「患者さんとのコミュニケーション」 20年の経験から学んだコミュニケーション術
歯科衛生士として20年間、様々な患者さんと接してきました。その中には、対応に困る場面も少なくありませんでした。今回は、新人の頃に戸惑った経験や、長年の実践で培ったテクニックを共有し、患者さんへの対応を乗り越えるためのコミュニケーション術をお伝えします。
1.歯科恐怖症の患者さんへの対応
歯科治療に強い不安や恐怖を感じる患者さんは珍しくありません。
丁寧な説明と同意の取得: 治療の各段階で何をするのか、どんな感覚があるのかを事前に説明します。「今から○○します。少し○○と感じるかもしれません」といった具合です。
リラックス法の提案: 深呼吸などのリラックス法を提案します。BGMを流すのも効果的です。
合図システムの確立: 痛みや不安を感じたら手を上げてもらうなど、患者さんが制御感を持てるようにします。
成功体験の積み重ね: 最初は簡単な処置から始め、徐々に難しい処置へと進みます。各段階での成功体験が自信につながります。
2.苦手だと思ってしまう患者さんへの対応
要求の多い患者さんや、不満を頻繁に表明する患者さんへの対応は難しいものです。
積極的傾聴: 患者さんの話を途中で遮らず、最後まで聞きます。相手の気持ちを理解しようとする姿勢が大切です。
共感の表現: 「そのようなご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」など、相手の感情を認めます。
具体的な解決策の提示: 問題点を明確にし、それに対する具体的な対応策を提案します。
フォローアップの約束: 対応後も経過を確認することを伝え、継続的なケアを約束します。
3.認知症や高齢の患者さんへの対応
認知機能の低下や身体機能の衰えがある患者さんへの対応には、特別な配慮が必要です。
ゆっくり、はっきりとした説明: ゆっくりと、はっきりとした口調で話しかけます。必要に応じて繰り返し説明します。
視覚的な補助: 説明時には、模型や図を使用し、視覚的な理解を促します。
家族や介護者との連携: 可能な限り、家族や介護者にも同席してもらい、情報を共有します。
環境への配慮: 診療室の照明や音量、温度などにも気を配り、快適な環境を整えます。
4.子供の患者さんへの対応
子供の患者さんは、恐怖心や落ち着きのなさから対応が難しいことがあります。
テル・ショー・ドゥー法: まず説明し(Tell)、次にデモンストレーションを行い(Show)、最後に実際に体験してもらう(Do)というステップを踏みます。
褒める・励ます: 小さな成功でも大いに褒め、自信をつけさせます。
遊び心のある対応: 治療器具に愛称をつけたり、治療を冒険に見立てたりと、遊び心のある対応で恐怖心を和らげます。
保護者との協力: 保護者にも協力を求め、家庭での準備や継続的なケアにつなげます。
5.文化や言語の異なる患者さんへの対応
多様性が増す現代社会では、文化や言語の壁を乗り越える必要性も高まっています。
事前の文化理解: 可能な限り、患者さんの文化的背景について事前に学びます。
やさしい日本語の使用: 複雑な表現を避け、理解しやすい簡単な日本語を使用します。
翻訳ツールの活用: 必要に応じて、翻訳アプリや医療通訳サービスを利用します。
非言語コミュニケーションの活用: ジェスチャーや表情、図示などを積極的に活用します。
最後に、どのような患者さんに対しても共通して大切なのは、「相手の立場に立って考える」という姿勢です。患者さんの不安や苦痛、要望を自分のことのように感じ取り、それに寄り添う対応を心がけることが、良好な関係構築の基本となります。
また、難しい患者対応に遭遇した際は、一人で抱え込まず、同僚や上司に相談することも大切です。チームで対応策を考えることで、より良い解決策が見つかることも多いです。
新人の皆さん、そして復職を考えている皆さん。患者対応の技術は、経験を重ねることで必ず向上します。失敗を恐れず、常に学ぶ姿勢を持ち続けることが大切です。困難な場面に遭遇しても、それを成長の機会と捉え、前向きに取り組んでいきましょう。皆さんの患者さんとの関わりが、互いに実りあるものになることを心から願っています。