3年間謎の関係を続けたホストくんと終わりを迎えたお話。
久しぶりに書こうと思います、焼却炉です。1つ、自分の中では区切りがついた出来事があったし、傍から見るとまぁまぁ奇妙なお話でちょっと文字に起こしたくなったので書きます。本人見てたらごめんね、特定されないようにはするから許してね。
出会い
まぁよくあるマッチングアプリでの出会いでした。ただ彼は素直に自分がホストであることそしてそれ以外にも複雑な事情を抱えていることなどなど相手が調べれば一瞬でわかるマイナス面を隠さずに書いていました。そういう人と接したことないし、どういう思考回路で生きているのだろうという変な好奇心でまぁ多分マッチングしないだろうし、といいねをしました。
マッチングしたやないかい。
いや、マジか、と正直思いました。ふっつーの特に面白みもない人間とマッチングするんか君はと驚いたのをよく覚えています。こうして約3年に及ぶ奇妙な関係が始まりました。
最初は非常に物腰の柔らかい、流石の返信の早さとコミュニケーション能力、と思うような印象でした。その時期暇な時間が多かったのもあり、あれよあれよという間に通話、そして実際に会うことになりました。会ってみると自称していた通りの陰キャ感が確かにありました。でも距離感もちょうど良くて、こちらに気を遣ってくれて、女の子扱いを忘れず、凄いなーと感心するばかりでした。その日の夕方、軽くお茶をしてさっと解散、そしてその後もやり取りは続きました。最初よりも親しみを持って向こうも接してきたし、私ももっと話してみたいなーと思ってやり取りを続けてました。じわりじわりとスキンシップを取ってくるあたりもホストらしいな〜と思いつつ、それも初めての経験だったこともありなんとなく疑似恋愛体験をさせて貰えているようなそんな感覚を楽しんでもいました。
初めての来店の誘い
出会って2,3ヶ月とか経った頃だったと思います、お店に来てみないかと言われました。あ〜やっぱりな、と思ってちょっとガッカリした記憶があります。ただ、まぁ私的には悪い人ではないし、でも一人で行くのは怖いし、まぁ気が向いたらとのらりくらり返事をしていました。その時にホストクラブに興味があるといった友達が居て友達が行くなら1回は経験してみようと思い行くことに。(結局その子が直前に行かないと言い出して別の子と行くことになったのですが)
結果、ホストクラブは楽しめない人間だということがよく分かりました。喧騒と、やたら光る感じと、お金を持っている人が強いというイメージと違わぬ雰囲気と、その割には薄い会話と、褒めるところを探して、盛り上げることが商売になっているあの空間のちぐはぐさと、知らぬ人ともコミュニケーションを取らないといけない空間が私には合わなくて途中からグロッキー状態、一緒に来てくれた友達が心配するくらい血の気が引いていました。帰宅後、しっかりと吐いて、熱を出しました。それを隠してホストくんにはお礼LINEをしました。あの場で凄く気を遣ってくれていたのはよく分かったので。ただそれと同時にもうお店に行くことは無いし誘ってほしくないし、そんな人間と縁を続けるのが無駄だと判断するのであれば連絡をたってくれても構わないとも伝えました。でもそれでも人間関係を続けていきたいとホストくんから言ってくれたのでやり取りを続けることに。
「○○したいなぁ」で縮まる
やり取りをのんびりと続けていたある日、ホストくんに「○○(本名)ちゃんの作ったお菓子が食べたい」と言われました。お菓子作りが趣味でもある私は了承し、それを渡すという名目でホストくんと会う日が続くようになりました。今思えばホストくんは本来であればお金を払わないと会えないのに、自分はお金を払っていないのに会うことへの罪悪感みたいなものを正当化する手段になってたなと思います。
そして会う回数を順調に積み重ねていたある日、不意にホストくんの家に入ることに。
散歩をしようと言われて手を繋いで歩いていたら途中から「今俺の家に向かってるんだけど」と。何となくそんな気もしていたし、そうなってもいいかと思っていた自分もいたので連れていかれるままに部屋に入りました。
名刺や○○賞と書いてあるご祝儀袋、デパートで買ったであろうそこそこの値段の化粧品が机の上に散乱し、床には昨日着ていたであろう服が脱ぎ捨てられたままに置き去りになっていて、傍らにはホストくんのツイートや、インスタのストーリーでしか見たことの無いオリシャンやエンジェルと呼ばれるボックス付きシャンパンがその部屋に不自然のような、でも自然なような、よく分からない溶け込み方で置いてありました。テレビにも出るような売れっ子ホストはタワマンとかで高級そうな家具に囲まれて暮らしているイメージがありますが、ほどほどの売れ具合で新宿で暮らすとなるとこんな感じなんだな〜と1K(多分)のホストくんの部屋を見て思っていました。
どうしたらいいか分からなくて、とりあえずベッドに座らされて、何となく流れで初めてキスをしました。初めてに似つかわしくないゴリゴリタイプのキスだったことは今でも覚えてます。混乱している自分と、やっぱりホストなんだな、これで店に連れていかれないようにしないとと冷静に思う自分と、自分が今まで経験したことないことが始まっているんだとワクワクする自分がいました。でもそこは流石というべきなのかそれともちょっと待てと言うべきなのか分かりませんが、私の想定以上のスキンシップを取ろうとしたのでそれはちょっとと拒否をしました。ホストくんもすんなりと引いてくれました。
その後は何となく気まずいような、恥ずかしいような、そんな時間でした。その時の私はホストくんは何を思って私に対してそういう態度をとるのだろうと悩んでいました。今にして思えばこのあたりはもしかしたら本当にホストくんに恋愛感情を持ってたのかもしれません。
そこからもずるずるとホストくんと会っては散歩したりするような、店には1ミリたりとも通わずに会う日々が続きました。
そして出会ってから1年半後、季節は秋。ホストくんが体調を崩したときのことでした。何か出来ることはあるか聞いた時に、彼は「○○(本名)ちゃんの作ったご飯が食べたい」と言いました。ホストくんの家に行き、ご飯を作りました。美味しい美味しいと言って食べてくれるのが嬉しくて、思わず顔をじっと見つめていました。ご飯を食べ終わると、ホストくんはベッドに横になり私にも一緒に横になるように促しました。そしておもむろに私にこう言いました。
「俺たちってもう会ってどれくらい経つんだっけ?」
私は「1年半くらいかな〜」と答えました。ホストは「マジ?そんな経つの?」と驚きつつ、こう続けます。
「出会ってからさ、1年半経ったわけだしそろそろさ」
その後に続く言葉が「付き合おう」じゃない事は私が一番よくわかっていました。なぜなら他でもない私がホストくんの遠回しな付き合おうって言われたらどうする?をやんわり拒否していたからです。今思えばそれがきっとおかしな関係を作りあげた原因だったし、その後に続く提案を受けいれたこともまた、おかしな関係をさらに加速させて、そして終わらせた原因になったんだなって思います。でもその時の私は、ホストくんになら、託してもいいと思っていたし、その選択自体は今でも後悔はしていません。この時が一番ホストくんのことを好きだったのかもしれません。そこからはホストくんの家で会うのが常になり、お昼ご飯と作り置きのおかずを作って、食べているのを見るか時々一緒に食べるかして、ことを致して、ホストくんが活動し始めるタイミングまで添い寝をするか、用事があれば先に失礼するようなそんな付き合いでした。ホスト君の生理的欲求を全て今私が満たしているのかな、なんて時折思っていました。
予防線と呼ぶか、信頼してないととるか
職業柄、異性と関わることが多いホストくんの言葉を約3年に及ぶ関係の中で真剣に取り合っていただろうかと思い返してみると、半分くらいは受け止めてなかったのではないかなと今になっては思います。それは付き合っていないのだから他の女の子に嫉妬する権利なんてないし、会いたいと言う権利もない、理由もなく会いたいと思ってはいけない、彼女でもなんでもない関係なのだから、という当時の自分の心を守るための予防線だったと思います。だからホストくんがいう可愛いも、好きも、言われれば言われるほど軽く受け流すようになったと思います。そんな私を彼はどう思っていたんでしょう、今となっては分かりませんが、信頼されてないんだろうなとは思わせたかもしれません。唯一、同じ熱量で好きという言葉を返せたのが奇しくもことを致している最中だけでした。その時だけは伝わっていたか分からないけれど気持ちを込めて好きだと言えていました、でもそれと同時にその気持ちがどこまで伝わっているのか分からない不安とどこかこの気持ちがお互いの未来には繋がらないことが分かっているやるせなさで、好きという度に涙が出てしまっていたのが今でも記憶に残っています。もし彼がこの文章を見ていたら、ごめんね。あまりにも私が心配性で、奥手過ぎて、最初の頃のように純粋に照れていた気持ちが薄れてしまって、素直に受け取れなくなってしまって、ごめんね。
晒しは誰もが通る道、なんだろうな
ホストくんの忙しさは私から見ていても日を追うごとに増していったような気がします。それに伴っていわゆる掲示板でのホストくんに関わる晒し行為も見かけるようになりました。最初は色んな意味で心を痛めました。仲良くしているホストくんが悪く言われていることに対しても、そして晒されていることが事実なら店に行っていないとはいえ別に私がホストくんにとっては取るに足らない存在なんじゃないかという不安でも。ホストくんが悪く言われていることに対しては彼のメンタルをそれとなく心配するような連絡をし、私の身勝手な不安に対しては前述した予防線で対処していました。でも最初はそのように心を痛めていたけれど、最近ではもちろんホストくんのメンタルは心配していましたが不安に関してはあまり感じなくなっていました、それは自信でもなんでもなくてまぁそうだろうなという諦めでした。そういう仕事だからと、異性と関係を持って当たり前だし、そういう言葉を異性にぶつけることも有り得る仕事だと。そういう態度もきっと彼には伝わっていたかもしれません。でも、あまりにも悪く言われている時は少し擁護するようなコメントをこっそり書き込んだりもしていました。余計なお世話だったかもしれませんが、大切な人にはかわりなかったので、かばいたい気持ちはありました。まぁただひとつ言わせてもらうとするならお客さんかどうかは知らないけど女の子と撮ったプリクラ(チュープリ有り)を炊飯器にしまうのはよくないと思うよ。
親しみと雑さと
そうして歪な関係が出来て2年以上が経って、変な慣れというか、お互いに雑さが出てきました。会ったとしてもやることは同じで、それなりに楽しいけれど添い寝をしている時に先に帰って別のことしたいな〜と思う時もありました。ホストくんもホストくんで「これしたい」「あれしたい」と伝えれば私が調べてある程度準備してくれるだろうという打算的な考えが見える部分もありました。お互いが思いあって関係を作るという感じではなく、お互いを上手く使える関係を維持するような雰囲気になっていました。だからすれ違いました。そろそろこの関係を終わりにしようと言い出さなければと会う度に思い、でも会うと言い出せない日々が続き、そうしてずるずると関係を続けている中で、言い合いとまでは言いませんが、もう会うの止めようとなりかけることが増えました。それでも私から会うのやめようと言い出せませんでした。それは私がきっと思っている以上にホストくんに甘えてたからだと思います。だから最後の決定的な言葉も、ホストくんの口から言わせてしまいました。
終わり
会う約束をしていたのはバレンタインデーの次の日のことでした。用事を済ませてからホストくんの家に行ってメイクをする約束をしていました。鍵は開いていて躊躇うことも無く中に入り、彼は寝ていたので傍らに腰掛けて横顔を眺めてました。あと何回見れるのかな、あと何回この場所に来るかな、あと何回私は彼と話せるのかな、会えるのかな、と思っていました。その日で関係を断つとは思わずに。1時間くらい経って、さすがに暇だったのでちょっとちょっかいを出しました。彼は私のことを後ろから抱きしめて、あと10分と言って、寝る、いつも通りのことでした。起きて私が持ってきたチョコレートを3,4粒つまみ、彼はシャワーを浴びていました。○○時には出る、と言っていたので間に合わせなければと思いつつ、シャワーを浴び終えた彼に何気なくこう言いました。
「もっと遅く来ればよかったね」
悪気はなかったです、暇だからちょっかい出しちゃうし、出さなければもっとゆっくり寝れただろうしと思ったゆえの発言でした。でも、ホストくんを傷つける発言だったのだと思います。怒らせてしまいました。
「そんな風に小言言うなら帰ってもらっていいけど。」
なぜ怒られているのだろうと、その時は思って、小言のつもりは無いよ、もう少し遅く来てたらもっとゆっくり寝れたんだろうから申し訳ないなと思って、と伝えました。彼もそれには少し理解を示しつつも、「別に俺が金を払って頼んでる訳じゃない」「お前に都合合わせないといけないのかって」「こっちが時間作ってる」というようなことを矢継ぎ早に口からこぼしました。あぁ、これで終わりなんだなって、思いました。そして、彼は
「もう会わない方がいいと思う。俺は時間を無駄にするのが嫌だから、それは自分と付き合いがある人間がそう思うのも嫌だし。正直将来はないよ。それなのにご飯作ってもらったり、メイクしてもらったり、何でそこまでしてくれるのか不思議だし、ここまでしてもらって申し訳ないと思う。マチアプ頑張ってるの知ってるし、それなのに俺に時間割くのも……。今俺は誰とも恋愛する気ないし、恋愛的に○○(本名)ちゃんのこと好きな時期もあったけど、今は人間的には好きだよ、でも恋愛対象としては見れない。だからそれでも関係続けるっていうならそれはそうなんだって思って拒否はしないけどさ」
不思議とあ、今私と彼はお互いに現実見てるんだと思いました。皮肉にも最後の最後で同じタイミングで現実を見ることになるとは。でも彼の言うことは最もでした。というか、そこまではっきり彼の口から言葉を出してくれたのにもびっくりしました。今までもこうした雰囲気になることがあっても何となく関係を続けようという気持ちがあったからだと思います、でも今回は違いました。終わるんだなって思いましたし、ここで終わらせた方がまだありがとうで終われるなと思いました。だから終わろうと決めました。ホストくんの言葉は彼なりの誠意の表れでもあったと思います。全てうやむやにして利用しようと思えば利用出来た訳ですから。もちろんホストくん自身の時間の無駄を懸念したというのもあるでしょう、でも将来を見いだせない関係を続けることが私にとってもプラスにならないと考えてくれたことも事実だと思います。だから最後ありがとうと言えました。ホストくんのおかげで頑張れたことが沢山あったこと、今まで知らなかったことを体験できたこと、色んなことに対してのありがとうは伝えられたと思います。ホストくんは最後こちらをあまり見てくれなかったのでどんな表情をしていたか知ることは出来なかったけれど、「俺の方こそ」という言葉と「うん」という言葉は返してくれていました。
ホストくんの部屋で、ホストくんと繋がっているSNSのアカウントを全て消しました。作り置きの料理は流石に彼がお金を出したものだったので捨てませんでしたが、その日持って行ったチョコレートは持って帰ることにしました。その行動を見た彼は「お菓子に罪は無いし……」と渋っていましたが、私がもう縁を切る相手のもとに自分の痕跡を残したくないと頑なに持って帰る態度を取ったからか、特に抵抗はしませんでした。ただ「あーあ、食べたかったんだけどな」とは言われましたが。その言葉が私の作ったチョコなのか、それとも持ってきた高い方のチョコなのか、どちらに向けたのかは分からない……いえ、たぶん甘いもの好きのホストくんの事ですから、きっとどちらも食べたかったんだと思います。最初に仲を深めたきっかけの私のお菓子が最後まで印象的なエピソードを作るなんて、と今になって思えばちょっと面白いことではありますね。でも改めて思えば後述しますが、夢から覚めたってことにして、ホストくんの存在を夢の中の存在にしておきたかったんだと思います。チョコレートの箱が私の手元から無くなったら、あげたという現実が出来て、彼のことを夢の中の存在に出来なくなってしまうから、だからチョコレートを彼の部屋に置いておきたくなかったんだと思います。
上手く言葉が出なくて、部屋から出るのをためらって、でも終わりにしないといけないと、踏ん切りをつけて、最後に「ありがとう、ばいばい」と言いました。さようならと言えなかったのはなんというかさようならだと冷たい決別のような気がして、それは合わないなと思ったからです。彼の住む場所から出て、涙が出るかなとか思いました。でも全然そんなことはありませんでした。心にぽっかり大きな穴が空いたかと言うとそんなことも無かったです、針でチクッとさして開けた位の穴はあるかもしれませんが、その程度でした。むしろ今までのたくっていた倦怠感のような重たさが取れて、体が軽くなった気がしました。帰り道に彼の写真を消しました。ツーショットを撮ることは滅多になかったので、ほぼほぼ彼がSNS上にあげた写真ばかりでしたが。ただ彼には内緒で撮っていた寝顔の写真もありました。きっと彼との付き合いの中で1番多く目にしていた顔は寝顔だったと思います、その次が食べている時の子供っぽい顔でした。その顔は素直に好きでした。どすっぴんで、髪もボサボサで、服もダサい姿だったから、SNSに出てる写真と比べたら全然かっこよくないけど好きでした。家族以外の異性に初めてお菓子を作って、ご飯を作って、美味しいって言って貰えたことが、それは忘れたくないなって思えるくらいには嬉しかった。そういう光景も思いだして、改めてきっと好きだったんだなと実感しています。
家に帰る電車の中で、色々と思い返して、やっぱりお礼が言い足りなくてもやもやして、最後に連絡もう取らないからって言ってたのに身勝手に自分がすっきりしたいからとどれくらいぶりかに送る、彼いわく読書感想文のような長文LINEを送りました。既読はついたので目にはしていると思いますが、じっくり読んでくれたかは分かりません。それを確認して、友達リストから削除しました。そして始まりのきっかけになったマッチングアプリでの彼のアカウントもブロックしました。でも本当はごめんなさいも言いたかった。最後の会話を踏まえて思い返せば傷つけたこともたくさんあっただろうから。でも、彼は私が謝ると、「そんなことない、俺が悪かったから」と困った顔をしてそう言うので、最後そんな顔をさせたくなくて、代わりにたくさんのお礼を言うことにしました。だからここでごめんなさいと書こうと思います。きっと彼の目には届きませんが。
向き合っていなかったのは私だったのかも。
ホストくんとマッチングして初めて会った時のこと、何でいいねしてくれたのか、みたいな会話になった時、私は素直に「動物園の珍獣を見るような気持ちで」と伝えたことがありました。その時彼は笑ってはいましたが「別に普通の人間と変わらないし、そういう珍獣扱いされるようなら会わないかな」とも言われました。確かにされる側からしたら嫌な気持ちになるだろうし、ホストというフィルターで彼を見ても長くは続かないだろうなとその時思った記憶があります。でも最近の私は思い返せばホストだからというフィルターをかけて彼を見ていました。ホストだから仕方ないという予防線を自分の為だけにはって、その予防線をはるために、彼をそういうフィルターで見ました。無意識だったから余計たちが悪かったと思います。彼を傷つけたこともあったでしょう。好きも可愛いも、私だから言ってるのではなく、もはや口癖のようになってるんだろうと、そう思うようになっていました。最初の頃は素直に受け止めてあんなに恥ずかしがっていたのに、彼はどんな気持ちだったんでしょう。そうやって彼に期待しないこと、彼に気持ちを向けすぎないこと、それが自分のためだけじゃなくて彼のためにもなると勝手に判断して。今思えば彼に向き合ってなかったのは私でした。マチアプで会った人の話も彼に何の気遣いもなく伝えていました、上手くいった訳じゃないからいいかと思って、どんな気持ちで聞いていたでしょう。彼をどれほど私の無神経さで傷つけたのだろうかと、今になって思います。届かないと思うけれど本当にごめんなさい。
あげたもの、もらったもの。
家に着いて、回収したチョコレートの箱を開けて、彼が食べたのはなんだっけと見てみました。手作りの方は、他の人にも渡す想定で作ったチョコレートは残っていて、彼の為だけに考えたお酒入りのチョコレートとハートの形のチョコレートは食べられていました。高級チョコレートのおすそ分けの方は、彼の好みの甘いチョコレートを使って作られたものだけ食べられていました。残っていたものは全て次の日に私が友達と食べましたが、きっと彼の口に運ばれたチョコレートが1番彼の口に合うチョコレートだったなって思いました。そう思うとちょっとおかしくて笑ってしまいます。家の冷蔵庫に残っていた彼の為だけに作ったお酒入りのチョコレートは、思った以上にお酒が強くて、でもお酒好きの彼ならきっと気に入ってくれる味だったことでしょう。だから彼が食べてくれて良かったです。でも私には強すぎたので牛乳にとかしてホットチョコレートにして飲みました。それでもちょっとお酒の味で苦かったです。
自分の部屋に戻って、何かホストくんに関わるものはあったっけと思いましたが、形として残るものは何ひとつとしてありませんでした。思えば最初の誕生日祝いは謎に私をイメージして買ったというお香を貰いましたが、その後の私の誕生日祝いは美味しいお店に連れて行ってもらってご飯を食べるのが主で、形として残るようなものは貰っていなかったな〜と思いました。逆に私は最初の誕生日には彼が気に入っていた手作りのレモンケーキを、その後は美容液と私の好きなケーキ屋さんのケーキ、3回目はメイクを自分でも頑張りたいという彼が使いやすいだろうなと思って買ったリップでした。そのリップはどういう経緯か分かりませんが、プレゼントしてそんなに経ってないうちに、中で折れたか何かでぐちゃぐちゃになっていましたが。今思えば神様が関係の終わりを示唆していたのでしょうか。他にも彼の家には私の作り置き料理を入れるためのタッパーとか、私が軽く料理できるように通販してもらった包丁とか、割れて使えなくなった鍋の蓋の代わりに目測で買った価格均一のお店の鍋の蓋とか、そういうものが残っているでしょう、捨ててさえいなければ。一緒に買い物に行って目測で買った鍋の蓋があまりにも鍋にピッタリのサイズで、その時彼が「俺よりも俺の家のことに詳しい」と言っていたのを思い出します。でもまぁこれらも使えなくなったら捨てられるものばかりです。
それ以外に私が彼に与えられたものは何だったでしょう、今となっては確かめるすべはありません。ばいばいする前に聞いておけばよかったです。
私はというと、彼からは経験と色んな考え方やマインドを与えてもらいました。それこそまず女の子扱いをしてもらったこと、可愛いと言ってもらったこと、異性から好きと言ってもらえたことも初めてでした。手を繋いだことも、頭を撫でられたことも、抱きしめられたことも、異性の部屋に入ったことも、キスをしたことも、添い寝をしたことも、体の関係を持ったことも彼が初めてでした。誰かのためにお菓子やご飯を作る楽しさを思い出させてくれたこともありました。推しのライブビューイングに初めて行くのが怖くて、一緒に観に行ってもらったこともありました。彼が何故か私に会いたいと、出勤前に私の住んでいる場所の最寄り駅で降りて、駅周辺をお散歩したこともありました。やむを得ず新しい環境へ行かなければならないのが怖くて、弱音を吐ける人が彼以外に思いつかなくて、励ましてとお願いしてすぐに励ましの連絡が来たこともありました。彼が誰かと勉強をしたいからと、カフェで特に沢山会話をした訳ではありませんでしたが、彼が時折ちょっかいを出してきながらも、勉強したり、仕事したりすることもありました。彼の使う化粧品選びも手伝いました。お洒落なレストランで食事をすることもありました。特に目的もなく穏やかに散歩することもありました。彼のそばが穏やかで居心地が良かった時期があったことは確かです。そういう時間が好きでした。こういう経験のおかげで、可愛いと思ってもらえることの喜びや、そういう自分になるための努力の楽しさや、したことの無いことにチャレンジしてみることの大切さや面白さ、研究することの楽しさ、誰かのために行動することの喜びなど、色々なことを得られたと思います。彼が居なかったら今の自分はいません。だから出会えたことや一緒に過ごせた時間があったことはとても幸福なことでした。ありがとう。
彼がホストじゃなかったら、と思わなかった訳ではありません。でも、彼が世にいう普通の仕事に就いていて、私と同じような生活スタイルだったら、多分そもそも私はいいねを押さなかったと思います。彼がホストだったから、彼が彼だったから出会えて、ここまで続いたんだと思います。こちらを楽しませようとちょっと変なことを言うのも、ちょっかいをだすのも、夜中によく分からないLINEを送ってくることも、送った記憶をなくしていることも、変な人でしたけどそこが好きでした。見た目とかお店のホームページとかで紹介されているような内容とは違って、子供のような人でした。そういうところも好きでした。こういう気持ちを持つのも初めてだったから、本当に彼がくれたものはたくさんあったんだなって思うし、これからの私の人生や恋愛の判断に役に立ってくれることと思います。
念の為。
もしこれを目にした方に勘違いして欲しくないのは、ホストという仕事を美化しようという意図は全くありません。昨今取り上げられている問題に関して、そしてそれ以外にもあるだろう問題に対して、真摯に向き合う必要があると思いますし、私自身も一度彼のお店に行って楽しめなかったことからその1回以降1度たりともお店に行ったことはありません。それに彼が全く人を傷つけていない、彼は特別というつもりもありません。晒された経験のある人ですから、誰かのことを傷つけたり、危うい営業をしたこともきっとあると思います。最後の会話で彼に「申し訳ないけれどお店に通っているお客様のように、私はお金を貴方に使おうとは思えないし、お店に通おうとも思えないから」と話の流れの中で言った時、彼は「まずそもそも客が恋愛対象になることは絶対にない」とキッパリ言い切りました。彼のことを恋愛的に好きで、彼の役に立とうとお店に通っている人もいるでしょう。だから彼のことを良い人だとも、良いホストだとも思いません。でも、私の前では私に対して良い人でいてくれようと努力してくれる人ではありました。だからこの文章はホストを美化する文章でもなんでもなく、そんな彼に向けての謝罪文であり、私の見た夢の文字起こしでもあり、彼に向けての最後の恋文です。この文章を目にする人がどれくらいいるのか私には分かりません。でもこの文章を読んでホストに行ってみたいだとか、会ってみたいだとか思ったとしてもそれを推奨する意図は全く無いし、その選択の責任は選択した本人に帰属しますのであしからず。
最後に。
彼と過ごしてきた中で印象に残っている言葉がいくつかあります。
「俺がホスト辞めた時に○○ちゃんが彼氏いなかったら付き合おうね」
何回か言われた言葉でした、それと一緒に
「俺がホストやってる内は○○ちゃんは俺と付き合わないでしょ?」
とも言われました。ホストやっている間でも付き合っていたら、と考えてみましたがやっぱり上手くいく想像がつかないです。私はそもそも恋愛経験が皆無、誰かと付き合った経験はありません。そんな人間が付き合うにはやはりハードルが高いし、その選択をしなかったことは今考えても正しかったと思います。その選択をしたらきっともっと嫌な別れ方になってたと思います。ただ、私が
「当分生活の面倒見るからホストやめて別の仕事探しなよ、付き合おう」
って言えるようなバリバリ稼げる人間でそういうことを言える気概のある人間だったら、上手くいっていたのかもしれません。でも私は彼のために今の仕事を手放すことは考えられませんでした、今の仕事は私のやりたかったことですから。だから彼への気持ちがその程度なんだと言われてしまえば否定はできません。それに、きっと彼もそこまでは望まないと思います。
「俺はなんも無いからさ、生ける屍みたいな、空っぽなんだよね」
私の誕生日を祝うために連れていってくれたお店からの帰り道に彼が言ったことでした。歳をとるのが嫌だという話から、私と彼自身を比較して出た言葉でした。その時私はそんなことないよと否定しようとも思ったのですが、そんな月並みな言葉をかけてもいい慰めにはならないだろうと「空っぽってことはたくさん吸収できるってことだよ」みたいなことを言ったと思います。でも今もしあの時に戻れるなら、彼が私に与えてくれたことを沢山伝えてこんなに人に与えられる人が空っぽなわけないって強く伝えたいです。
彼の家でご飯を作ってそのご飯を横並びに座って彼が食べている時、
「これが幸せか」
と彼は言ってくれました。その言葉が温かくて、好きでした。彼は自分が幸せになってはいけないような、そんなことを思っている節がありました。でも穏やかな幸せを望んでいるのだとも思いました。特定されてしまうかもしれないので多くは言いませんが幸せにまつわるある言葉を時折口にする人でした。大きな幸せは普通の人でも手に入れることは難しいかもしれません。でもちょっとした穏やかな幸せがいくつも彼のもとに訪れればいいと思っています。
最後の会話の中で、私は彼にLINEをブロ削してと伝えました。彼はそれに対してブロックしている人間が2千人近くいるからこれ以上増やしたくないと言ってきました。数字がたった1増えるだけなのだからあんまり変わらないじゃないかと思ったのですが、彼なりのこだわりがあったのかなと思います。でもブロ削してと伝えたら、少し席を外してやったと言ってきました。でも多分私の予測ですがこのやった、だけはあの場で唯一彼がついた嘘だったと思います。後から気づいたのですがブロ削したらブロックされたままの状態で友達リストからも削除されるとの事だったので私からの長文に既読がついた時点で、それはありえないのです。彼はこうも言ってました、言い切れなかったことがあったら連絡して、とも。実際、私は口下手で後から言いたいことが出てきてお礼の長文LINEを送りました、きっと彼はわかっていたんだと思います、3年間の中でちゃんと私のことを。
彼は私が色んなことを頑張り始める理由でした。彼に可愛いと言われたくてトレーニングを頑張り、メイクもファッションも美容法も勉強し始めました。彼に美味しいと言ってもらいたくて、より美味しくて栄養バランスの取れた料理が作れるように勉強し始めました。彼に凄いよ、偉いよと言ってもらいたくて仕事についての勉強もよりするようになりました。でも、いつからかそれは自分が自分のことを好きでいられるように、自分が胸を張っていられるように、彼だけじゃなく、周りの人達にも喜んでもらえるように、そのために頑張る方へと変わっていきました。頑張り始めた理由に彼はなってくれました。でも頑張り続ける理由は彼だけではなくなりました。でもそれは悪いことじゃなくて、寧ろ自分にとっては良いことだと思います。だから、これからも自分が胸を張っていられる自分でいるために、彼がストイックで凄いと言ってくれた生活を続けようと思います。
彼が時折しんどいと口にすることがありました、死にたいということもありました。その時私は「死にたいってなったら連絡してよ、死ぬ前に一緒に国会図書館に行こう」と変な励まし方をした記憶があります。もちろん、彼がそう思うような状況自体にはなって欲しくないです。でも万が一そうなってしまったら、私のことを思い出してきっと彼の方からブロ削していなければ長文LINEのトークだけは残っているでしょうから、連絡してきてくれたらなとは思います、流石に死を選んでほしくないですから。私のできる範囲で助けられたらと思います、だから彼にはブロ削する、と伝えましたが友達リストから削除するに留めました。こういうのを未練っていうのでしょうか。
私は定期的に関わりのある人間以外の顔と声を記憶し続けるのが物凄く苦手です。だからきっと近いうちに彼の顔も声も忘れると思います。現にあまり明瞭に思い出せなくなっています。でもそれでいいんだと思います。夢ばかり見ている暇は私には無いので。彼もそっちの方が気楽でしょうし、以前彼が私に彼氏が出来て音信不通になったら3ヶ月くらいは引きずる、と言っていましたが、彼も忙しい日々ですから、そんなことを言っても私のことを思い出すこともないと思います。
だから私はこの文章に全ての彼の記憶を置いて、夢の中の出来事だったのだとそう思うことにします。彼が以前私の文章を見て「こんな美しい言葉を書けるようになりたい」と言ってくれたことがありました。私は自分の紡ぐ言葉を美しいと思ったことはありませんが、この文章が彼とすごした穏やかな時間の雰囲気や、好きだったところが、美しく伝わるような文章であればいいと思います。
彼のいる街はよく利用する街ですから、すれ違うことがあるかもしれないし、彼の姿が映った広告を見ることもあるかもしれません。でも以前のように彼の姿を自分から探そうとは思いません。だから体調と怪我には気をつけて、探しに行かなくたって、見ようと思わなくたって勝手に私の目に飛び込んでくるくらい躍進することを陰ながら祈っています。
こんな文章が多くの人の目に留まるとは思っていませんが、万が一彼に迷惑がかかるようなことがあればすぐに消すつもりです。
了