夢を支える家族
「面白かったね」
「あそこのシーン凄くなかった?」
スクリーンの中のエンドロールが終わり、暗かった館内に明かりが灯ると観客達が各々立ち上がり、共に来た友人が居た者はその友人と語り合いながら出口へと向かう。
「…………」
そのような中にあって、つかさはエンドロール後であり暗闇から解放されても暫し余韻から抜け出せなかった。
しかし次の上映までに席を離れなければと思い至り、椅子に座る観客が一人も居ない中で最後の一人として出口へと向かう。
「……はあ」
館内を抜け出し、お手洗いへと続く狭い通路にあるソファに腰掛け一息吐く。
果たしてそれは、映画に満足しての一息であったのか、数時間座っていた身体を一度解せた事による解放感から来る一息であったのか。
――いいや、そんな簡単なものではなかった。
「……すごいなあ……」
様々な映画を見れば、感想もまた様々と出て来るものだ。
つまらない映画、面白い映画、見るんじゃなかったと思わされるような酷い映画もあれば、一生のうちでこの映画に出会えて良かったとまで思わせてくれる映画もある。
――だが、それは見る側だけで満足していればの感想でしかない。
同じ道を目指そうと思ってから、どれだけの映画に感銘を受け、打ちのめされ、悔しいとも思い、更にはやはりこの道を目指す自分に自信を持つ事が出来たのだろう。
目線が変われば感想も変わるもので、素晴らしいと思えた映画はもちろんの事、評価の低い作品にでさえ気づきをもらえる事が多い。
世間の評価が酷なものであったとしても、監督という立場になろうと思って見てみれば、その映画を作った者が何を伝えたかったのかを考えてしまうもので。
一度それを考えてしまえば、全ての作品に何かしらの意味を見出す事が出来て。
――出来てしまって。
その度に、本当に自分にそんなものが作れるようになるのだろうかと自信を失っては、それと同時にその素晴らしい作品を残した人々に追い付きたいと思うと同時に、自らが目指す道が輝かしく思えて自信さえも持たせてもらえるのだ。
今の自分は確かに、素晴らしい作品を見終わると同時に作品が素晴らしいからこそ落ち込んでもおり……かと言って作品を見た事自体には満足度を覚えている。
夢を見ると言うのは、夢を追うと言うのは、なんとややこしい感情を自分に与えるのだろうか。
「……あ、時間だ」
それでも時間は進むし、落ち込んでいるばかりではいられない。
満足度を得た気持ちと暗く落ち込む気持ちを同時に抱えるという、人間らしい矛盾した感情に蓋をすることはなく気持ちを切り替える。
感情に蓋なんてしない――するわけがない。
作品を作る上で、その矛盾していて背反している感受性というものは、とても大事なものなのだから。
ソファから立ち上がり、時間になったので約束の場所へ向かうと待っていた女性もこちらに気付いたようで、つかさに向かって快活な笑顔を向けて手を振った。
「もろみん」
近付いて名を呼べば、仲の良い姉、さおりが嬉しそうに笑みを深める。
「今日も可愛いな、ちゃんつー!」
勢いで出た言葉のような雰囲気ではあったが、本音で言ってくれているのは分かるので素直に姉にお礼を言っていると、待ち合わせの最後の一人がやってきた。
「あれー? 二人とも、もう来てたのぉ?」
「まま」
ぽてぽてと歩いてやってくる二頭身のたぬきが居たが、言葉に出した通り彼女は紛れもなく二人の母、みさくであった。
「やーやー、ごめんねえ。遅れちゃった?」
「私達も今会ったばっかだよ」
「そうなのー。じゃあ早速行っちゃいますかーっ」
「よし、行こうか」
みさくに同意すると、さおりがみさくの小さな手を繋ぐ。その姿は確かに母娘のようではあるが、小さな子供に見える側が母であるという矛盾があった。
つかさは、先程まで自分も感情の矛盾について考えていたなと思い返して、なんだかそれが可笑しくて思わず小さく声を出して笑ってしまった。
「どうしたの、ちゃんつぃー?」
「ううん、なんでもないよ。まま」
不思議そうにこちらに振り返って繋いでいない方の手を差し出すみさくの手を握り返しながら、笑みを浮かべたまま返事を返して歩き出す。
「今日も飲むぞーい!」
「おー!」
「ほどほどにね……?」
これがあるから止められない。
確かに落ち込む事もある。打ちのめされる事だってある。もう無理かも知れないなんて、ちらっとでも思ってしまう事もこれから先ないなんて事はないだろう。
でも、自分は落ち込むのと同時に希望ももらっているのだ。
色んな作品を見て、落ち込むのと同時に希望を見出して、そうしてこの家族達と会えば楽しさで落ち込んだ気持ちが消えて――後には希望だけが残る筈だから。
だから、つかさは――私は、諦めずに歩き続けるんだよ。
まま、もろみん――いつも、ありがとう。
━━━━━━━━━━━━━━━【重要】━━━━━━━━━━━━━━━
こちらVtuberのあるくるーず様(@alcruise)のちゃんつーことつかさ様(@alcruise_tsu)の誕生日にお送りさせて頂いた文章です。
こちらの文章はあくまでも、ちゃんつー様ご本人にお送りさせて頂いた文章であり、所有権等、裁量等はちゃんつー様ご本人に帰属する文章であります。
こちらの文章を何処かへと使用したい等の許否はちゃんつー様ご本人がお持ちであるとのご理解をお願い申し上げます。
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