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小さいけど、あとからジワジワおいしくなる。中小規模の野外フェスがつくるグッドネイバーフッド

2021年12月19日、アースガーデンでは、八ヶ岳周辺のみなさんと素晴らしいアーティストと共に「ハイライフ・エクスプレス」を開催した。混乱の2年間を経て、どっと溜まった疲労感を忘れさせてくれるような、軽やかで楽しい場となった「ハイライフ・エクスプレス」。

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疲労感の正体を考えた時、アースガーデンがハイライフ八ヶ岳を通じて築いてきたことの価値も見えてきた。それは、小さくて遅効的なフェスが果たせる新しい役割だと思う。

久しぶりの「忘年会」的な場

あぁ、これは忘年会だなぁ── 。と久しぶりの感覚だった。

これまでずっと夏に開催してきたハイライフ八ヶ岳の冬バージョン。積雪が残るほどの寒さですから、さすがに野外での開催ではない。ハイライフ八ヶ岳2021の翌年への延期を発表した直後に急ピッチで開催を進めた「ハイライフ八ヶ岳 AIDラジオ」という配信ライブの会場をもう一度お借りして、アースガーデンとしては珍しい屋内企画だった。

200人ほどの参加者のみなさんが集まり、ライブを見て、八ヶ岳の美味しいご飯とお酒を楽しむ。古着屋さんが日常+アウトドアに溶け込むスタイリングを提案してくれたり、キッズが楽しめるフランスの積み木 カプラのコーナーがあったりと、さまざまな要素が同時進行で展開される。小さいながらもちゃんと「フェス」だったと思う。

関係者同士、関係者と参加者、参加者同士…あちらこちらで「今年も大変だったねー!」と、挨拶が交わされる。関係者も参加者も、みんなハイライフファミリーだ。近しい人同士で労をねぎらう忘年会感がとてもうれしかった。だって最近、本当に疲れていたから。

大きいことが引き起こす軋轢と疲労感

2021年を思い返そうと思っても、なんだか漠然としている。2020年のできごとだったか、それとも2021年だったか、曖昧なことも多い。2年続く混乱した社会を経て、疲れが蓄積している。

野外フェスの当事者として、2021年の大きなトピックはフジロック開催の是非をめぐるあれこれ。ジャパンジャムやスーパーソニック、波物語などでも、一喜一憂した。そういえば、オリンピックもあったっけ。

鬱屈とした毎日に嫌気が差し、非日常に逃げ込みたい気持ちは僕にも常にある。日常からかけ離れた体験を生むには、大規模な仕掛けが必要だ。大きなステージ、腹に響く重低音。多幸感。多くの参加者との一体感、広大な自然、巨大なアート、簡単には食べれない多国籍な料理やお酒。

巨大な仕掛けをつくるにはあらゆる職能が必要だ。アーティストのライブを実現するための音響機器やステージの設営、参加者の腹と好奇心を満たす飲食・物販出店者、会場の内のあらゆるテントや机などの備品、電気が水道、トイレなどのインフラ、参加者が寝泊まりする宿泊施設、参加者や必要備品を運ぶ物流…。それらは、地域内・地域内外の経済をグルグルと回す。

経済だけでなく、体験やアイデア、クリエイティビティなどの形にならないし単純にお金にも換算されない無形資産もグルグル回る。大規模になればなるほど、渦は大きくなり、パワーも増大する。

基本的に「大きいこと」が良しとされてきた世の中だけど、軋轢も大きかったことはご存知の通り。SNS時代、いろんな人の声が可視化される。自分の考えが絶対ではないと気付けることは悪いことではないけど、最近は見えすぎる。気にしなきゃいいと言えるほど、神経が図太くもない。

関わる人が増えれば増えるほど、内部での意見も多様になる。大きいことを成し遂げるためなら、トップダウンが効率的だ。なるべく閉じて、少人数で、密室で、事をすすめればいいかというと、そんなことはない。SNS時代は閉じていることも許されない。森喜朗氏を始めとするさまざまなオリンピック人事のニュースなどはまさにそれだろう。

しかも、自分にとって関係のない遠くのことであれば、いくらでも好き勝手言えてしまう。フェスも、フェスの開催地域も、大多数の人にとってはどうでもいいことだ。自分に関係がなければ、好き勝手言える。複雑なことに目を向けるほど関心はない。

大きいことを成し遂げるためのハードルは相当に高くなった。大きいことのメリットに、両手を挙げて歓迎もできない…。

小さいことの価値の再認識

壮大で圧倒的な体験の必要性を肯定した上で、その真逆の方向にある価値にスポットが当たっていけばいいなと思っている。ハイライフ・エクスプレスからその要素を抜き出してみる。

まずは小さいこと。集まった参加者は200人ほど。2つのステージで、1つのステージの後方と野外に数店舗が集まったのみ。アーティストも11数組だ。それであのアーティストラインナップなのだからとても贅沢な場だった。アーティストもいい意味で肩の力が抜け、まろやかな演奏になっていたと思う。参加者の皆さんからは見えない舞台裏では、アーティストもスタッフも同じ関係者ケータリングスペースを使用し、地元の食文化を楽しんだ。アーティストと地域のつながりは、フェスが生み出す貴重な価値のひとつ。アーティストが気に入ってくれれば、単独ライブに来てくるかもしれない。都市的な文化資源に乏しい地方だったら、住民の皆さんの生活を豊かにしてくれる。地元の食や自然資源を広めてくれることもあるかも。

物理的・心理的な近さも心地よかった。今回の参加者は多くの人が近隣の方や関係者の方で、クラウドファンディングに協力してくれた方も多かった。距離的に遠い場所に住んでいる人でもあっても、気持ちとしてハイライフに近しい人が多かったと思う。(近い人にしか情報が届いてないだけかもしれないけど笑)。出店してくれたみなさんも地域の人。八ヶ岳の衣食住の魅力が詰まっていた。

さらに、ハイライフ八ヶ岳がこれまで歩んできたプロセスは、とても風通しのよいものだった。初期から「地域拡大ミーティング」で地域の関係者を増やしていったこと、2021年の開催の是非にあたって参加者からの声も募ったことなどなど。

参考

こうした風通しのよさゆえ、2021年のハイライフ八ヶ岳は2022年へと延期になった。地域の人と、さまざまエリアのスタッフと、参加者が、それぞれ自分の思いを言葉にして、真剣に悩みながら決めた。苦渋の決断ではあったけど、大きな軋轢は生まれなかった。最近のニュースで話題の、ロック・イン・ジャパン開催地変更を聞き、大きいことの難しさを改めて考えた。

継続的で遅効性のある野外フェスの価値を磨きたい

ある程度まとまった経済や資源がドカンと動く大きなフェスは、即効性の薬みたいなものかもしれない。そうじゃなくて、遅効的で継続的な漢方薬のような野外フェスの価値を見いだせないだろうか。

2017年にハイライフ八ヶ岳を初開催したとき、チケットが売れたのは300枚だったし、地域の関係者も随分と少なかった。5年をかけて、チケットは1500枚ほど売れるようになり、地域でスモールビジネスを営む人がたくさん出店してくれるようになった。地域で積極的に関わってくれる人たちとのMessengerグループは70人になった。

小さくても、地域へ価値提供できるのではないか。アースガーデンが拠点の一つとする東京のあきる野市では、アースガーデンが開催してきた地域での野外フェス・野外ライブに来た参加者の中から、移住する人が現れた。同じく10年以上フェスを開催していた山梨県道志村でも、アースガーデンのフェスがきっかけになり移住した人がいると聞いている。

地域コミュニティのネジを巻き直すように、地域やコミュニティの刺激にもなれる。年に数回のイベントで、非日常を地域に持ち込む。そうすることで、新しいアイデアが生まれる。

新しい何かを生み出したいのであれば、顔見知りや仲間同士で集まっている場合ではないと思います。アイデアのジャンプが起きるかどうかは、自分と異なる文化や価値観の人といかにつながるか次第だからです。その点で、地域ベースのコミュニティは顔ぶれが定まりがちです。一方、都市には多様な知識や技術、さまざまな知見やスキルに通じた人がいるという利点がある。とかく、地方で変化を起こす際には大変な苦労を強いられがち。

「都市と生活者のデザイン会議」④『MEZZANINE』編集長と考えるこれからの街と生活者の関係とは?(後編)より

最近は地方の暮らしに憧れて、移住する人も多い。センスのが光るとびきりのお店や企業がポツリポツリとある地域は、八ヶ岳に限らずたくさんある。小さな野外フェスは、そういった個店が気軽に集い、刺激しあえる場になり得る。大きすぎると、個店が埋もれてしまったり、純粋な消費の対象になってしまったりする。こだわりを持つ個店のオーナーやスタッフとじっくりコミュニケーションが取れるのは、参加者にとっても刺激になるだろう。そこに感度高く生きるアーティストや、他地域からの関係者が加わればなおさら、アイデアのジャンプも遠くに着地できる。

野外フェスを中心にしたコミュニティが生まれて、アイデアや経済、気遣いをグルグル回す。経済的にも文化的にも新しい流れを生み出す。これまでは、どんどん大きくすることが是とされてきたけど、小さく濃くやることで生まれるものもある。

観光業において、マイクロツーリズムにフォーカスが当たっているのは知ってる人もいらっしゃると思う。遠くのどこかに行かなくても魅力的な旅ができるんじゃないだろうか、という新しい旅のスタイルだ。そんな価値の転換はあらゆる産業でおきていくんじゃないだろうか。

まだまだ道半ばではあるけど、確実にアースガーデンは実績を積み上げてきたと思う。八ヶ岳でもその手応えがある。だからこそハイライフ・エクスプレスは「忘年会だ」と感じたのだろう。ハイライフ八ヶ岳を取り巻く良いネイバーフッドを築き、共に遊び、ねぎらう。それは「一見さん」同士では生まれない感覚だから。

木を植えてもいきなり甘い果実は採れない。でも、あとからジワジワとおいしい実がなる。そんなフェスの価値が提案できないか、アースガーデンの挑戦だ。

2022年もきっと大変だと思う。でも、ぼちぼちやっていきましょう。継続的なコミュニティ醸成と遅効性のある価値を大切に。今年もよろしくお願いいたします!

Photo by 古厩志帆、GOOD SENSE

アースガーデンウェブより転載


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葛原信太郎
将来的に「フェスティバルウェルビーイング」の本を書きたいと思っています。そのために、いろんなフェスに行ってみたい。いろんな音楽に触れてみたい。いろんな本を読みたい。そんな将来に向けての資金にさせていただきます。