
愛おしさ
海が見たくなった。
家族にわがままを言って、海の見える温泉地までドライブをする。
わたしのわがままだったから、子どもたちは文句を言っていた。
だからわたしも機嫌が悪くなって怒っていた。
音楽もかけず無言でドライブを続けた。
そのうち後部座席からは寝息が聞こえてきた。
高速道路のようなバイパスを三河湾に向けて走らせていると、空のアオと雲のシロが視界いっぱいに広がる。
やけにきれいでなぜか泣きたくなった。
途中でうどん屋さんをみつけランチをする。
連日の仲間との飲み会続きでお腹を痛めていたわたしには、日が差し込む畳のあたたかい座敷と、あんかけうどんがとてもやさしかった。
店内の調理場やホールにいる高齢の女の人たちが、サンタの帽子を被りながら仕事をしている姿にほっこりして、お会計の時に「サンタさんの帽子とってもいいですね。」と思わず話しかけた。
レジの女の人は恥ずかしそうに笑っていた。
帰り際に気づいたのだけど、いい感じに年季の入った昭和な店内には、ところせましとクリスマスの飾り付けがしてあって、お店の人がクリスマスを心待ちにしているような気がしてなんだかワクワクした。

お目当ての温泉旅館は、愛知なのに宮崎とい地名にあって、結婚前に行ったことのある青島や高千穂を思い出した。
旅館の名前が竜宮ホテルというネーミングもまたいい感じだった。

ここの旅館もランチのお店同様に、とってもいい感じの昭和感と年季が入っていて、じゃらんのなんとかアワードを受賞した広告が目のつくところに貼ってあった。
お風呂は大浴場と露天風呂が別の階に存在していて、着替えないと移動ができないつくりになっていたから、娘と話し合って大浴場であったまってから露天風呂に行こうということになった。
お風呂はいうことなしの大絶景で、見渡す限り海、海、海だった。
ずっと眺めていても全然飽きなくて、空と海と交互に眺め続けていた。
お風呂から出て着替えていると、
「おこってるときはないてもいいんだよ。」
娘が優しく言った。
「あっ、わたし泣くの我慢してたんだ。」
とっさにわたしは返事をした。
「ないてもいいんだよ。」
彼女はもう一度だけ優しくわたしに言った。
「お風呂出たらアイス食べに行こう!」
なんだかうれしくなったわたしは娘にいつもの元気で言った。
アイスを食べるために入った旅館の休憩所は、UFOみたいで楽しかった。

店内でくつろいでいると、最近よく聴いていたBruno Majorの「Nothing」が流れていた。
窓の外に目を向けると、ほんのり薄紫の空と海が広がっていて、切ない気持ちになった。

帰り道は旦那が運転してくれたから、一番星とUFOを見ていたら、いつのまにか眠っていた。
家に着くと、久しぶりにテレビが見たくなった。
特番の名曲ランキングがやっていて、何気なく見ていたら、ユーミンの「ダンデライオン」という初めて耳にする曲を聴いて、淋しさは幸せなんだと知った。
わがままで機嫌の悪いわたしに、なんだかんだでずっと付き合ってくれた家族が、愛おしく感じる、そんな一日だった。