【1分で読める小説】#シロクマ文芸部「かき氷」『ゴーラーになる君へ』
かき氷が好きでよく食べる人、全国のかき氷屋さんをまわったり、SNSにあげたりする人のことを、「カキゴーラー」略して「ゴーラー」と言うらしい。
十年くらい前からそんな呼び名が付いたらしいけれど、僕の家での十年前ってどんなだったっけ。
風鈴が揺れる音と一緒に、少しだけ風が吹き込んできていたし、テレビからは、ヒットした時の金属バットの高らかに澄んだ音が聞こえていた。
お腹の下からはガリガリ、と氷の削れる音。
そして美羽ちゃんの幼い笑顔が側にあった。
「ぺんぎんさんは、わたしがまわすのぉ」て、よく僕の頭の上のハンドルをお母さんにねだってたっけ。
「お母さん、まだー?」
シロップを手で弄んでいる少女の顔にハッとした。
今年は全然違う。
こんなに暑い夏に風鈴の音は聞こえない。窓を閉め切って冷房を掛けるのは我が家では必須だから。
おやつの時間には甲子園の音も聞こえてこない。午前の部、夕方の部、ってわかれちゃったから。
唯一残ったのは、少し大人びた美羽ちゃんの笑顔だけ。
でもきっと、美羽ちゃんがもう少し成長したら友だちと一緒にかき氷のお店に行っちゃうんだろうな。SNSに写真とか投稿するのかな。そしたらこの家で僕の出番はなくなるな。
お役御免って感じで、暗い箱の中に閉じ込められ続けちゃうんだ。
さびしいな。
もっと大人になった君が、暗い箱の中に光を射してくれる日。
そんな日を願うようになるまで、たぶんあと少しだ。
了
★小牧幸助さんの#シロクマ文芸部に参加しています。
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