舞台づくりは人づくり 教育は愛なり
今年は最後までこうして振り返ることをじっくり時間をとって出来ない、という状況が全てを物語っていて、それなりに歯がゆい想いをし続けた1年だったかもしれない。
3月、コロナ禍2回目の卒業式が巡ってきた。パフォーミング・アーツ学科名物の礼拝堂での卒業証書授与式は、あの手この手を使って多くの人に祝福してもらえるよう総力を上げて挙行。
赤レンガでの公演を断念しつつ、昨年竣工した大学3号館4階新スタジオで無観客配信公演如月小春『夜の学校』を撮影。関わってくれた4年生は劇中の卒業式が本当の「卒業」になった。これぞ演劇。
4月、初の演劇・舞踊学科生入学。ちなみに僕も4月から演劇・舞踊学科所属になりました。
7月、春学期野外公演『女の平和』。換気抜群。コロナ禍を乗り切る起死回生、3年ぶりの野外公演。約80名の出演者と70名のスタッフで怒涛の1年半ぶり一部観客を入れてライブ配信で臨みました。演劇の起源、古代ギリシアから日本の戦国時代に置き換え翻案、潤色、贅沢にも不破大輔先生監修、渋さ知らズの楽曲に歌詞をつけさせていただいて和風音楽劇仕立てに。神崎由布子先生、青山典靖先生の振付という全力投球で、疫病退散の願いを込めて。
9月。ついに演劇研究室移転。大学3号館1階の101を全面リニューアルし、機能拡充した新しい共同研究室が生まれました。同時に102教室はラボとして、302教室を第5スタジオとして改修する工事が完了。初めて起案書を書いた2年にわたる大学3号館改修プロジェクトは無事完成しました!
10月、突然の一大イベント奏學祭。コンサートだからステージマネージャーだと受けたものの、あれよあれよととんでもなく巨大なイベントとなって気がつけば総合演出で舞台監督というノイローゼになりそうな数日を過ごしました。いや、やり切りますよ。演劇人ですからね。
そんな翌日積み込み、2日後に伊豆大島に向けて出発。コロナ禍以来学内公演すらまともに観客を入れて出来ていないのに、学外に旅公演なんて無謀だと言われていた時期。沢山の人の舞台芸術に対する強い想いと希望を高速ジェット船に詰め込んでシバイノタカラバコを開けることが出来ました。TAIKO & DANCEとともに新しい形で玉川の「飛ぶ教室」を引き継いで行きます。
実習だけではありません。4年生のゼミはUber Arts Projectが発足。舞台芸術界の今に切り込むべく、トップを走る数々の皆さんにインタビューを敢行しました。快くご協力くださった皆さま、本当にありがとうございました。そして果敢に「やりたい」に挑むゼミ生を誇りに思います。
もう一つ、演技の4年生ゼミも新たに始まり、「多和田ゼミ」ってどっちの?という不思議な質問が成立する時代になりました。演技のゼミでは春は日本劇作家協会「戯曲デジタルアーカイブ」から数作品に挑戦。朝9時半開演の授業発表にも沢山の学生が観にきてくれました。日本の戯曲の楽しさ、強さ、逞しさと魅力をもっと体験し、伝道者になって欲しい。まもなく初の最終発表、野田秀樹『オイル』は、大学3号館4階の第2スタジオ、そしてついに最後の時を迎える実技実験棟501教室の2箇所で上演します。
ちなみに3年生の授業は演技と戯曲研究の両方で同じ戯曲に取り組む新しい試みを実施中。唐十郎『動物園が消える日』。戯曲が「提示する事実」と、舞台で観客に「判明する事実」の両面から演劇を考えています。難しい?大学生だもの。難しいから楽しいんだよ!
不破大輔先生と4年目のパフォーミング・アーツ演習は別役実『さらっていってよピーターパン』。シュールな子ども向け?ミュージカルを全編創作楽曲で進めています。『饑餓陣営』以来の名作出現の予感。
演劇教育、表現教育ってポストコロナ時代のトレンドになりそうですが、コミュニケーション能力向上とか、シアターゲームは沢山の優れた人がやってくださるので、僕は愚直に戯曲を解釈する人間として学び舎で生きていきたい。
変わりゆく時代、それに伴って変わりゆく演劇や教育のトレンド。
でも僕たちは、芝居作りだけしているのではない。
人を育てながらともに歩み、僕たちも人に育てられている。
その感謝を込めて舞台を生み出し、世に送り出す。ものづくりの原点が、この学び舎では人づくりであることには信念を持って臨みたい。
教育は愛なり。
手間も暇も本当にかかる。いかに楽をするかなんて考えてたらすぐ見透かされる。次代を担う若者を預かる覚悟は愛でしかない。
向き合ってきた4年生からちらほらと嬉しい未来の展望についてのお知らせが舞い込む時期になりました。一緒に過ごしたみんなが次の一歩を踏み出す、その瞬間に喜びを分かち合わせてくれて、ありがとう。
母校の高校の教育理念が今、すっと脳裏に蘇ってきた、そんな2021年末です。
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