「日本人の勝算」デービッド・アトキンソン
読もうと思ったキッカケ
本の存在を知ったのは、最近よくあるSmart Newsのティザー記事。最近「ホモ・サピエンス全史」や「ホモ・デウス」を読んで、数百年単位での物事の推移を考えるきっかけにを得たが、今後数年・数十年単位で身近な生活(日本)を考えるきっかけを得たく、この本を手に取った。
本が書かれた背景
著者は日本在住30年の外国人で、ゴールドマン・サックスの調査部に所属した分析力のある方。大好きな日本を崩壊から救うべく、海外の有識者の分析結果を集め、日本向けの提言にまとめたとのこと。「パラダイムシフトが起きると、それまでの仕組みや枠組みに詳しいほど、新たな発想をすることが難しくなる。そういう時こそ外から学ぶべきであり、それは日本に限ったことではない。」
今後日本は少子高齢化と人口減少の影響で長期的なデフレ基調に入る
少子高齢化と人口減少は、各々デフレを呼び、GDPを押し下げる効果が海外の研究で明らかになっているが、ダブルパンチを食らうのは日本だけなので、世界で最も大きなデフレに見舞われる。
主な理由は、不動産価格で説明ができる。人口増加時代は、住宅不足は新地開発や建物の高層化で需要に供給が追い付く形で、緩やかな地価上昇が続くが、人口減少時には直ちに建物の取り壊しは起きず、需給ギャップは解消され辛い。つまり、地価と人口増減の相関は非線形であり、人口増加時のインフレ効果より、人口減少時のデフレ効果の方が大きい。そして人生最大の消費である不動産価格が減少に転じると、全体的なデフレを呼ぶ。
デフレはGDPの縮小を招き、それは国家の崩壊に直結する
デフレが起きても、GDPが減っても、別にいいじゃないか。別の価値観(例えばGNHとか?)を探せばいいじゃないか。といった議論もあるが、現在の社会構造はそれを許さない。GDPの減少は税収や社会保障歳入の削減を招き、増え続ける高齢者を賄いきれなくなる。最低でも現状を維持しないと、人口減に合わせて▲30%になると国家が崩壊する。
GDP減少を食い止めるには、生産性を高めるしかない
GDP=一人毎GDP×人口であるが、日本は先進国中で前項が著しく低い(3流国レベル)。今後人口が3割減るのだから、生産性を3割増やさないと単純に縮む。
因みに、この西暦2000年間の人類社会の成長率は、概ね半分が人口増加のもの、もう半分が生産性向上によるものらしいが、今後の100年は人口増加が緩やかになるため、世界的に成長率が鈍化するとともに、生産性向上に期待されるポーションが増える。日本はその先駆け。
生産性を高めるためには、最低賃金を増やし、零細企業を減らし、社会人の再教育を増やし、高付加価値資本主義に移行するしかない。
日本の生産性を押し下げている最大の要因は、零細企業(人口20人以下の中小企業)。日本の労働力の品質は、先進国中4位であるにもかかわらず、最低賃金や生産性は20位台であり、日本の経営者は全体的に労働力を非常に安価に調達できており、その差益をEnjoyしている。
40年後には生産人口が3000万人(GDP世界第5位のイギリスの総生産人口に匹敵)減る。残された5000万人を大企業から順番に割り振ると、350万社中250万社位が社員を雇用できなくなる可能性あり。
企業が一定規模になることで、経営者の質も上がり、社員教育も充実し、産休育休などの取得ハードルも下がり、設備投資も盛んになり、一人当たりの生産性は向上することは、研究でも明らかになっている(研究というより統計)。
本書の素晴らしいポイント
論拠がすべて科学的。ほぼすべて、著者の直感ではなく、他の論文やレポートを引用する形で科学的に語られており、納得感が非常に高い。
そしてなにより、しっかり対策まで提示されている。この手の本は、さんざん危機感を煽っておいて、最後にざっくり「早急な対策が求められる」で終わっていることが多いが、この本の著者はむしろそこに重点を置いており、しっかりした提言を最後にまとめている。ただ、正直一民間企業人にできることではないので、この本が一人でも多くの政府関係者に読まれることを期待する。