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【心象の風景】 ある夏の日 ~ AOU アルバムに寄せて
ほとんど無限のように広がる夏の心の中に、しまわれた、私たちの物語。
それは、本当にいくつもの世界が重なり合い、そして互いに干渉しながら、また過ぎ去っていく、湖の水面に映る波模様のようだった。
「全ては繋がっているから」
という声が、私の元を通り抜けた時、景色の中に鎮座する山々は、しずと私を見るともなく見つめていた。風が梅雨明けの湿った空気を、もったりと運んでいる。太陽は、力強く核融合を続けていた。
私には、鳥の声が聞こえた気がした。
白い鳥。彼らは、田んぼに点々として、食事にありついていた。
また、風が、私の肌を通り抜けた。
妻とともに、私は、ベビーカーを押しながら、田園風景の中を歩んでいた。この道を私は何度も、何度も歩いた気がした。
足は、そのことを知っているかのように、無言に進んでいく。私の中の、何かが、開かれていく。歩行に伴う単調なテンポと、暑すぎる太陽が、深い深い、記憶の通路を開いていく。
私はこの道を、無限の生の中で、数えきれぬ回数に渡り、永遠に歩いてきた。
私の周りの景色は、色を帯びて、そして無数の糸となって、私にまとわりついた。それは、空気中の水分の多さが象徴する、大いなる夏の記憶であり、私という存在を貫く無限小の紐たちであった。
私は、この道を何度も、何度も、夢の中でも、記憶の中で、遠い未来において、過去において、そして、今において、歩いていた。
また、風が吹く。
0歳の娘が、まだ言葉のない声を発する。その声の響きの中に、私は、含まれている。隣を歩く妻も、足もとのコンクリートの歩道も、道路をゆくセダンも、空を横切る鷹も、虫も、水が入りたての田んぼも、その声に含まれている。
パシャリと、誰かの瞬きが聞こえる。
風景は、私たちに遍く流れる存在の瞳に確かに映り込んだ。
分割した時間には決して現れない明滅が、一瞬一瞬、世界はシャッターを切り続ける。
無限の中の営み、光と闇の、見えない連環。
瞬く、その刹那に映る、真実の扉を、開け放つ。
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