「北海道は敵がいなくてNo.1、なんだけど…」戦略的多拠点居住定点観測対談 2019→2020
最近流行りの多拠点居住。自然がいっぱいで、憧れの田舎生活でスローライフを満喫!みたいなイメージがはびこる中「ちょっと待てよ」と。実際やってみると思うわけです。そんな画一的な多拠点居住しかないなら、ユルフワな人たちしかやれないよ、と。
札幌と首都圏の二拠点生活をしながら、どちらの拠点でもガチで仕事をする田島と葛原が、二拠点居住の本音と問題、それでもやっぱり多拠点で魅力的だよねっていう話をつらつらと。
定期的にアップするつもりでしたが、難しかったので、1年に1回の定点観測でいけるといいよね、と思っています。
前回の記事はこちら
札幌・首都圏の二拠点居住は、一旦終了
葛 ってか田島さん、札幌からいなくなっちゃうんですか?
田 そうなんです。理由はいろいろあるんですが、関東中心で活動している自分の一般社団法人(MRS)や芸術祭(みなとメディアミュージアム)にしっかりコミットしたいというのと、そのタイミングで東京の大学からのお話があったこともあり、さらに色々考えることが(あれから)ありまして、東京に拠点を戻すことを決意した、という感じです。
葛 実は僕もなんですよ(笑)。
田 おお、偶然(笑) なんでですか?
葛 ぼくもまぁ、いろいろありまして(笑)。端的に言うと、札幌の僕の上司的な人が愛知に引っ越すので、札幌での仕事がなくなったから…という感じなんですが…。
田 なるほどねー。基本は札幌撤退ってことですよね。
葛 丸3年で、横浜札幌の2拠点は一旦終了ですね。
田 お疲れ様でした!札幌、振り返ってみると、どうでした?
葛 すごく好きになりました。札幌、最高です。僕、暑いの苦手なので…。温暖化は止められないと思うし、そうすると関東も住みにくくなっていくんじゃないかなぁと。長期的に考えてたら、北に住むのがいいのでは?とすると、札幌の適度な都市感はいいですよね。これから先、北の土地の価値は上がっていくんじゃないでしょうか。
田 確かに、ここ数年の本州の夏の気温上昇はおかしいですもんね。
葛 札幌は生活コスト低い割に、都市としての刺激も適度にある。かなり理想的な街だと思っています。
田 うんうん。すごく共感します。一方で、二拠点居住だと十分に楽しめなかった部分も感じていたりします?これ、実は僕がそういう感覚があるんです。
葛 といいますと?
二拠点居住の難しさ。フットワークを軽さが解決できないこと。
田 例えば、僕の場合だと「平日札幌・土日東京」みたいなことが多かったんです。そうなると、面白いイベントに限って札幌は土日にやり、東京は人が多いから、平日に面白いイベントがあったりする。毎日、どっちかで「うわー、なんで俺いないのー」ってのは多かったかもしれない。
葛 それは確かにもったいないですね〜。僕の場合は少なくても一週間は札幌にいるって感じだったので、平日も土日も過ごせたんですよ。僕の物足りなさで言えば、札幌のローカルに関わる仕事をつくれなかったことでしょうか。取材系はあったんですけどね。セコマとか。
田 この記事ですね。なんで、札幌のローカルに関われなかったとか、象徴的な理由ってあります?単にタイミングとか偶然の問題?
葛 フットワークの軽さを重視して、どこでもできる仕事にフォーカスしすぎたんだと思います。記事を書くって、取材さえ終わればどこでも書けるので、フットワークは軽い。でも、ローカルで仕事を作るってじっくりやる必要があるじゃないですか。
田 わかります。それで僕は去年本当に苦労しました。二拠点居住によって、ローカルの仕事の中にある「ちょっと顔出して10分話せば解決できる地域の問題」に対処できないケースが増えてしまった。東京に住んでて、関東の他地域で活動している時は割と対処できてたんです。だけど、札幌ー東京の二拠点居住だと、さすがに距離がありすぎて、これができなくなってしまう。最初はオンラインワークでカバーできると思ってたんだけど、僕の能力的に限界があった。そもそもテキストコミュニケーションが苦手な人がそれなりにいて、そういう人に無理にSlack上で長時間ディスカッションをやらせることもできない。結果として、去年はいくつかのコミュニケーショントラブルを起こしてしまいました。
葛 僕の場合は、もともと「ローカルで仕事したい!」という強い意志があったわけではないので、心残りというわけではないですが、何かやってもよかったかなぁという気持ちはあります。
札幌・北海道の可能性は、挑戦のしやすさ
田 学びとしては今思えばポジティブな部分は沢山あって、一つはオンラインコミュニケーションの工夫と限界を知ることができたこと。もう一つは、残酷かもしれないけど「繋がれる数」には限界があるということと、だからこそ誰と協働をしていくべきなのか、とても考える機会になりました。
葛 僕の場合は逆に仕事じゃないから、単純に「友達が増えてハッピー」みたいな気持ちがあります。先日「自立とは依存先を増やすことだ」っていう言葉に出会ったんですが、例えば東京で大きな災害があったとき、札幌に頼れる人がいることが、自分の人生にとって、大きなセーフティーネットです。
田 それはある!「北海道で活動している」だけで繋がれた楽しさもありました。そうそう、浦幌知ってます?とても良いですよ。
葛 浦幌には何があるんですか??
田 「#札幌discover」「#北海道discover」の作り主の、地域おこし協力隊の古賀詠風さんとの出会いが最初だったんです。浦幌に行ってみると、除隊後も残っている協力隊の方々と現在の協力隊員が、個性を出しつつ、ゆるやかにまとまって仕事をされていて、可能性を感じました。旧常室(とこむろ) 小学校を活用した常室ラボは卒業生と協力隊の拠点として使われていました。地域おこし協力隊卒業生の森健太さんは、オーガニック化粧品rosa rugosaで起業して、札幌や道外に売り出そうとしています。
葛 札幌というか北海道はそういった地域活性化の良い事例がけっこうありますよね。そういった事例を自ら作っていきたい人は、ぜひ北海道で挑戦してほしいです。
田 札幌は「挑戦」がとてもしやすいところだと思います。住んでて思うのが良い意味での「歴史の少なさ」。北海道って、まだできて150年ちょいなんですよね。だから「18代続く村のドン」みたいな人が障害として立ちはだかったりしない。出張者も観光客も多くて、「よそ者が来ること」を前提とした精神性がある。
葛 そうなんですよ。「北海道に来てくれてありがたい」って気持ちが強い。だからこそ、ちょっと…って思ったこともありました。
田 おっ、方向性変えましたね笑 詳しく。
北海道は敵がいなくてNo.1
だからこそ良いところと微妙なところがある
葛 北海道には4大夏フェスの1つ、RISING SUN ROCK FESTIVALがあるんですが、それでぼく、プチプチ炎上みたいなことが起きたんですよ。ざっくりいうと「アーティストラインナップが保守的すぎてつまんねーな」的なことをつぶやいたら、熱心なファンに「うるせーよ、そんな事言うなら来んな、くそが」的な反応を結構もらって。
田 おお、ぶっこみましたね笑
葛 いや、面白いのはそのあとで。一人ひとりにリプライしたんです。「僕はつまらんと思っているんですけど、実際、どうなんですか?」と。何人かとコミュニケーションをして分かったのは「有名なアーティストがきてくれることがありがたい」んです。北海道の人にとって。だから、アーティストのラインナップに「新規性」みたいなものは必要としていないようなんです。ある人に「あなたは予定調和がお嫌いなんですね」と返信もらったんですが、これはかなり北海道人気質というか、ライジングサンファンの本質を付いてるなぁと。僕はフェスの役割として、まだ見ぬ景色を見せるとか、まだ見ぬ音楽を伝えるみたいなことがあると思うので、そのご意見には全く賛成できないんですけど。
田 「あなたは予定調和がお嫌いなんですね」すげえなあ。そりゃあ、嫌いだよねえ。。
葛 「新しいものを拒絶はしない。だけど、積極的に新しさを求めるわけでもない」というのが北海道気質としてあると思うんです。ある意味、本州へのコンプレックスというか「本州で流行ってるものはこっちでも当たり前に流行ってますから(ドヤ)」みたいな感覚は強いかしれないなぁと思っています。
田 つまり、こういうことなのかな?誰かがつくった新しさを受け入れる柔軟さはある一方で、自分たちで「新しいもの」をつくろうとしない、ということ?
葛 自分たちの新しいものに自信がないのかも…。ライジングサンには、全国からお客さんが来るので、北海道の若手アーティストをしっかりブッキングして、from北海道の音楽を全国に届ければいいのに、そのことにそんなに積極的ではない。もっとライジングサンの良さを活かしたらいいのにって思っているんですけどね。もったいない。
田 道内にも十分に魅力的なものがあるのに、本州の良いものを「新しいもの」として売り出してしまう…みたいな感じですか。
葛 そうですねぇ。そういうかんじ、ないですか?
田 関連して思いつくものはあります。東京との距離感が独特だから、なのかもしれない。関東近郊だと、何か都内の面白そうな情報を仕入れると次の日には視察に行く人が少なくないんです。これはこれで「気にしすぎ」とも言えるし、どっちが良いとは言えない。けれど、北海道の人たちの中にも東京との関係を「こじらせ」ている人もいる。北海道と東京の距離感は結構、道民の精神性に影響を与えてるように思います。
葛 海がありますからねぇ。大きな島ですもんね。北海道は。
田 「札幌はどこにも負けてない」って認識の人が多い気がします。国内の主要都市は、東京に負けてる意識があるし、東京は上海やニューヨークに負けてる意識がある。けれど、札幌には競合他者がいない。東京は「遠い世界の幻」のよう。だから、大胆に無視できる人もいれば、極度に意識する人もいて、結果として葛原さんが体験した現象が生まれるのかもしれない。自信ある・なしは真逆なのだけど、根底では共通するものがありそう。
葛 それ、めちゃめちゃおもしろい視点ですね。
田 ぼくは葛原さんが感じた「積極的に新しさを求めるわけでもない」札幌民の傾向は、こういう部分に感じます。すなわち、既に圧倒的な一位なので、新しいことをやる必要を感じていない、的な。
一方で、東京は真逆。東京という都市がそうであるように、東京で働く人々もまた激しい競争を求められます。面白いコンテンツは山のようにあり、毎日生み出されるから、差異を出さないといけないし、正攻法の「大御所的なラインナップ」は予算がかかりすぎてできない。一方で、札幌だと交通費と美味しい食事、素晴らしい気候というアドバンテージがあるから「大御所的なラインナップ」が実現されてしまう。その結果として、出来上がるコンテンツが違う、なんてことがあるのかもしれません。繰り返すけど、どっちが良いって話ではないんですよね。
戦略的二拠点居住から戦略的多拠点居住へ
葛 どっちが良いって話ではたしかに無いんですが、正直、僕は新しいものがないとつまらない…。だからやっぱり、僕にとって、札幌・北海道は二拠点(多拠点)のうちの一つとして、長く関わりたい場所なんだろうと思います。
田 いや全く僕もその通り。来年度以降も夕張や浦幌には関わりたいと思ってますし、知床や釧路でも楽しい出会いがありました。まだ関わってない他の地域もまだまだ見たいし、関わりたい。最初に言ってたことでもあるけど、「挑戦」はとてもしやすいところです。ぼくの「挑戦」はまだまだ続きます笑
葛 時事ネタ的には、フィンエアの再就航とかもあって、北海道とヨーロッパがつながるし、まだまだ可能性が広がっていくタイミング。札幌に縁ができたのはいいことだなぁと思っています。短期的な視点で「成果を出せなかった」と思いつめても仕方なく、長期的に縁を紡いでいけてこそ、多拠点居住の価値が活かせるのかも。
田 「住む」という行為自体が、変わり始めているのかもしれません。今まで、長期的に「10年後はここに住み、次の10年はこことあそこを二拠点居住先にする」なんて考える人っていなかったはず。「住む」という概念が変わり始めている今、札幌と縁ができたことは、僕たちにとって、ポジティブにできるものだと思います。ちなみに、そういった意味では、次に住む東京の場所も「長期的」に考えて、決めようと思いました。
葛 ほう。どこに住むんですか?
田 港区の麻布十番を考えてます。ぼくもついに「港区おじさん」です!笑
葛 なんで、麻布十番なんですか?
田 一言で言えば「市場競争がもっとも激しく、最新の情報が行き交う個人商店の町」に住むべきだと思ったから、です。港区の平均年収は1000万円を超えます。その中で生き残る店は「日本の他のどこを探してもない」お店ばかりです。そういったところを拠点として、生活しながら学び、一方で北海道をはじめとする他の地域で「挑戦」をし続ける、そんな住み方・生き方を選択しようと思いました。
葛 前回のnoteも「戦術的二拠点居住対談」でしたし、僕たちはのんべんだらりとした「暮らし」はできなそうですね(笑)これ、1年に1回ぐらいの僕たちの戦術的な暮らしを定点観測する企画にしましょうか。来年あたりは、もう一人くらい混ぜてもいいし。できれば僕は「来年からはヨーロッパに住むことにしたんですよ」とか言いたいな(笑)
読んでいきただき、ありがとうございました!
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