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Kant Prolegomena: しんすけの読書日記
カントの著作を継続して読んでいて十年以上を経過すると、こんなカントの声が聴こえてくる。
ぼくが言ってることって、特別なことじゃないよね!
君だっていつも、同じことを考えているんじゃないのかい?
※以後の引用はすべて下記からのものであることを、お断りしておきます。
本書の終わり近くに下記が観える。
ぼくたちが概念や原則なるものを観察しながら、これが今まで経験したことに妥当しているのかを考えたとき、すべてが妥当しているとはけっして言えないだろう。ぼくたちの周りには、経験したことがないものなのに、概念や原則とされているものもかなり多い。いったいこれは何なのか、こうしたときに「常識」を持ち出す人もいるが、経験との兼ね合いで考えてるときに、「常識」をもちだされるのは、最悪の事態だというしかない。
カントが「常識」という言葉を嫌っていたの有名な話だ。これについては、別の機会に書くことになるだろう。
カントは、世の中で当たり前とされていることに対し、なぜそれが当たり前なのかを、考え悩んだのだ。暇人と笑う人もいるかしれないが、こうしたことを真剣に考えようとしない世間のほうが間違っていると、ぼくは思う… いや、狂っていると確信している。
カントが上記の意味で考えたこと、または拘ったことは数多い。
ここでは、下記の三点に絞ってカントの考え方を検討していきたいと考えている。
・経験 (今回)
・空間と時間 (次回)
・物の実在と現象 (最終回)
それでは、まず経験から始めよう。
世界の動きの中には、すべての人が経験したことがなくとも、当然と受けとられていることも多い。さらには多くの人には原理が判らなくても疑わないことも数多くある。
今ではこうしたことも不可思議と採る人はほとんどいないが、かって経験主義が思想界を支配した時代があった。その頃は、どんなことも経験で裏付けられるとと考えるのが主流だったのだ。
経験主義は、かっての性善説や性悪説などの俗論を打ち壊すに役立ったが、「すべてが経験によって」と考える人の登場で、これもまた俗論に堕ちたのだ。
だがカントにとっては、経験は周りの事象として出現するだけのものではなかった。人間にいかに関わるかが、経験そのもの意義が見いだされるものであり、ただ漫然を自分を囲む風景のようなものではなかった。
本書には、人間の生命とのかかわりで経験を対象にして書かれた個所がある。
ぼくたちが考えることが可能な経験の主体的な(制約された)対象は生命だ。心が生命という形で存続していることから、ここでの考察の結論を導きだすことができるのだ。なぜなら、(死から誕生に向かうような)逆の動きがないのなら、人間の死は、その対象としての心に関係するすべての経験の終わりにあたるからだ。これに対する反証が出てくだろうか。ここではそれが大きな課題ともいえる。
ここでカントが、ぼくたちに投げた問い、「死から誕生に向かうような」を、一例として、ぼくたちは深く考えなければならないことが多い。そしてそれらのすべてには、答が存在しない。
ここまで読んできて、付き合えなくなったと案じる人が、少しはいるかもしれない。答が存在しないしない問いに、付き合っている暇なんかないと…
ぼくもけっして暇を持て余している人間ではない。しかし人間であるからこそ、こうした問いを考え続けることも義務を持っていると確信もしている。
そしてカントもこれらを常に考え続けて、経験に対比する形で、「先験的」や「ア・プリオリ」を、一つの理念に昇華したことは、間違いない。
カント自身が、同様に確信を持っていたこと示す記述が、本書にもある。
こうした問題をぼくたちが、どんな具合に扱うにしても、経験で可能とされた多くの原則では納得できるこことはなく、つき詰めていくと新たな疑問さえ生まれてくる。ここには答えを求めるのと同じくらいの重要な要素が控えているのではないか。自然を明らかにするという名目の多くの自然科学の解説そのものが、人間の理性を満足させるには不十分であることを、明白に示していると言えるのである。
経験については、もっと書きたいことがある。
だがそれでは、他の課題である「空間と時間」と、「ものの実在と現象」に、永遠に移ることができない。だからここでいったん打ち切ることにしたい。
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