爺さんの説教

オレ、あ〜んま親父とか爺さんに怒られたって記憶はないです。ウチの男親ラインは基本的に家事・子育てには首突っ込まないし、アレしろコレしろって言われるコトもありませんでした。

なのでその分、稀にガツンとやられたトキのショックは大きく、強烈に印象に残っているモンです。

オレがこまっしゃくれたガキ全開の小学校4年生頃、夕食の食卓で家族を前にやっぱりいつものようにこまっしゃくれた講釈を垂れてた時だったと思います。話の流れで、これから自分でチョイスできる選択肢が「A」と「B」って出てきて、オレは得意気に述べました。

「Aを選んだら損じゃん。じゃけぇボクはBにするんよ」

そうしたらそれまで関心があるのかないのか分からないくらいの存在感でそこにいた爺さんが、テーブルについていたオレの手の辺りを見つめて

「損やら得やらで物事を判断するな…!」

と、静かではあるけれど強い語気を込めて言いました。

その「損やら得やらで物事を判断するな」っていうフレーズを語気の強さに圧倒されて、その後オレがどうリアクションしたのか、その時オレが挙げてた選択肢が何だったのかすら覚えていないのが非常に残念ですが、多分、もう何も言い返せなかっただろうと思います。

オレが覚えている「爺さんに叱られた記憶」は、この件の他には、幼い頃に道路に飛び出した時と、もう爺さんに認知症の症状が出始めた頃、婆さんに強い口調で文句を言った時しかありません。

ずーっと百姓だけやってきて、米を作ったり、乳牛を飼ったり、炭を焼いたりしてきた爺さんにとって、世の中は「損得」で判断できるような浅いモンじゃなかったんだろうな… と、爺さんが死んだ今でも時々思い出す言葉。

口先だけでその場を切り抜けようとしていた小賢しい少年時代に、爺さんのあったかいゲンコツをきっかけに、

「苦労してでもバカ正直でいた方が気持ち良ェわな」

と思うことのできるオィサンになったことをしみじみ噛み締める冬の夕暮れでした。

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