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かゆくて、かきむしりたくなる話

(※ 重症の集合体恐怖症の方は読まないでください)

メガネ拭きの布にツブツブがくっついているのに気づいた。
ミント色の2mmの粒が4つ、「※」のバツ印を無くした形に並んでいる。洗濯したから虫の卵が付いたのだろう。
虫は苦手だけど、卵だし、きれいな色だし、なんとかガマンできるレベルだ。外へ持っていってツブをこそげ落し、メガネ拭きは洗濯カゴに入れて処理終了。

――でも、何の卵だったんだろ。
気になって調べてみた。「洗濯物に虫の卵」で検索すると……
ひゃあーっ! 4つどころではない。同じような卵がビッシリついた画像が出てきて身もだえた。

結局、カメムシの卵だったことは分かった。分かったけれど、その事実より、ツブツブ集合体の気味悪さに囚われてしまった。
かきむしって無くしてしまいたくなるこの衝動。久しぶりに、昔のゾワゾワ体験を思い出した。

高校生の夏。
教室で人をよけようとして、腕が黒板にこすれた。汗ばんだ腕が、絶妙のスピードと圧力で、ンググググーッと黒板をこすった結果、肘の下に赤い斑点ができた。規則正しくいっぱい並んでいて、見たとたん「オエッ」と思った。痛いのに同時にかきむしりたい。やがて色が濃くなり、黒いホクロが整然と並んだ腕になった。ボリボリ……

電子レンジで火傷をしたときもあった。
オーブンとして使った後、庫内の壁に手の甲が触れた。蜂の巣状のパンチ穴の形に火傷し、逆水玉模様が付いた。
赤みが落ち着くと、浅黒い肌に白い水玉模様が浮かんだ。爬虫類の皮膚だ。目に入るたびギョッとして爪を立てたくなるので、カットバンをいくつも貼って見えなくした。

実際かゆい訳ではないのに、ブツブツを気味悪く感じ、かきむしりたくなるのはなぜだろう。
蕁麻疹や湿疹などブツブツした皮膚は痒い、との認識があるからかもしれない。
でも、それだけでは「気味悪さ」の説明はできない。

調べると、これには「トライポフォビア/集合体恐怖症」という名前があった。穴や突起の集合に不快や恐怖を感じる症状である。
呼び起こす画像として、ハスの花托やハチの巣、サンゴ、イチゴなどが出てくる。

左上から時計回りに、ハチの巣、蓮の花托、パイナップル、カメムシの卵

何を気持ち悪いと感じるかは人それぞれ。iPhoneの裏に並んだカメラレンズや、ノートパソコンのキーボードがダメという人も。健康サンダルを間近に見て失神した人もいるらしい。

トライポフォビアの研究の歴史は浅い。論文があるのは2013年からで、症状を引き起こす物理的、知覚的、認知的、心理的要因などが研究されている。蛇や蜘蛛など有害生物の連想による恐怖感ではないか、という説もあれば、病原菌や感染症を避けるための嫌悪感ではないか、という説もある。だが、症状が起きるメカニズムは解明されていない。

自分はどう感じるのか、(気持ち悪さに耐えながら😅)じっくり考えてみた。小さいブツブツと、大きめのブツブツで違う気がする。

虫の卵のような小さいブツブツでは、かゆみより気味悪さが強い。「ゾッとする」が一番しっくりくる。自然界には無いはずの規則正しさ。誰かの意思や、何かの意図が存在しそうな並び。それが得体の知れないものへの恐怖となって感じられるのかもしれない。

大きめのブツブツの場合――例えば、ハスの花托や、健康サンダルの中底。これらは、見た途端いかにもかゆい。大きさが吹き出物やイボとほぼ同じだからか。1つでもかゆいものが寄り集まっているから、かゆさは何倍にも増幅される。

視覚的には、ブツブツを見たとき、視覚情報が網膜から右と左に分かれて伝わり、後頭葉の視覚野で1つの映像に結ばれる。つまり、頭の奥にかゆみの集合体が投影されるのだ。ものすごくかゆそうなのに、頭の中には絶対手が届かない。そのもどかしさが、気味悪さ、気持ち悪さを連れてくるのではないか。私自身はそんな風に感じる。

子どもたちの自由研究に、身の回りの集合体を集めるのはどうだろう。周りの人たちに被験者になってもらってキャーキャー言い合うのもいい。どんなものを気持ち悪く感じるか調べて考察したら、立派な研究になりそうだ。将来イグノーベル賞がとれるかもしれない。

この原稿を書きながら、無意識に体のあちこちを掻いている。考えすぎて、今まで何ともなかった人工物も気持ち悪くなってきた。
家の中にも集合体は結構ある。トイレットペーパーのエンボス加工、消臭〇の外キャップの網目、安物フライパンの底裏、スニーカーの底の模様……。

左上から時計回りに、しゃもじ、和菓子の包装紙、洗濯ネット、毛玉取り器、ガスコンロの排気網、ロジクールのキーボード

気味悪さに頭がかゆくなって、頭皮をガシガシ掻いた。
ーーん? よく考えたら、頭って毛穴だらけじゃない。ぎゃーっ!!
とりあえずスッキリしようとシャンプーした。
(ゴシゴシ、ゴシゴシ……)
――ふぅー、気持ちいい。
シャワーで流して……え? シャワーヘッドって穴の集合体?!
しかもよく見たら、ウチのはナント穴と突起の複合集合体だった。

ウギャーーッ!! _(:3 」∠)_……パタッ

*****
ところで、カメムシの産卵期は5月から8月まで。
孵化するまでは1週間~10日とか。タンスの中で……(以下省略)
洗濯物に卵を産まれたくなかったら、近くで蚊取り線香をたくか、つるすタイプの虫よけを設置するといいそうな。カメムシ専用の物もあるようだ。

私は「〇ース虫よけネットEX」をつるしてみた。カメムシに効くとは書いてないけれど、とりあえず、以後、卵被害には合っていない。


参考:
佐々木恭志郎・山田祐樹「トライポフォビア―過去から未来へ―」『認知科学』25(1),2018.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/25/1/25_50/_pdf

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