ホストマザーのために選んだ職場がある意味運命だった

私が今、大学で働いているからかもしれないが、2001年当時、ワーキングホリデーをする人(ワーホリメーカー)は、働きながら資金を貯めて、"自分探し"に来ている人が9割で、ワーキングホリデーを「留学の一種」と捉えている人は少数派だったと思う。

…まぁ 「あいのり」の選考に落ちて、

"オレなりのラブワゴン"

としてワーホリやってた私がエラそうなことを言える立場ではないのだが。

ほとんどのワーホリメーカーはとりあえず3ヶ月くらい語学学校に通い、日本食レストランやスシバーなど、いわゆるジャパレスでアルバイトするのが王道だった。ケアンズやゴールドコーストなど、日本人観光客の多い街なら、お土産屋さんなどの仕事も人気だったみたいだけど、メルボルンは観光客より駐在員として住んでいる日本人の方が多かったように感じる。

なので、シティを中心にスシなどの日本食を扱うレストランやテイクアウェイ(テイクアウト)の店は多かった。

私は語学学校に通うつもりはハナったからなかったので、ワーホリ開始と同時に仕事を探すつもりだった。

ワーキングホリデービザでは、基本的に一箇所で連続3ヶ月しか働けない。3ヶ月働いては、住む街を移って、1年かけてオーストラリアをラウンドするか…って、ボンヤリと考えていた。

ホストマザーの美佐子さんが言った。

「アンタね、エルスタンウィックに日本食材のスーパーあるからそこで働き!ほんで社割でジャワカレーとか買ってきて欲しいねん」

ンエッ⁉︎ なんスかソレ⁉︎
…イヤ、でもなんだか、ジャパレスでキッチンハンドとして皿洗いとかばっかりするより、接客とかスキル身に付きそうだし良ェなァ…

ってワケで早速、美佐子さんの本屋で履歴書を買って、その日本食材スーパーに乗り込んだ。
すると、女性の店長が対応してくれて、面接の前に、

「イヤ〜、小売はちょうど今、人足りてんねん。倉庫の方が人足らんって言うてたから、連絡しとくし、行ってみ? 良ェんちゃう?アンタ頑丈そうやし…!」

といきなり不採用!でも紹介を…⁉︎
って…倉庫ッスか…。

たくさんの在庫を、ダダッ広い倉庫の中でひたすら整理し続けるだけの毎日か…メルボルンくんだりまで来て…

と思いつつも、一宿一飯の恩、美佐子さんのために社割でジャワカレー…!

と、ギリ ゾーン1のハンティングデール駅と、ゾーン2のクレイトン駅の間にある日本食材卸売の倉庫を目指す。

コレ、本当に偶然なのだが、日本食材のスーパーと、卸売の会社と、スーパーの中にあるスシバーは、違う会社ということになっていたらしい。
なので私は、結果から言ってしまうと、1年のワーキングホリデーのうち、事実上では実に11ヶ月をこの卸売の"会社"で働いて過ごしたが、どうやら諸々うまいコト、書類上では3ヶ月ごとに雇われている会社は転々とし、各社から出向のようなことになっていたらしい。

滞在中、何度もジャパレスのオーナーさんに聞いた愚痴のひとつがこの「3ヶ月ルール」について。

「3ヶ月じゃさ、やっと仕事覚えてきたと思ったらもう契約終了なんだよね…。いくらオーストラリア人の雇用を確保するためとはいえ、もうちょっと、ねェ…」

すんげぇ分かる。

ともあれ、倉庫はちょうど、1年間のワーホリを終えて帰国を控えたスタッフがいたので、頑丈そうな22歳の男が来たのはちょうど良かったらしい。

それに、私が少し勘違いしていた部分もあって、倉庫内での仕事は全体の中のごく一部で、卸売だから、サプライヤーとして食材をメルボルン中のジャパレスに配達するのが仕事。

私には、英語が既に結構いけるし、コミュ力も強そうだからって、顧客新規開拓の営業も心がけてやってほしいっていうオファーも受けた。

かくして、大阪生まれの韓国人でメルボルン在住の社長に即決で雇ってもらえた。しかもこれから帰国するスタッフが住んでいるシェアハウスが近所にあるので、そこにスライドで私が入れるように段取ってくれるそうだ。

全てがトントントーンと進んだ。

実はここまでの間に、ホストファミリーの家は2週間程度で出ていくことになってたし、住むところを確保しとかないと!ってシティ周辺で様々なシェアハウスを探して訪ねた。

オーストラリアでは、土曜の新聞に「クラシファイド」という、求人やシェアメイト募集の広告の載った別冊的なものが挟まっていて、同じ価格なのに土曜日だけは新聞が倍ぐらい分厚かった。

格好つけて土曜の朝、カフェのオープテラスでラテとタバコに新聞を広げて…みたいな過ごし方をしているように見えるが、実は目を皿のようにしてシェアハウスを探しているという図だった。

で、実際にいくつかの良さそうなシェアハウスに電話をかけて、内覧にも行っていた。

「モナッシュ大学の学生を想定してたんだ。君みたいなパートタイマーはちょっと…」

とか、

「コイツはシェアメイトのジミー。こっちはネコのタイガー。ジミーの歯を見ろよ、コーヒーに砂糖6杯入れるんだ。虫歯だらけだぜ?タバコ吸うの?へー、日本のタバコ?1本…あッ、ありがとう!へー、キツいな!エッWinnie Redと同じ強さ⁉︎ワー。 ウン、部屋に鍵はかからないよ、でも気にすんな」

とか、

「プレストンは治安が悪いとか言うヤツがいるけど気にすんな。オレたち黒人は、表面上は差別を受けることはないようになってるかもしれないが、そこはやはり白豪主義だぜ…」

みたいな感じで、なかなかヨッシャここに決めた!といきづらいのが現実で、結局、最寄り駅はゾーン2のクレイトンだけど、職場にはスケボーで15分くらいの場所のシェアハウスに入るコトになった。

そんなワケで、仕事もシェアハウスも、意外なほどにトントンと決まり、順風満帆に私のワーホリ生活のワーキングの部分が始まった。

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