中華の日々⑮ 東の男、不惑にして立つ
中国人の同僚にバレた。
「ギターが弾けるんですね」
またこの時が来たか、と思った。
「ぜひ、クリスマスソングを――」
「いえ、その……」
いつもながら「弾けるが弾けない」という説明を試みることになった。
まったく楽器ができないという同僚に、私は言った。
「そんなあなたが、自分のギターを弾けるようになったようなものです。理論も用語もわからない。楽譜も読めない。でも、とあるきっかけで弾き始めて、コードの勉強もせずに弾き続けて、しかも好きになったから狂ったように弾きまくって…そしたら、なんか自分のギターだけは弾けるようになった。私のギターはそんな感じなのです」
幸いドン引きはされなかったが、私は思うところがあった。
私はコードを覚えることにした。およそギタリストの手ではない、それこそ昔懐かしのクリームパンのような形状のそれ。そしてまたやたらと短い私の指だが、長年の狂い弾きによってアホみたいに動くようにはなった。作曲のためにも間違いなくコードは弾けたほうがいいし。
なにを今更という結論に達し、人間のギターを覚えることにした私だった。
東の男、40にして立つ。
我ながら立ちくらみしてしまいそうな理由だが。
とりあえず煙草を買って、公園に行くことにした。
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