか見たことのない推し。
歌っているところしか見たことのない推し。
それが
動いて、喋って(と言うか自分に話しかけて)いる。
「は?推し???え?ゆめ??なん?????」
混乱してうまく言葉が出ない
「え?推し?俺??まじ!?聞いてくれてんだ!?ありがとう!!」
「え、はいあの、推し、推してます、あの、162年後ですけど」
「ははっなにそれ未来じゃん!来世でも押してくれてる?ありがと~~」
いや来世じゃないけど今世だけどそんなことはどうでもよくて
なんだこれよくわかんないよくわかんないけど目の前に押しがいるどうしよう何か話さないと
そうだ好きなとこをいっぱい伝えよう歌も旋律も声も髪型も顔も好きだってこと全部好きだってことを
「あのっ!」
声を上げた瞬間、強い風が吹いた。
とっさにつむってしまった目を開くと、そこはもう見慣れた色の乏しい世界だった。
「……え?」
何だったんだ?でもあれは確かに推しだったよね??
混乱した頭で端末の推しのMVを再生する。
「やっぱ推しだったよ……服だって、一緒だもん、推し、推しだったよ」
今さっき、目の前にいた推しを端末の中に見る。
白昼夢でもみたのだろうか?
チルドラッグをキメ過ぎたのかとも思った。
そして、ぼんやりと流し見たMVのその最後に、今まで見たことのない文字を見つけた。
【 Special Thanks!!ファンのみんなへ! 162年後も! 】
今さっき、自分が推しに伝えた年数だ。
「ええええええええええええええ??????????????」
そして帰宅してから、読み返したアーカイブの中に
「そういえば、サードシングルのMVの撮影中に不思議なことがあって。
162年後も俺を推してくれてるファンに会ったんだ。でも一瞬でいなくなっちゃって。
何言ってんだと思うよね(笑)でも会ったんだよ~ほんとなんだよ~~(笑)
まだあんまり売れてなかったしさ、なんか嬉しかったら最後のロールに入れちゃった。」
そんな文章を見つけるのだった。
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ごめんねむつぎさん全然文字数足りなかったよ