エストニアがなぜIT大国になったか?解説しよう
テクノロジー先進国のイメージが強いです。シリコンバレーとはまた違う国ぐるみでのIT大国というイメージ。
今回はエストニアに来たので、歴史とか、立地とか、マインドセットをマージして、どうしてテクノロジー先進国になったのか?
独断と偏見も大いに入れながら解説します。
私は、元々エストニアのe-residencyに登録しており、エストニアの電子国民です。全世界で6万5000人くらいで、日本人は3000人弱だそうです。1/3000は私ということになります。バーチャル国家という世界観がめちゃいけてますよね。
日本からエストニアに法人をつくれたりするメリットがあって、EU圏内でビジネスしたい人の足がかりとしては良いでしょうね。
私の場合は電子国民すげえ!なろう!みたいなノリでなりました。
(e-residencyのIDカードとリーダー)
エストニアは国自体が一つの企業みたい。シンガポールと似ているなあと思いました。
私の故郷は北海道なのですが、エストニアと気候も街並みも似ていました。
正直、来る前は、IT大国らしくハイテクな街並みを想像していたので、良い意味で期待を裏切られました。
裏を返すと、テクノロジー先進国という外の国に対するイメージ戦略がエストニアは上手なんですね。私はそれにハマったという事です。
実際に来てみると、なんというか、ハイテクと丁寧な暮らしの融合された国という印象を覚えました。
のどかな街並み。住んでみたい国!電子政府のインフラも実際に使って運用してみたい!
エストニアの特長はなんといっても電子政府。
日本なら役所に行かなきゃならない申請とかも全部オンラインで完結できます。
国民の99%がデジタルIDをしっかりと運用していて、行政上の手続きから、小学校とか学校の入学申し込みまで、オンラインで生活の全ての手続きができます。
誰が、いつ、自分の何のデータを閲覧したかのログもすべて見る事ができます。
こどもの宿題の内容から提出期日。学力が同じ学年の中で、どのあたりに位置しているかまで。IDにかなりの生活情報が紐づいています。
あ、ついでに。
こどもが風邪で休んだので、今日学校で配布された資料が欲しいと、友達のお母さんに依頼する事までオンライン上で行えるそうです。徹底ぶりが本当にすごい!
エストニアの電子政府のコンセプトとして、情報は一度しか入力しない。
というのがあって、
例えば、学校の入学書類を出す時に、住所の入力がいらないんですよね。
これ超すごいなあと思って、データの取り扱いと運用ルールが国ぐるみでしっかりしていると、ここまで使う側にもメリットが出せるというわかりやすい例じゃないかなと思いました。
日本の場合って、何か行政に書類を提出する時って、もうテンプレとして名前、住所、電話番号とか必ず記載しますよね。あれ面倒ですもんね。
国民のデータベースは1箇所に情報が集まっているわけではなくて、
データは分散させています。
住所とか、銀行口座とか、戸籍とか、交通違反履歴とか、属性毎に全部別々の場所に保管されていて、それらのデータを必要に応じて引っ張ってきて活用する形です。
なので、IDカードにも、オンライン上の自分のマイページにも、自分のデータは保存されていません。
IDカードはキーで、マイページはデータを引っ張ってきて参照するだけの機能です。
これはセキュリティの観点の話も当然あると思いますが、
情報が一箇所に集中するって、権力が一箇所に集中するという事なので、たぶん権力の分散というのも考え方としてあるんだと思います。
少し歴史を絡めた話ですが
エストニア共和国は1991年にソ連から独立してできた国ですが、当時は汚職がひどかったそうで、政府の事を国民も全く信用していなかったそうです。
なのでマインド的に、情報が一極集中して、権力がどこかに集中する事を極端に嫌う。
政府を信用していないから、政府で一元管理するのではなく、データを分散させていろんな機関で管理して権利も分散させる。
ログを公開する事でお互いを自然に監視し合える環境を構築する。
歴史からもシステムの世界観が見えてくる。
エストニアはブロックチェーンの運用でも有名な国です。サーバ型が中央集権によるデータ管理だとするなら、ブロックチェーンのデータ管理はP2P方式による分散型です。
ちなみに、エストニア生まれのSkypeもP2Pの技術ですよね。
誰かが管理するわけではなく、公のデータとして空中固定できて、皆が公平にデータにアクセスできる。改竄もできないブロックチェーンの分散技術にエストニアが力を入れているのも、歴史的な背景から考えると腹落ちしました。
あとは国民の数と、国土とか。
そもそも原点でいうと、電子政府の目的は、行政サービスを質高く国民に届ける事です。
国民が多いわけでも、都市部に人が密集している訳でもなく、島もあったり、交通機関もすごい充実している訳でもない。
かつ、91年から始まった国として考えると、ITフル活用の国づくりは、とても理に適っているなと思います。
どういうことか。持論ですが、
テクノロジーの発達に物理的な距離とか、不便さは必要不可欠だと思ってるんですよね。
物理的に行けないから電話、メール、チャット、テレビ会議が普及する。不便さを解消する為に、技術が発展するみたいな事ですね。
たぶんそもそも便利なら、必要性がないのでテクノロジーって発達しないんですよね。
なので、エストニアも物理的な距離とか、そもそもの不便さが、テクノロジーの普及を後押ししてるんだろうなあと思いました。
データの考え方のリテラシーがめちゃ高い
あとは、データのリテラシーがめちゃ高いなという印象です。しかも国民全体で。データのマスクの掛け方とか秀逸。
用途に応じてアウトプットするデータ種別を変えて出せるんですよね。
例えば、エストニアに住んでいる事を確認したい時には、住所の全ての情報って見せる必要なくて、住んでいるYES or NOの証明だけ取れればよい。
オールorナッシングではない、セキュアな情報開示は最小限でOK。用途に応じて必要な情報だけを開示してデータ運用できる。そんな仕組みになっているようです。
これ専門知識のある人なら理解できるのですが、行政レベルで、国民みんなの理解をもらって運用するのは難易度めちゃ高いなあと思いました。
データの松竹梅。データの良い塩梅。これを集団で理解する。運用する。
これはすごいですよね。
当然のように電子投票も行われてますし、お年寄りの97%の人が年金支給をオンラインで申請している。
テクノロジーの質云々よりも、国レベルで徹底して運用する姿勢が、他の国と比べてずば抜けているんですね。
システムも10年毎のリプレイスがルール化されている。
これにより、バージョンがレガシーになる問題を解消しているのもさすが。
先進性はセキュリティ的にも、リスキーな面は当然ありますが、汚職とか権力集中が起こらず、公平性が保たれるなら、失敗のリスクも含めて許容するマインドセットを感じます。
リープフロッグとも少し違う。国としての一体感を感じました。