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Issue #10 | 犬猫の殺処分

地域・社会の課題を考える「Issue」。

今回のテーマは、「犬猫の殺処分」です。


家族の一員として人と共に暮らす犬猫。

核家族化が進み、昨今のコロナ禍を背景とした孤独・孤立といった社会課題が顕在化するなか、家族の一員としての犬猫の存在はますます大きくなっていくことでしょう。

人と動物が共生する社会の実現に向けては、飼い主の責任も問われます。

動物愛護管理法(環境省)でも、動物の飼い主には、その動物が命を終えるまで適切に飼養する「終生飼養」の責任があると明記されています。

一方で、飼い主都合(経済的理由、関係性の理由、家庭環境変化や死別)により行き場を失う犬猫も。こうした犬猫は、保健所や動物愛護センターに引き取られ75%強が次の飼い主の元などへと引き渡されているとのこと。

しかしながらその影では、殺処分の問題が指摘されています。その数は年々減少をしているものの、R3年度も、犬2,739頭/猫11,718頭の殺処分が報告されています。これは、毎日約40頭が殺処分されているということを意味します。

引用:環境省 HP「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」 
引用:環境省 HP「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」 
引用:環境省 HP「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」 


犬猫に関わるステークホルダーの実態と「犬猫の殺処分」問題解決に取り組む国・民間の動向を見ていきます。


■犬猫に関わるステークホルダーの実態

[ペット産業の実態]

ペット産業の基本的な構造は、繁殖業者(ブリーダー)が繁殖→ペットオークションに出品・競売→ペットショップが購入・販売というものです。これは一般のビジネスと同様の経済原理が働くため大量生産・大量流通の仕組みが生まれています。

この仕組みが引き起こしている課題として、過密かつ不衛生な環境で飼育を行うブリーダーや売れ残った犬猫(余剰犬猫)の遺棄をするペットショップの存在などが出てきています。

また、2012年の動物愛護管理法改正により、保健所や動物愛護センターが繁殖業者やペットショップからの余剰犬猫の引き取りを拒否できるようになると、その受け皿として引き取り屋といわれる業者が台頭。一部の引き取り屋による悪質な飼育実態も大きなニュースとなりました。

[飼い主の実態]

一般社団法人ペットフード協会によると、犬猫の飼育頭数は、犬7,106,000頭/猫8,946,000頭。飼育頭数(総数)の推移では、犬は減少傾向/猫は増加傾向にあるとのこと。また、コロナ禍を経ての(R元年度比の)飼育頭数(新規)の推移では、犬猫共に増加しているといいます。

一方で、先述のように飼い主都合(経済的理由、関係性の理由、家庭環境変化など)による飼育放棄が問題に。
*保健所や動物愛護センターに引き渡すこともせず捨て犬猫となることも。

また、近年、顕在化してきた問題としては、一人暮らしの高齢者の入院・死亡により飼手不在となるというものが。一人暮らしの高齢者が孤独死し数ヶ月経って発見された際、衰弱した猫も見つかったという事例もあるとのこと。


■「犬猫の殺処分」問題解決に取り組む国・民間の動向

ペット産業、飼い主双方に犬猫の殺処分につながる要因があるわけですが、これらの実態を踏まえ、国・民間でさまざまな課題解決に向けた動きも出てきています。

国では、2012年法改正により抜け穴が生まれてしまった引き取り屋問題の反省を踏まえ、2019年法改正において「販売業者への所有者登録義務化(飼育する犬猫へのマイクロチップ装着)」による遺棄抑止対策、「出生後56日未満の販売制限」による飼い主の飼育放棄抑止対策といった改善策を講じてきました。

また、業界団体である一般社団法人ペットパーク流通協会もシェルター運営や譲渡活動を展開。保護犬猫と里親とをつなげるマッチングサービスやプラットフォーム事業を行う民間事業者の誕生などSDGsの普及やESG投資枠の増大など社会潮流の後押しも相まって、民間発の取り組みの萌芽も出てきています。

*一方、「犬猫の殺処分」ゼロにというスローガンの弊害(動物愛護団体に過度な負担を強いてしまうなど)も一部で出てきているという指摘もあります。詳しくはRidilover Journal記事「「殺処分ゼロ達成」の裏で起こる不幸」をご覧ください。


【所見 -あり方を考える-】

「犬猫の殺処分」の問題を見ていく中で見えてきたこと、それはペット産業という産業が持つ特殊性です。

通常のビジネスで見れば、商品を売れば売るほど稼げるというビジネスモデルに対し違和感を抱くことはないわけですが、ペット産業が流通させる商品は“モノ”ではなく“命”です。ここに特殊性があるわけです。

(もちろん、“命”を取引している産業は食品ロス問題などがいわれる食関連産業も同様です。これについては過去の記事をご覧ください。)

殺処分される犬猫は、人間の都合で産まされ、取引され、おしまいには「不要・処分」と烙印を押されているそんな状況にあります。

“命”を取引する以上、殺処分と安易に決めてはならない。
改めて、そう強く思います。

犬猫の殺処分の問題。その解決に向けては、ハードとソフトの双方の力が大切ではないかと思います。

ハード面では、2019年の動物愛護管理法改正による「販売業者への所有者登録義務化(飼育する犬猫へのマイクロチップ装着)」「出生後56日未満の販売制限」のような法律の整備を通じた、産業の交通整理と終生飼養の責任を持つ飼い主に対するルール提示と意識醸成を。

ソフト面では、行き場のなくなってしまった犬猫に対する活躍の場の提供を。
(孤独・孤立問題対策としてのペット信託付き里親マッチング、地域コミュニティのハブとしての共同飼育モデル創出、命の重みへの理解醸成のための学校への配置など。)


多様性を認める社会づくりが進む中、声を上げられないマイノリティである犬猫にも優しい社会となっていったら素敵だなと思います。


<参考文献>

▷リディラバジャーナル
intro【犬猫の殺処分】行き場を失う命
no.1 流通でこぼれ落ちる余剰分の犬猫
no.3 「かわいくなくなった」だけではない、飼育放棄の理由

▷環境省
犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html

▷一般社団法人 ペットフード協会
2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査https://petfood.or.jp/topics/img/211223.pdf

▷PEDGE
日本における犬猫の殺処分の実態 ~現状と先端的な解決策〜
https://pedge.jp/reports/satusyobun/

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