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【WFS編集部がお届け!】続・ユースオリンピックに見た日本フィギュア界の明るい未来
今回も、前回に引き続き、今年1月にローザンヌで開かれたユースオリンピック取材のこぼれ話をお届けします!
前回のユースオリンピック試合レポートと鍵山優真選手のインタビューはこちら↓
刺激とエールを送り合うチームジャパン
今大会に臨んだのは、男子シングルの鍵山優真選手、女子シングルの河辺愛菜選手、アイスダンスの吉田唄菜選手&西山真瑚選手という顔ぶれのチームジャパンでした。他競技の選手と一緒の結団式や開会式など、ジュニアグランプリでの日本代表とは少し違った緊張とワクワクがあったと口々に話していた4人。
発売中の「ワールド・フィギュアスケート」88号では、ローザンヌで行った4選手のチームジャパンスペシャル座談会を掲載しています。今回初めてチームジャパンとして集まった4選手ですが、お互いへのリスペクトや仲の良さが会話の節々から感じられる楽しいトークを繰り広げてくれました。西山選手のお兄さんらしさも必見。ぜひチェックしてみてください。
座談会でも話題に上がったのですが、大会期間中はお互いの演技を客席から欠かさず応援していた4人。「がんばー!」と声を張ったり、日の丸を精いっぱい振ったりと応援もつねに全力でした。個人戦最後の競技となった女子シングルフリーでは、鍵山選手、吉田選手、西山選手が、客席で日の丸を手に、いつも通り全力で河辺選手を応援!
近くでは男子シングルの韓国代表チャ・ヨンヒョン選手らも観戦していたのですが、競技後、韓国のユ・ヨン選手の優勝が決まると日本の3選手も一緒になって韓国の国旗を振って笑顔で祝福していました。氷上では思い切り切磋琢磨し、終われば手を取り合ってお互いを称え合う選手たち。そんな姿にこれぞオリンピック、これぞアスリートだ、と心が温かくなりました。
(後列左が韓国代表チャ・ヨンヒョン選手、右は応援に来ていたスキーマウンテニアリングの韓国代表イム・ヒョシン選手)
女子シングル4位、河辺愛菜選手
今回、ローザンヌに集まった観客は、熱心なスケートファンというよりも、ユースオリンピックという機会にフィギュアスケートを楽しんでみたいという地元の方たちでした。子どもたちが多く招待されていることもあり、大技が決まるとわあっとにぎやかな大歓声。熱心で素直な反応に、選手も楽しかったのではと思います。
そんななか、女子シングルの試合でひときわ大きな歓声を受けていたのが、河辺愛菜選手です。SPは、飛距離のある大きなコンビネーションジャンプを決める爽快な演技。会心の出来で自己ベストを更新し「もう、めっちゃうれしかったです!」と満面の笑みを見せてくれました。
フリーでは6分間練習からトリプルアクセルを成功させ、本番でも回転不足はあったもののしっかりと着氷。フリーだけなら3位、総合4位という健闘でした。それでもフリー後は、3ルッツでの転倒や表彰台を逃したことが悔しそうだった河辺選手。彼女の向上心の強さを改めて感じる場面となりました。
河辺愛菜選手インタビュー
「本当のオリンピックに出たい」
(c)Joe Toth for OIS
―― フリーを終えて、いまの気持ちはいかがですか。
河辺 ルッツで失敗してしまったのと、回転不足があったので、そこがすごく悔しいです。ルッツは、アクセルのあとだとすごく力の入れ方とかが難しいので、その力加減のところはもっと練習して慣れていかないとなと思いました。
―― 緊張感が大きかったのでしょうか?
河辺 「ショートよりいい演技をしないと」というのが大きくて緊張したんですけど、それでもいい演技ができないといけないと思うので、そこは直していかないとなと思います。
―― トリプルアクセルは最初に降りた全日本ジュニア選手権から、全日本選手権、今大会と大きな試合で3大会連続降りていますが、感覚はつかめてきましたか。
河辺 6分間(練習)のあとに時間が空いてから跳ぶというのは少し跳べなかったときもあったんですけど、でも6分練習のあとの過ごし方で跳べるようにイメージするのは慣れてきたかなと思います。3大会で降りられたことはけっこう自信につながりました。
―― “ユースオリンピック”という大会はいかがでしたか。
河辺 ショートで自分のいちばんいい点を出しても上にいけなかったりとかあったので、もっと練習しないと、実力不足だなというのはありました。安定感がないと細かいミスがあると点数が出なかったりとかがあるので、ちゃんとショート、フリーをそろえられるようにすることと、あとスピンをもっとうまくしていきたいです。
―― 世界の同世代のなかでの戦いはどんなふうに感じましたか。
河辺 全然点数も足りなくて、表彰台も全然届かないと思うので、もっと練習しないと戦えないんだなというのは思いました。このなかでもアクセルで立てたことはすごくいいことだと思うので、世界ジュニアでもちゃんとアクセルを降りて、ほかのジャンプでミスがないようにしていきたいなと思います。
―― オリンピックマークが至るところにある大会でしたが、実際のオリンピックを想像できたのでは?
河辺 他の試合とは違う雰囲気で、本当のオリンピックに出たという気持ちはあるので、もっと練習してオリンピックに出られるようにがんばりたいです。
(2020年1月13日、ユースオリンピック女子フリー後に取材)
アイスダンス6位、団体金メダル
吉田唄菜&西山真瑚組
この1年、チームジャパンにとってもっとも明るいトピックのひとつがこの2人の登場でした。ジュニア・アイスダンスでの吉田唄菜&西山真瑚組の登場です。
西山選手はシングルスケーターとしてノービス時代から全日本ノービス選手権の表彰台に上がるなど活躍し、2017年からは憧れの羽生結弦選手の背中を追って練習拠点をトロントのクリケットクラブに変更。2018年の平昌オリンピック以降はクラブでアイスダンスを指導するアンドルー・ハラムコーチの勧めで、シングルと並行してアイスダンスに取り組み始めます。
吉田選手は、岡山の有川梨絵コーチのもとでスケートを始めたころからシングルとともにアイスダンスの指導も受け、2017年にはアイスダンスで全日本ノービス選手権優勝。
2人は、トライアルを経て2018年にチームを結成し、2019年の夏にカナダの大会でチームとして競技会デビューしました。
ジュニアグランプリ2戦で活躍後、11月の西日本選手権で国内のファンに演技をお披露目。明るいオーラを振りまきながらのびのびと踊る2人は、すぐにアイスダンスのホープとして活躍が期待されるようになりました。
ユースオリンピックでの活躍は、その期待をさらに膨らませるものでした。とくにフリーダンス「ドン・キホーテ」で見せた溌溂とした演技は、息ぴったりのツイズルや気持ちよく音楽に乗った踊りなど見どころも多く、パーソナルベストを出す好演。最終順位は6位でしたが、表彰台まで3.43点という接戦でした。
演技後は、達成感とともに接戦ゆえの悔しさもそろって語っていました。初の大舞台でも貪欲に上を目指した2人は、その2日後、NOC混合団体戦のフリーダンスで、個人戦のメダリストたちを抑えてトップに立ち、チームを金メダルに導く大活躍を見せてくれました。
吉田唄菜&西山真瑚組インタビュー
「日の丸の重さが違った」
(c)Jed Leicester for OIS
―― 素晴らしいフリーダンスでした。演技の感想はいかがですか。
吉田 内容的にもいままででいちばんいい演技ができたのですごくうれしいんですけど、アメリカとかカナダのチームに勝ちたいという気持ちがあったので少し悔しいです。
西山 今日は本当に大きいミスなく終えることができて、楽しんでできたので、自分としてはとてもうれしいんですけど、ほかのチームに勝ちたいという気持ちもあったので、ちょっと悔しい気持ちもあり、でも楽しめました。
―― 演技が始まる前は2人でどういう話を?
西山 こういうオリンピックのような経験は滅多にできないので、とにかくこの空気感を楽しもうと話していました。
―― 緊張感はいつもと違いましたか。
吉田 若干違ったんですけど、6分間(練習)のときにこけちゃったので、そこで全部緊張はなくなりました。
―― 地元の子どもたちもたくさん見に来ていて会場がものすごく盛り上がっていましたが、会場の雰囲気はいかがでしたか。
西山 ここのリンクは、リズムダンスのときも今日も本当に温かくて、とても滑っていて気持ちよかったです。
吉田 すごく盛り上げてくださって、自分たちも滑っていて気持ちよかったのでありがたいです。
―― パトリック・チャンさんも会場でリズムダンスを見て、日本のアイスダンスチームが素晴らしかったと話していましたよ。
西山 うれしいです。こうやってジャッジの方だったり、メディアの方だったり、ファンの人がすごく自分たちのことを注目してくださって盛り上げてくださっているので、自分たちも本当にうれしいですし、その方たちのためにも、応援に応えたいなと思っています。
―― フリー「ドン・キホーテ」を振付けたロマン・アグノエルさんからは、振付けたあとにも何かコメントはありましたか。
西山 自分たちのメインコーチのアドルー・ハラム先生がロマン・アグノエル先生の一番弟子なので、アンドルー先生を通じていろいろ、大会の結果を報告してくれたり、そこでコンタクトはあったみたいです。ぼくたちはあんまり聞けなかったんですけど。
―― 今回はクリケットクラブのチームメイトとも同じ大会でしたが、一緒に戦ってみていかがでしたか。
吉田 こんな大きい大会にチームメイトと一緒に来られるのはうれしいことだし、ずっと一緒に練習してきて、一緒にがんばろうとなれたのですごくよかったです。
―― カナダのダレッサンドロ&ワデル組はお2人のことを楽しいチームメイトだと言っていました。
西山 うれしいな。(笑)
―― ロールモデルアスリートたちの話を聞く教育プログラム“チャット・ウィズ・チャンピオン”にも参加していましたが、いかがでしたか。
西山 難しい英語もあってちょっとわからないところもあったんですけど、いろいろオリンピックの経験談を聞けたりしたので、より本当のオリンピックに行きたいなと思えるようになりました。
吉田 私もオリンピックの感想とか、パトリック・チャンのヒーローだったりも聞けたのですごくいい機会でした。
―― このあとの練習プランについても教えていただけますか。
西山 とりあえず今回、うれしいこともあったけど、レベルの取りこぼしだったり、ちょっとしたミスがあったので、そこをしっかり次の大会とか、世界ジュニアまでに直していきたいなと思っています。
―― ジュニアグランプリにも出ていましたが、“オリンピック”とつく大会で日の丸を背負って戦うのはまた違っていましたか。
西山 なんか日の丸の重さがちがったというか。ジュニアグランプリでももちろん日本代表としての責任感を持って出場していたんですけど、結団式だったり、日本代表としての行動をみんなとしていて、自分たちは本当に日本代表として選ばれたんだなといううれしさと、さらに責任感をすごく感じることがありました。
吉田 いつもはスケートの子たちだけで(大会に)行ったりするんですけど、今回はいろんなスポーツの子たちも一緒にいて、さらに日本代表という感じを感じられたので、そのなかで自分たちが日本代表として出られたことがすごくうれしいです。
―― アイスダンスは、2020‐2021シーズンから高橋大輔選手が転向を発表したことでも注目されていますが、お2人はどういうふうに感じていますか。(※高ははしごだか)
西山 高橋大輔さんは本当にフィギュアスケートの、とくにシングル男子をここまで人気にした先駆者の先輩だと思うので、その方がアイスダンスを始めてくれるということで、もっとアイスダンスも注目されて人気が出てくると思うし、自分たちにとってはすごくありがたいなと。もっと盛り上げてほしいなと思っています、アイスダンス界を。
吉田 すごく有名な方なのでアイスダンスを始めてくださって、アイスダンスがもっと有名になって、そこに自分たちも乗っかっていって、たくさんの人に知ってもらえたらうれしいです。
―― 西山選手はシングルと両立していますが、アイスダンスをやろうと思ったきっかけは?
西山 まずアイスダンスを始めたきっかけとしては、いまのアイスダンスのメインコーチであるアンドルー先生に平昌が終わったあとに、「日本の団体戦をもっと強くするためにはカップル競技がもっと強くないといけないから、もし真瑚がやったらすごくいいんじゃないか」と言っていただいて。それでカナダのクリケットクラブではシングルとアイスダンスを両立している選手がいるので、そういうのを見て自分も両立できるかなと思って二刀流を始めました。
―― 吉田さんは、西山さんと組んでみていかがですか。
吉田 最初にトライアウトしたときは、初めてなのでなかなかできなかったんですけど、ちゃんと練習し始めてからは2人ですごくどんどん上達していけて。すごく組みやすくていいパートナーに巡り合えたなと思っています。
―― クリケットクラブでは羽生結弦選手ら強豪選手たちが練習していますが、クラブではどんなふうに刺激を受けていますか。
吉田 あまり羽生選手と関わる機会はないんですけど、アイスダンスのカナダのトップ選手とかと一緒に練習できるので、すごく刺激ももらえます。本当に上手なので、上手なところを盗んで自分たちも真似してやっています。
―― クリケットクラブは、ダンスのレッスン場などもあって施設も充実しているそうですね。
西山 そうですね。フィットネスルームなどもあるので、練習終わったあとにわざわざ移動しなくてもすぐその場でトレーニングができるのはすごく本当に助かります。
―― クリケットクラブではアイスダンスチームは何組練習しているんですか。
西山 ジュニアは3チームで、ノービスが1チームぐらいいるんですけど、ジュニアの2組はカナダ代表で活躍している選手たちで、すごく練習していてい刺激が得られます。
―― 世界ジュニア選手権での目標を聞かせてください。
吉田 とにかくいままで練習してきたことを全部出しきって、後悔のないような演技がしたいです。
西山 今回戦ってみて世界の壁をよりちょっと強く感じたんですけど、逆に戦ったことによってもっと上を目指していきたいなと思えてたので、自分たちの演技をして、そのうえで結果がついてくればいいなと思っています。
(2020年1月13日、ユースオリンピックフリーダンス後に取材)
今回、ユースオリンピックの取材では、各国の記者たちから「中国で報道したいんだけれど、ユウマの名前の漢字を教えて」「いまの日本語のインタビューでユウマはなんと言っていたの?」と声をかけられたり、パトリックらロールモデルアスリートに競技の感想を聞くと真っ先に「日本のアイスダンスチームが素晴らしかった」と答えをもらったり、出場選手たちへの取材では「マナのトリプルアクセルから刺激をもらっている」という話が出てきたりと、日本の選手たちの活躍を、目で見て感じるとともに、さまざまな角度から実感することができました。今回活躍した4選手はもちろん、日本のジュニア世代の選手たちが、ユースの枠を超えて世界へ羽ばたいていく未来が想像され、その活躍がいっそう楽しみになったローザンヌの取材でした。
発売中の「ワールド・フィギュアスケート」88号のユースオリンピック特集では、日本の4選手はもちろん、各国のユース選手たちの活躍をコメント盛りだくさんで紹介しています。ぜひこの機会に未来のスターたちを見つけてみてください。
ユースオリンピック取材こぼれ話拡大版は今回で最終回です。次回WFSnoteの更新もお楽しみに!