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現役の先生のエピソード4      ~こどもから受け取るもの~  

県内こども園 保育教諭

 私は保育士の仕事を30年続けています。
 保育士の仕事に就き、たくさんのこどもと出会い、ただ好きなだけではダメなことを知り、たくさん悩み、失敗もし、周りの仲間に助けられ、今も自分はどんな保育士になりたいのかを考えながら保育に取り組んでいます。
 ある時なぜこんなに長く続けられたのか。どこがそんなに魅力だったのか。改めて振り返りながら考えていると、こどもからたくさんのものをもらっていることに気づきました。
 赤ちゃんがぎゅっと握りしめたおもちゃを穴の中に入れようとしても、上手くいかず、何度も繰り返しているうちに、ポトンと入った時、まるで「やったー!」と言っているかの様にキラキラした目で視線を送ってくれます。パチンと目が合った瞬間なんとも言えない嬉しい気持ちにさせてくれます。

 新学期、新しくクラスに入った3歳児Nさん。新しい環境に不安になり毎日泣いていました。担任がそばに居ても泣き止むのはほんの少しでしばらくするとまた涙が出てきます。ある日散歩へ行く時に5歳児のMさんがそっと手を繋いでくれました。(異年齢クラス)Mさんはなんとか泣き止むように、あの手この手お世話をしてくれたのです。お花を見つけては摘んでくれ、虫を見つけては取ってくれ……すっかり心がほぐれたNさんはMさんを信頼し、卒園でさようならするまで慕っていました。担任は介入せず、こども達だけで関係を築いていき、Mさんの優しさに周りまで温かい気持ちにさせてくれました。
 また、3歳児が三輪車の取り合いになったとき、まだお互いに上手く気持ちを伝えられずにいるので、私も一緒に話をしました。「貸して」と言ってもだめ、「順番こして」と言ってもだめ、「待っているから後で貸して。」もだめ……。本当は奪ってしまいたい気持ちをぐっと耐えて交渉するも上手くいかず、「残念だったねぇ」としょんぼりしている気持ちを何とか切り替えようとしていると、「はい、どうぞ」とさっきまでダメだったのに快く貸してくれました。自分の主張が通った後になら、友達のことも考えられたようです。その後の二人は、ニコニコしながら順番に交代して遊んでいました。自分の気持ちを整理したり、友達のことを考えたり、喧嘩をする前より友達がちょっと近くなったような、どちらの気持ちも垣間見ることができて、私も清々しい気持ちになりました。
 他にも日々生活する中でたくさんの出来事があります。こどもと共に居る中で、いつでもトントン拍子で上手くいくことはなく、何度も友達と意見がぶつかったり、喧嘩をしたりして、私たち保育者は頭を悩ませるときもありますが、その分乗り越えた時、成長を感じたときの喜びを共有できると本当に嬉しくなります。

 子どもの心が動いた瞬間、出来なかったことが出来るようになった瞬間に立ち会えるのは本当に何にも代えがたいもので、私はそれを見たくて続けてきたのだと思います。これからもたくさんの嬉しい瞬間を見逃さないようにしていきたいです。