かの子の記 - しんすけの読書日記
泣かされた。数ページを捲るごとに、涙が零れるのを憶えた。
かの子の伝説とは、あまりも異なる物語がここにあった。
年々にわが悲しみは深くして いよよ華やぐ命なりけり
『老妓抄』のなかの詩だが、一平も好きだったらしく三度も引用している。
読み進むほどに妻に先立たれた一平の気持が、痛いほどわかる。
生きているとき、いつも仲が良かったとは言えなくとも、先立たれた者には愛しさしか残らない。
その愛しさが、涙に変化するのに違いない。
本書はかの子が亡くなった十四日後から、かの子への思いを足掛け四年に渡って綴ったもの。
新婚当初は遊び人だった一平が、やがてかの子一筋に生きるようになったのは、かの子の優しさに負けたのだろう。遊ぶ一平に、かの子は愚痴も言わず泣いていたという。
かの子は一平を、パパと呼ぶ童女だった。だが一平はかの子のことを母のように思えたこともあるという。
かの子のことを、理解していなかった時期を一平は悔やんでいる。愛しさが増せばその思いが強くなるのはよく分かる。
泣くだけだったかの子も、一平との生活の中で逞しくなったらしい。
そしてこう言ったらしい。
「あたしでなけりゃ実際あなたはそうした方ですよ」
遊ぶのを止めてしまった一平に向かって言ったものらしい。
一平を操った誇らしさのようにも聞けるが、かの子の愛憎が混じっているようで、また涙が零れてしまった。
「かの女と永遠に一緒でありたく思います」と、一平は記す。
最後のページをとじるとき、
しんちゃん早くおいでよ
って、彼女が言ってるような気がした。
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