そんなことってある!?が止まらなかった羽田空港出発ロビー
山口県の高校で新潟とか長野にスキー修学旅行に行くと、だいたい最終日前日に東京のホテルに泊まって、最終日が 東京都内自主研修 という名の自由行動になるんよね。
そうすると、都内のどこかに集合してみんなで羽田空港に移動するより、最初っから自主研修の集合場所を羽田空港にしといた方がシンプルだし効率いいから、そうする高校が多いわけ。
V高校もそうじゃったんよ。2000年ひとケタ代、まだスマホもない時代だから、事前学習で行きたいところを調べて、計画を立てて自主研修が行われてる予定だったの。
V高校は結構先進的なイメージのある高校じゃったんよ。当時から女子でもパンツスタイルの制服が選べたりしててさ。
生徒も芯の通った自主性のある子が多いから、スキーもホンマにスムースに進んで、みんな大満喫じゃったの。
で、スキーを終えて東京に移動してきて、ホテルに泊まってね、いよいよ最終日、朝から自主研修、
集合は羽田空港第2ターミナルの出発ロビーよ〜、分かんなかったら添乗員さんのケータイに電話してね〜!
行ってらっしゃ〜い‼︎
ってホテルから生徒さん送り出したら、オレは羽田空港に直行して、カウンターで全員分の搭乗券と、当日の機内の席割を出してもらって、クラスごとに搭乗券を仕分けするんよ。何列目から何列目かまでが1組で…担任の先生はここで…添乗員はここで…みたいな、結構大変な作業よ。
それから、出発ロビーの隅の方に、200人くらいの生徒が集合できるスペースをいくつか見つけておかんといけん。なんで一ヶ所だけじゃないかというと、ヨシここにしよう、って決めたところに、ちょっと早い時刻に集合する他の修学旅行団体が来ちゃうってことも結構あるから、そんな時にパッと違うところに集合場所を変更するためなんよ。
何気にちょっと面白いのは、こういう自由行動させといて「何時に出発ロビーのどこどこに集合ね」ってスタイルにすると、なぜか男子の方がメチャメチャ早い時間に空港に到着して、まず集合場所を確認して、それから空港内でお土産買いに行ったり食事しに行ったりする傾向が強いこと。意外と慎重なのか、街でやることがないのか…。
この点については女子の方が肝が据わってて、渋谷とか原宿とかで目一杯ショッピングとか楽しんでから、集合時刻ギリギリに駆け込んでくるパターンが多いんよね。
今回も案の定、集合時間の1時間以上前に到着ロビーにV高校の男子生徒の姿をチラチラ見かけてさ、ハーイ用事全部終わった子はこの辺りにいてね〜、なんて、集合場所の確保もうまくいったんよ。
出発ロビーが分かんなくて電話かけてくるグループもあったけど、
「周りに何がある…?ウン…アーそりゃ到着ロビーだな、もういっこ上の階よ」
とか
「アチャー、そりゃもういっこの航空会社のターミナルだな…。一旦地下まで下りて渡っておいでー、頑張ってー」
みたいな案内をして、なんとかほとんどのグループが航空機の出発1時間半前の集合時刻前に集合完了できてたのね。
そしたら、オレのケータイに公衆電話から着信があって、V高校の女子のグループなの。
で、集合場所が分かりません、と。
アラー、じゃあ今何階にいるのかな? ウン…出発ロビーだね…反対側の方にいるのかな…?出発口って見える…?ウン…何番…?エッ…⁇ 大きな塔みたいな時計とか見えるかな…?ない…
なんか、全然会話が噛み合わないの。
フロアとかターミナル間違えてるレベルの感じではないな…と思ってたら、その子が
「アッ…」
って小さな声を出して、何かに気づいたようだったから、どした…⁇って聞いてみたら
「ここ… 成田空港です…」
って。
ファッッ…?
ナリータ…⁇
アーユーアット ナリータ エアポート…!?
…そんなことってある⁉
︎ななななな成田空港に行っちゃってる生徒さんがいます!
って、隣りにいたサブ添乗員さんに報告したら、その人も エーッッ‼︎ ってなっちゃって。「サブ添乗員」とはいっても、オレらみたいな営業も添乗もする担当者と違って、添乗が専門のプロだし、経験もオレらの比じゃないから、バッてオレのケータイ奪って、
いい⁉︎ 今からすぐにその建物を出て、羽田空港行きのリムジンバスに乗って!いつもなら70分くらいで着くからまだ間に合うかもしれない!ケータイで連絡つく人いる⁇ …え? いないの…⁉︎
なんでも、当時まだ生徒にケータイは禁止している学校も多くて、V高校も「修学旅行にケータイの持ち込みは禁止」ってルールにしてたそうで…
でもみんなコッソリ持ってきてるし、なんなら電話で集合場所を案内して辿りつけた子らもケータイから電話かけてきてたのに、よりによって迷子になったのがマジメっ子ちゃんグループで、グループ全員がキッチリ学校の言いつけを守ったばっかりに、
「これ以降の通信を断つ」
みたいな状況になっちゃってるなんて…そんなことってある⁉︎
でも、ただ指くわえてその子らが到着するのを待ってるだけじゃなくて、なにかできる限りの可能性を繋ぎましょう!
ってわけで、サブ添乗員さんが成田空港発・羽田空港行きのリムジンバスの時刻表調べて、リムジンバスの会社に電話してくれて、
◯時◯分発のバスにV高校の女子生徒が3名乗ってくるはずなんで、無事に乗れているか確認していただけますかッッ⁉︎
ってお願いしてくれて、
わたしはここに残りますから、シンさんは本体を連れて搭乗口に移動してください!
って、戦争映画のヒーローみたいなセリフを言われちゃったもんだから、ハイィッッ!って、オレらは搭乗口に移動することにしたんよ。
で、各クラスの生徒に搭乗券配って、これからの流れを説明してたら、サブ添乗員さんのケータイが鳴って、
V高校の生徒さんたち、無事にリムジンバスに乗ってるそうです!
バスのドライバーさんと連絡がついたそうで。
って、良かった…これであの子たちは羽田空港には辿り着ける。あとは、航空機の出発に間に合うかどうかだ…っていうハラハラ展開になったところで、その子らの担任の先生が進み出て、涙目で、
わたしもここに残って、万が一遅れたら、新幹線で連れて帰ります…!
って…さらに格好えぇセリフ〜!
高校の修学旅行でこんなバンバン格好えぇセリフが飛び出すなんて、そんなことってある⁉︎
それからオレら本体は、サブ添乗員さんと担任の先生を残して、出発口を通り、搭乗口へ移動したのね。
無情にも過ぎていく時間。
航空会社のグラウンドスタッフさんも事情を知って、いろいろギリギリまで対応してくれるそうじゃけど、搭乗開始の時間になってしまって。
修学旅行生をスムースに機内に誘導して着席させるのは添乗員の役割で、オレは最初に乗り込んで、自席に荷物をサッと置いて、V高校の席の最も後ろの列まで進み
ここから前がV高校さんの席です!
まずは荷物を持って席に座ってください!
通路に立って荷物を上げてたら、後ろがつっかえます!
まずは荷物を持って席に座ってください!
って呼びかけまくるんよ。
で、だーいたいみんな席に着いたな…ってところでケータイが鳴って、サブ添乗員さんから
リムジンバス着きました!
ダッシュで搭乗口に向かいます‼︎
って…これ以上ないギリギリのタイミング!
そんなことってある⁉︎
一気に色めき立つ機内。
女性の先生方は顔を見合わせて喜んでる。
全員が着席し、シートベルトを締めたところで機内前方がちょっとザワッとし、機内の狭い通路を、肩にかけたバッグが引っかからないよう押さえて早歩きでやってくるサブ添乗員さんと、3人の女子、そして担任の先生…!
担任の先生はさっきの女性の先生方とハイタッチして号泣している…!そんなことってある⁉︎
直後にブリッジを離れ動きだす機体。
まだ呼吸の整わないサブ添乗員さんが、まっすぐ前を向いたまんま、
正直、この時間帯に首都高を通ってくるリムジンバスが定刻どおりに到着するとは思ってませんでした…。
たぶん、運転手さんが状況を知って、無理して飛ばしてくれたんだと思います…!
なんや全員格好えぇなぁ!そんなことってある⁉︎