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哀しく彷徨う女 しんすけの悲恋蒐集より

ボードレールを初めて詠んだとき、その穢なさに嗚咽した。
それは人を憎悪に満ちた世界へ導いて世に背かせる歌であり、無垢なものが近寄ることを拒否するかにも観えた。

だがその汚穢が宝石のように輝くことを知らされた。
ぼくたちの住む世界がボードレールを卑小に思えるほど、汚れて腐れきって腐臭を放っているのに気づくからだろう。

そして『悪の華』を、詠み進んでいけば、その奥に哀しくも美しいうたが存在するのに気づかされる。

 秋の歌
 哀しく彷徨う女
 赤毛の乞食娘

今日は「哀しく彷徨う女」を、詠う。

哀しく彷徨う女

あなたの心が なぜ空をときどき舞うのか教えてほしい アガーテ
よごれた街の暗い海から遠くはなれ
素晴らしさで弾ける 別の海へと
青く澄んで深く そして清らかな少女
教えてほしい あなたの心はときどきどこかに飛んでいくか アガーテ

海 広大な海 ぼくたちの苦しみを癒しほしい!
悪魔が海に与えたのは 荒々しい歌人
けたたましく鳴る巨大なオルガンの伴奏で
子守唄の崇高な調べが与えられたと言いたいのか?
海 広大な海 ぼくたちの苦しみを癒しほしい!

連れてってくれないか 列車! 連れ去ってくれないか 蒸気船!
遠く! 遠くへ! ここの汚泥は ぼくたちの涙でできているから!
――本当だろうか、ときおりアガーテの悲しむ心が
後悔と罪と苦悩を遠くへ追いやる と言うのは、
連れてってくれないか 列車! 連れ去ってくれないか 蒸気船!

どうして君たちは遠いのか 香しい学園
輝く青空の下で 何もかもが愛と喜びになるところ
君が愛するもの すべてが愛の形になるところ
欲望の穢れなき様を知り 心が溺れてしまうところ
どうして君たちは遠いのか 香しい学園

でも子どものような愛にあふれる楽園は
走ったり 歌ったり キスをしたり 花束をかざす
丘の向こうで バイオリンが震えてる
夕暮れの茂みでは ワインを壺に満たして交わす
――でも子どものような愛にあふれる楽園は

ひと時の喜びに満ちた 穢れない楽園
それはインドやシナからも 遠く離れてしまったのか
それは嘆いて叫ぶことで 呼び戻すことはできないのか
銀色の声でもう一度 復活させることはできないのか
ひと時の喜びに満ちた 穢れない楽園

上記はしんすけによる意訳
下記はボードレールの原文

Moesta et errabunda

Dis-moi ton coeur parfois s'envole-t-il, Agathe,
Loin du noir océan de l'immonde cité
Vers un autre océan où la splendeur éclate,
Bleu, clair, profond, ainsi que la virginité?
Dis-moi, ton coeur parfois s'envole-t-il, Agathe?

La mer la vaste mer, console nos labeurs!
Quel démon a doté la mer, rauque chanteuse
Qu'accompagne l'immense orgue des vents grondeurs,
De cette fonction sublime de berceuse?
La mer, la vaste mer, console nos labeurs!

Emporte-moi wagon! enlève-moi, frégate!
Loin! loin! ici la boue est faite de nos pleurs!
— Est-il vrai que parfois le triste coeur d'Agathe
Dise: Loin des remords, des crimes, des douleurs,
Emporte-moi, wagon, enlève-moi, frégate?

Comme vous êtes loin, paradis parfumé,
Où sous un clair azur tout n'est qu'amour et joie,
Où tout ce que l'on aime est digne d'être aimé,
Où dans la volupté pure le coeur se noie!
Comme vous êtes loin, paradis parfumé!

Mais le vert paradis des amours enfantines,
Les courses, les chansons, les baisers, les bouquets,
Les violons vibrant derrière les collines,
Avec les brocs de vin, le soir, dans les bosquets,
— Mais le vert paradis des amours enfantines,

L'innocent paradis, plein de plaisirs furtifs,
Est-il déjà plus loin que l'Inde et que la Chine?
Peut-on le rappeler avec des cris plaintifs,
Et l'animer encor d'une voix argentine,
L'innocent paradis plein de plaisirs furtifs?

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