年齢に応じた話題

「自分の価値観を子どもに問いかけることについてどう思うか」という相談が寄せられた。私は、要らないかな、と思う。私は、私の価値観を子どもに評価してもらおうという気もないし、子どもに参考にしてもらおうとも思わない。そもそも、子どもに問いかけなくても子どもはよく観察しているし。

私は幼児から小中高、大学生まで指導したことがあるという貴重な体験をさせてもらったけれど、それで感じるのは、「大人の話を聞くことができるのは高校生になってから」ということ。中学生までは、大人の話を聞きたがらない子がほとんど。

中学生までは、どうも生理学的な理由があるのか、社会の仕組みとかそんなのにはあまり興味がない。それよりは異性のことが気になったり、自分の性の変化に戸惑ったり、それでいて受験もあったり、部活もあったり。身近なことで精いっぱいで、世の中の仕組みにあまり興味がない子がほとんど。

高校生になると、急に大人の話題に入って付き合うことができるようになってくる。自分から混ざってきたりもする。世の中の仕組みの話にも興味が湧く。卒業したら働くかも、ということも視野に入るからかも。でも何より、第二次性徴が落ち着くという点もあるのだろう。

だから、年齢によって話を聞く力が違うというか、そもそも興味のあることしか耳に入ってこないのだから、その子の年齢に応じた接し方、話す内容が必要。いや、何より、小学校までは子どもの話を聞くことが優先。親が話して聞かせるよりは、子どもの話を聞いたほうがよいように思う。

中学生までは社会の仕組みにさして興味がないのだが、小学生と違って、少し話ができることはやはり出てくる。特に強く反応するのは、大人になる、ということ。そしてミッション(使命)。このあたりの話題になると、真剣さがグンと上がる。

男子中学生に「もし将来恋人ができて、不良に絡まれたら先に女の子を逃がし、自分はタコ殴りにされても守り抜くことが大切。君はその覚悟ができるか?」という話をすると、大概の子は目が燃える。中学生男子は、そういう使命を帯びた話に強く反応する傾向がある様子。

女子中学生は、もちろん個性があるので全員ではないが、子どもを産むという話に強く反応し、子どもを産み、育てるとはどういうことか、という話をすると、大概の子は目が真剣に光る。「これまでは守られる側。でもこれから君は守る側に変わる」というと、とても真剣な目をする。

中学生の子には、「これまでは子どもだった。しかしこれから君たちは大人になる。そして守られる側から守る側に変わる。その時、ただ体力だけでは大切な人を守ることはできないよ。だから学ぶんだ。学校の勉強だけではなく、社会の仕組みのことも、人の心も。それを一つ一つ学んでごらん」と話す。

中学生には、まだ個別具体的に世の中の話をしてもピンとこないことが多い。そうした話を受け止めるだけの知識がなく、それがどれだけ重要なことかを理解するだけの知的ネットワークができていない。だから中学生の場合、「大人になるということの覚悟」という話をするにとどまりがち。それでも。

いずれ自分が守る側になる、それが大人になること、と考えるようになると、急に物事の見え方が変わる。お父さんお母さんが口やかましくいうから仕方なくやるとか、逆に言われるからやりたくない、とかじゃなく、自分が大人になるためには何が必要か、という思考が動き出す。能動性が生まれる。

「君はどんな大人になりたいのか?それは君自身で考えればいい。ただ、自分のためだけでなく、守るべき人を守れるだけの強さを身に着けるように。力を、誰かを助けるために使えるように。そのためには身体も、知力も鍛える必要があるんだよ」と話すと、中学生くらいには真剣に耳を傾けるようになる。

高校生になると、具体的な世の中のことにも興味を持ちだす。「連帯保証人になることは非常に危険。それをするくらいなら、お金を上げたほうがマシ」というような話にも、高校生は興味を持ちだす。自分が社会に出た時、どんな知恵を持てばよいのか、ということに興味が湧いているから。

このように、小学生、中学生、高校生のそれぞれで、ふさわしい話題というか、接し方というのはあると思う。けれど、自分の価値観を問いかけるって、意味あるのかなあ。所詮、自分の価値観だって多くの人の価値観の一つ、one of themでしかないし。

自分の価値観を問いかける、というのは、たぶんだけど、自分の価値観を誰かに強く刻印したい、という欲望が隠れているように思う。これは自分の信徒を作ろうとするようなもので、むしろ子どもから思考力を一定量損なうことになるので、私はやめておいたほうがよいように思う。

問いかけなくても、子どもは親の日常に接し、親がどう考えているのかはだいたいお見通し。価値観をわざわざ言葉にして問いかけるのは、言葉という粉飾をして伝えることになるので、かえって子どもにはええかっこしい、という印象を与える恐れがある。

親の独りよがりで価値観ぶつけるよりも、今、目の前の子どもが、どんな情報を受け取れる年齢になっているのか、やがて社会に出ていくとき、どんな力を身に着けていたらいいのか、そのためにどんな話に触れておいたほうがよいのか、それを考えて話して聞かせるのがよいのかもしれない。

自分の話したいことを聞かせるのではなく、今の子どもが成長に必要とするであろう話を。親の側の独りよがりではなく。子どもをよく観察し、話す内容を考えることが大切なのかな、と思う。

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