「データ分析」の3つの仕事を整理する
「データ分析」を整理する
「データ分析」と言ってもその仕事にはいくつかの種類がある。しかし、その違いが整理されておらず各自に思い思いの「データ分析」があるために認識がずれる。
これだけ頻繁に使われている言葉なのにその内容に大きな違いがあることにあまり意識が向いていないらしい。良い状態だとは思えないので、まずは「データ分析」について整理してみようと思う。
「データ分析」の仕事
「データ分析」と呼ばれる行為には、以下のアウトプットがあると考えられる。
提案
インテリジェンス
データ
まずはそれぞれの違いについて簡単に見てみる。
提案
ある課題に対しての具体的な施策の「提案」まで含めて「データ分析」と呼ばれることがある。
与えられた課題に対して唯一の選択肢を提示して意思決定者は「はい/いいえ」を決める
えられた課題に対して複数の選択肢を提示して意思決定者がその中から選ぶもしくはすべてを拒否する
「この方法なら〇〇ができる」と解決できる課題から提示する
共通しているのは分析は提案の根拠としては提示されることはあるが、分析そのものが正しいかが問われることはない。
インテリジェンス
特定の意思決定に使えるように処理と洞察を行って「なぜそうなったのか」「これからどうなるのか」も含めた情報を提供する。この情報を「インテリジェンス」と呼ぶ。
特定の意思決定に使えることが特徴であり、「今年の売り上げを達成するために追加の施策を行うかを決める」という目的に対して、「今年の売り上げの推移の予測」はインテリジェンスである。
ただし1つのインテリジェンスで意思決定ができるわけではない(例えば、予算とか他の施策とかの兼ね合いも併せて考える必要がある)ので「意思決定者の代わりになって考える」というわけではない。
「データ分析」と聞いて、この「インテリジェンス」を思い浮かべる人は少ないようだ。
データ
事実、観測などいろいろと表現があるが、「データ」とはインテリジェンスではないすべての情報と考えるとわかりやすい。
売上の数値や推移のグラフ
特定条件を満たした会員リスト
アンケートのローデータ
これらはデータである。
「今年の売り上げを達成するために追加の施策を行うかを決める」への要求が「過去の月別の売り上げ」ならデータである。なぜならばそのままでは意思決定には使えない。いくら過去の数値だけを見ても「追加の施策を行う」というこれから先の意思決定には使えない。
実はデータを受け取った後に「このままのペースだと予算が達成できないだろう」という”予測”を行って、意思決定者がデータをインテリジェンスにしているのである。
この場合の「データ」、すなわち「意思決定者が分析するための材料」の提供を行うことを「データ分析」と呼んでいることもある。
なお、データ分析で話題になりがちな「分析が高度かどうか」「使うデータが多いかどうか」はデータとインテリジェンスの区別には関係がない。特定の問題があり、その意思決定に使えればインテリジェンスとなり、そうでなければデータである。
意思決定と分析のプロセスとの関係
「提案」「インテリジェンス」「データ」の3つは、意思決定と分析のプロセスのどこまでを行っているのかを考えると違いがはっきりする。
「提案」は「意思決定と実行」まで入り込んでおり意思決定者の仕事の一部を代替している
「インテリジェンス」は「洞察」を行い意思決定者に「伝達」する
「データ」は「分析」のための「収集」に答える
こう見ると、プロセスの中でもまったく違った仕事をしていることがわかる。
なぜ仕事で区別して考える必要があるのか
もし「ビジネス」という言葉だけで「経営」「マーケティング」「営業」「エンジニア」という区別が存在しなかったら何が起きるか考えてみよう。
責任があいまいになる
専門的な知識よりも浅く広い知識が要求される
スキルセットのミスマッチが起きやすくなる
立場が強い人に都合の良い要求や分担がまかりとおる
「データ分析」でも同様だ。なので3つの仕事を区別して考えることが必要だと考える。ただし、仕事を分けて考えるのとどう分担するのかは別の話だ。
「インテリジェンス」が存在しない
こうして区別して考えるとわかることは、日本の「データ分析」には「インテリジェンス」がほぼ存在していない、ということだ。以前から「自分で分析するからデータが欲しい」「そちらで全部考えて提案して欲しい」のどちらかに片寄ることが多く、状況はほとんど変わっていない。
こうなった原因やその良し悪しの話は今回の主題ではないので別の機会にするが、要因の1つは3つの仕事が「データ分析」としてまとめてとらえられてしまったことにあるのではないかと考えている。その結果「意思決定のため」なのに「インテリジェンス」がなく「提案」か「データ」という別の事になってしまったのではないか。
「要求を出す側に認識をしてもらうにはどうするのがいいのか」という問題
つらつらと書いてきたが、要求を受けて「データ分析」を行っている側、職名でいうとデータアナリスト、データサイエンティスト、リサーチャーあたりはこれらの認識をしているか、聞けば納得してくれる人が多いと思っている。
ただ、区別がつかないことによる最大の問題は、要求を受ける側だけが認識していてもあまり意味をなさないことではないか。
経営者、マネージャー、企画者、マーケターといった主に要求を出す側に違いの認識がほとんどないらしい。今まで誰も伝えてこなかったのだから仕方がない。そもそも「データ分析」を行っている側さえ区別がついていないこともあるのだから直接データに関わっていない側に責任を問うのは筋が違う。
なので次に考えなければならないのは「要求を出す側に3つの仕事の違いを認識をしてもらうにはどうするのがいいのか」になるだろうか。誰かを動かすとか一番苦手な分野なので、資料を作って別の人に広めてもらうのを狙うかなあ。