#金融が脱グローバル化の圧力を免れている理由 #FinancialTimes #世界では貿易が縮小し鉱工業生産指数が下がりサプライチェーン供給網の解体が進んでいる。だが、金融は米国と中国の貿易摩擦の影響を比較的受けていないばかりか、脱グローバル化の強力な圧力さえも免れているようだ。
なぜこのようなことが起きているのだろうか。
Financial Times
世界では貿易が縮小し、鉱工業生産指数が下がり、サプライチェーン(供給網)の解体が進んでいる。だが、金融は米国と中国の貿易摩擦の影響を比較的受けていないばかりか、脱グローバル化の強力な圧力さえも免れているようだ。なぜこのようなことが起きているのだろうか。
金融市場で脱グローバル化が一切起きていないと言い切るのは状況を単純化しすぎている。米シンクタンクのマッキンゼー・グローバル・インスティチュートの研究によると、世界の国境を越えた資金移動はピークだった金融危機前の2007年の12兆4000億ドル(約1340兆円)から、16年には4兆3000億ドルに減少した。もっとも、その大半は銀行間市場などでの銀行融資だった。欧州連合(EU)のユーロ圏の銀行だけで減少分の半分を占めている。
金融は米中貿易戦争の影響を免れているが、今後も続く保証はない=ロイター
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金融は米中貿易戦争の影響を免れているが、今後も続く保証はない=ロイター
■世界中で増加した外国投資家の保有率
銀行は採算が見込めずリスクも高いことが多い海外事業の縮小や、融資の減少、資産の処分により自己資本比率を再び高めることで、金融危機に対処した。だがこれは広範な脱グローバル化というよりは、景気循環に伴う過剰債務の圧縮(デレバレッジ)にあたると国際決済銀行(BIS)のエコノミストは指摘する。
逆方向への大きな流れもあった。日本の銀行は国内市場の需要低迷と低金利に促され、融資の機会を求めて海外に目を向けている。マッキンゼーの研究では、日本の銀行の海外資産は07年の2兆3000億ドルから16年には3兆9000億ドルに増えた。
証券市場は依然として完全にグローバル化されている。経済協力開発機構(OECD)が最近発表した世界の株式保有に関する研究では、英国での外国人の公開株式保有比率は1981年の4%から17年には54%に増えたことが明らかになった。他の先進国も同様だ。日本ではほぼ同期間に3%から30%に増加し、市場規模がはるかに大きい米国でも5%から15%と3倍に増えた。
外国人の株式保有比率がなお高く、国境を越えた資金移動もひき続き活発だからといって、その理由が健全とは限らない。主要国の中央銀行による大幅な金融緩和策が数年間続いたため、超低金利やマイナス金利で投資ポートフォリオは壊滅的な打撃を受けた。歴史的な高リターンを保証してきた保険会社などの機関投資家は、少しでも高い利回りを求めて為替リスクやより高い信用リスクをとらざるを得なくなっている。
投資家は割安で低金利の通貨を借り入れて高金利の通貨で運用しているため、「キャリートレード」は驚くほど増えている。金融危機の記憶が薄れるにつれ、各国中銀の資産買い入れ策の主な影響は、評価額がかさ上げされているように思える市場で投資家にもっとリスクをとるよう後押しすることになっている。
国境を越えた資金移動の実態は様変わりしつつある。これまで活発だった海外直接投資(FDI)は19年1~6月期に著しく減少し、貿易戦争による不確実性の高まりを映し出した。米ボストンコンサルティンググループのリポートによると、18年の海外M&A(合併・買収)の総額は前年比45%増と記録的な1年となったが、19年には減速が鮮明になっている。
■中国への投資資金流入は続く見込み
一方、銀行・証券市場では、国境を越えた資金移動が今後も堅調が続くと考えるに値する理由がある。特に大きいのは中国の状況だ。中国の四大銀行の海外融資額は07年の860億ドルから16年には1兆ドルへと10倍以上増えた。マッキンゼーのリポートでは、先進各国の銀行では資産全体に占める海外資産の割合が20%以上であることが多いのに対し、中国の銀行では9%にすぎないため、さらなる成長の余地があるとみている。
しかも、世界の株価指数の算出企業が新興国株指数に採用している中国株の組み入れ比率を引き上げているため、投資資金の流入は増えるだろう。中国当局も外国人投資家に市場を開放する策を相次いで打ち出している。実際、中国人民銀行(中央銀行)は海外投資家が中国本土の株式や債券に自由にアクセスできるようにする準備を進めている。
もっとも、欧米の株価指数連動型(インデックス)ファンドの投資家は注意すべきだ。中国政府はここ数年の積極的な融資拡大から国内金融システムの過剰債務の圧縮(デレバレッジ)にかじを切りつつあるため、中国の金融機関は新たに資金を調達する圧力にさらされている。インデックスファンドは発行体の指数組み入れ比率を維持するために、相応の株式の吸収を余儀なくされるだろう。
さらに、高利回りを求める動きが長引くほど、世界の金融システムにリスクが蓄積し、金融危機が再発する可能性が高まることを投資家は認識しなくてはならない。
■トランプ政権は中国への投資阻止へ動くか
最後の疑問は投資資金が貿易摩擦の影響を免れる状況が今後も続くかどうかだ。ベテラン中国ウオッチャーのフレイザー・ハウイ氏とロジャー・ガーサイド氏は7月、Nikkei Asian Reviewへの寄稿で、トランプ米政権は米金融機関に中国企業への投資を制限させる権限を持っており、中国の銀行によるドル決済市場へのアクセス権を拒否することを検討する可能性もあると指摘した。そうなれば、貿易戦争は新たな段階に入ることになる。金融も泥沼に引きずり込まれるかもしれない。