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「恩人」
人生の転機になったポイントをいくつか思い出してみると、そこにはほぼ必ず「恩人」がいる。括弧書きで「恩人」としたのは、励ましてくれたり、味方になってくれたりした人達ではなくて、その人のおかげで傷ついたり落ち込んだり、裏切られたと感じたり、怒りを覚えたりして、どちらかというと、もう2度と会いたくないと思うような人達だからだ。
でも、その人達がいてくれたことは、実は僕の人生にとって本当に大きな影響がある。ものすごくプラスの影響だ。その人達のおかげで、追い詰められたり思い悩んだり、感情に流されたりして、僕はそれまでの自分がとらない行動をとった。そして、それが新しい一歩になって、巡り巡って、今の人生になっている。
恐らく、直接お礼を言うことはない気がする。多分嫌味に聞こえてしまうし、そういう風にお礼を言われても、相手は嬉しくないだろうなと思う。でも、僕の人生を形作ってくれたという意味では、僕を信じてくれたり、励ましてくれたり、支えてくれたりした人達ともしかしたら同じくらい、その人達は貢献してくれている気がする。
これから先の人生でも、腹が立つ相手や許せないと感じる相手と出会った時に、将来こんな風に恩人になってくれるかもしれないと思って、関われたら良いなと思う。
そして、裏切られたとか許せないとかいうのは僕の側から見た一方的な意見で、恐らく相手も似たような感情を僕に対して持っていると思う。都合のいい考え方かもしれないけど、僕も相手にとって、そういう逆説的な意味での恩人になっていたらいいのかなと思う。そうなっていたら、あと何十年か先に、どこかでバッタリ会って、楽しくお茶を飲める日が来るかもしれない。
自分を理解してくれたり、味方になってくれる人だけが恩人じゃない、ってところが、人生って味わい深いなと感じる。
こういうことは、中年になって、ようやく少しずつ理解できるようになってきた。そうだとすると、歳をとるのもそんなに悪くないかもなと思う。