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「都会の仮面」 100日間チャレンジ1日目

今日の言葉:
「三人行えば必ず我が師有り」孔子

私は外回りから帰ってきた。12月の寒さも少しづつ厳しくなってきた。事務所に戻ると彼はこっちを見ることもなくじっと音楽に耳を傾けていた。まるで神父の言葉を聞いてるかのように、姿勢正しく座っている。彼が椅子の背もたれに寄りかかっている所を、私はかつて一度も見たことがない。ドビュッシーの「沈める寺」は彼がよく事務所で流しているので、すっかり覚えてしまった。

音楽が終わると、彼はまるで一つの荘厳な儀式が終わったかのように、静かにコーヒーを飲み始めた。

「君が言っていたあの解剖学者の記事を読んだよ。都会の人はしかめっ面をしている人が多いという記事だ。逃げる場所がないからあんな表情になってしまう。そしてその深層心理は損をしたくないからだと。君はどう思うかい?友よ。」
彼は時々私のことを友と呼ぶ。
「ああ、あの記事だね。なかなか興味深い内容だっただろう。もし仮にその解剖学者の言っていることが本当だとしたら、人々は無意識にしかめっ面をしているという事になる。そうだね?しかもその表情っていうのは流行りがあるらしいじゃないか。今は都会の人口も昔に比べ格段に増えた、だからそうなるべくしてしかめっ面になったとも言える。何だか虚しさを感じるよ、その右ならえの表情に。みんながしかめっ面をしている、だから自分も何故だか分からないけどしかめっ面になる。損をしたくないからだ。ミラーニューロンの出番を待つまでもない。」
「ミラーニューロン?そうだな、我々も是非気をつけようじゃないか。プログラムされ自動的に反応するロボットの様にはなりたくないからな。」

私はまだマフラーを首に巻いていた事に気づいた。

「友よ、そう言えばnoteは有料会員にならないと予約投稿できないんだな。」
彼はわざとらしくしかめっ面で言った。
「ああ、そうだったな。あの勝負は私の勝ちかもしれないな。」
私はわざとらしくニヤリとして答えた。